結晶格子:粒子数・充填率・密度を単位格子から導く

体心立方格子(BCC)と面心立方格子(FCC)について、境界の粒子の数え方と原子が接する方向から、半径・充填率・密度を計算する。

この単元の目標
  • 単位格子の頂点・面・内部にある粒子の寄与を区別して数えられる
  • BCCとFCCの接触方向から格子定数と原子半径の関係を導ける
  • 充填率と密度の違いを説明し、それぞれを単位格子から計算できる
  • 長さを体積へ換算するときに単位の3乗を正しく扱える
📑 目次
  1. 1.結晶を繰り返しの箱として見る
  2. 2.境界上の粒子を何個分と数えるか
  3. 3.BCC:体対角線で原子が接する
  4. 4.FCC:面対角線で原子が接する
  5. 5.充填率は体積の割合、密度は質量の割合
  6. 6.単位格子の質量をモルから求める
  7. 7.練習:数える、接触方向、単位の順に確認

1.結晶を繰り返しの箱として見る

結晶では原子・イオン・分子などが規則的に配列しています。その繰り返しを表す箱が単位格子です。ここでは単一元素の金属結晶を、同じ半径rの硬い球が重ならず並ぶモデルで考えます。立方体の単位格子の一辺aを格子定数と呼びます。厳密には格子は周期性を表す点の集まりであり、各点にどの粒子を置くかという構造と区別します。

BCC・FCCでは、対称性が見やすい通常の立方体の単位格子を使います。これは必ずしも最小体積の繰り返し領域ではありません。以下の粒子数2個・4個は、この立方体を選んだ場合の値です。空孔・不純物はないものとし、表面の効果を無視できる大きな結晶を扱います。

2.境界上の粒子を何個分と数えるか

隣の単位格子も同じ粒子を描くため、図に見える球の個数をそのまま足すと二重に数えます。頂点の球は8つの立方体で共有するので1個あたり1/8個分、面の中心の球は2つで共有するので1/2個分です。球を実際に切断するという意味ではなく、1つの箱に割り当てる量を計算しています。

中心の位置共有する単位格子の数1つの単位格子への寄与
頂点81/8個分
辺の上(頂点以外)41/4個分
面の上(辺以外)21/2個分
内部11個分
NBCC=8×18+1=2,NFCC=8×18+6×12=4N_{\mathrm{BCC}}=8\times\frac18+1=2,\qquad N_{\mathrm{FCC}}=8\times\frac18+6\times\frac12=4

BCC(体心立方格子)は8頂点と立方体の中心に原子があり、FCC(面心立方格子)は8頂点と6つの面の中心に原子があります。以後Nは「1単位格子に属する原子数」です。配位数は「ある1原子に最も近い原子の数」で、別の量です。BCCの配位数は8、FCCは12であり、Nの2や4と取り違えないようにします。

3.BCC:体対角線で原子が接する

🔍 体対角線を半径で表す

  1. 立方体の対角線
    d面=2a,d体=a2+(2a)2=3ad_{\text{面}}=\sqrt2a,\qquad d_{\text{体}}=\sqrt{a^2+(\sqrt2a)^2}=\sqrt3a

    体対角線はある頂点から、空間を横切って反対側の頂点へ結ぶ線。

  2. 接触している並び
    d体=r+2r+r=4rd_{\text{体}}=r+2r+r=4r

    頂点の原子中心→体心の原子中心→反対側の頂点の原子中心という並び。中心間距離2rが2区間ある。

  3. 半径と一辺
    3a=4r⟹r=34a,a=4r3\sqrt3a=4r\quad\Longrightarrow\quad r=\frac{\sqrt3}{4}a,\qquad a=\frac{4r}{\sqrt3}

    辺に沿った頂点間距離aは2rより大きい。辺上では原子は接していない。

4.FCC:面対角線で原子が接する

🔍 1つの面だけを見ればよい

  1. 面の中の並び
    d面=2a=4rd_{\text{面}}=\sqrt2a=4r

    頂点→面心→対角の頂点と結ぶ。ここでも中心間距離2rが2区間ある。体心に原子はない。

  2. 半径と一辺
    r=24a,a=22rr=\frac{\sqrt2}{4}a,\qquad a=2\sqrt2r

    原子数が多いことだけから半径は決まらない。どの方向で球が接しているかを特定する。

例題1:同じ一辺でも原子半径は違う

仮想的なBCC結晶とFCC結晶が、どちらも格子定数a=0.400 nmをもつ。接触球モデルで各原子半径を求めよ。

解答・解説

BCCはr=√3×0.400/4=0.173205… nmより0.173 nm。FCCはr=√2×0.400/4=0.141421… nmより0.141 nm(各3桁)。同じ一辺に入る原子数はFCCの方が多いが、この比較では球自体が小さい。別の結晶どうしを一辺一定で比べた設定であり、同一原子の半径が自由に変わるという意味ではない。

5.充填率は体積の割合、密度は質量の割合

充填率ηは、単位格子の体積a³のうち球の体積が占める割合です。球1個の体積は4πr³/3なので、これを単位格子に属する原子数N倍します。境界の球も寄与の割合を掛けて足せば同じ結果になります。ηは単位を持たず、百分率で表すには100を掛けます。

η=N(4πr3/3)a3\eta=\frac{N(4\pi r^3/3)}{a^3}

🔍 充填率を半径が消える形にする

  1. BCCを代入
    ηBCC=2(4πr3/3)(4r/3)3=3π8≃0.680\eta_{\mathrm{BCC}}=\frac{2(4\pi r^3/3)}{(4r/\sqrt3)^3}=\frac{\sqrt3\pi}{8}\simeq0.680

    約68.0%。球の半径を同じ倍率で変えると箱の一辺も同じ倍率で変わるので、割合は一定。

  2. FCCを代入
    ηFCC=4(4πr3/3)(22r)3=π32≃0.740\eta_{\mathrm{FCC}}=\frac{4(4\pi r^3/3)}{(2\sqrt2r)^3}=\frac{\pi}{3\sqrt2}\simeq0.740

    約74.0%。同じ大きさの球の最密充填の1つ。六方最密構造も同じ充填率だが、積み重ね方が異なる。

充填率の残りを「実物には何もない空間」と断定しないでください。原子の電子分布に硬い境界はなく、この値は球モデルの幾何学的な指標です。また充填率が高い結晶ほど密度が必ず高いわけではありません。密度は原子1個の質量と格子定数にも依存します。

6.単位格子の質量をモルから求める

🔍 密度の式を作る

  1. 原子1個の質量
    m原子=MNAm_{\text{原子}}=\frac{M}{N_A}

    Mは元素のモル質量、N_Aはアボガドロ定数。Mをg/mol、N_Aをmol⁻¹で表せば質量はgになる。

  2. 単位格子の質量と密度
    m格子=NMNA,ρ=m格子a3=NMNAa3m_{\text{格子}}=\frac{NM}{N_A},\qquad \rho=\frac{m_{\text{格子}}}{a^3}=\frac{NM}{N_Aa^3}

    密度ρをg/cm³で求めるならaはcmに直す。kg/m³で求めるならMをkg/mol、aをmにそろえる。

  3. ナノメートルの換算
    1 nm=10−7 cm,1 nm3=10−21 cm31\,\mathrm{nm}=10^{-7}\,\mathrm{cm},\qquad 1\,\mathrm{nm^3}=10^{-21}\,\mathrm{cm^3}

    長さの換算係数を3乗する。体積を10⁻⁷倍とするのは誤り。

例題2:FCC結晶の密度

架空の単一元素XはFCCで、格子定数a=0.400 nm、モル質量M=60.0 g/molとする。N_A=6.02×10²³ mol⁻¹として密度を求めよ。

解答・解説

N=4。a=4.00×10⁻⁸ cmなのでa³=6.40×10⁻²³ cm³。単位格子の質量は4×60.0/(6.02×10²³)=3.9867…×10⁻²² g。密度は3.9867…×10⁻²²/(6.40×10⁻²³)=6.2292… g/cm³より6.23 g/cm³(3桁)。分母は球4個の体積ではなく、すき間も含めた単位格子の体積。

例題3:測定量から原子数を逆算する

架空の単一元素Yは、密度7.50 g/cm³、格子定数0.300 nm、モル質量61.0 g/molである。完全なBCCまたはFCCのどちらかと仮定して判定せよ。N_A=6.02×10²³ mol⁻¹とする。

解答・解説

N=ρN_Aa³/M。a³=(3.00×10⁻⁸)³=2.70×10⁻²³ cm³なのでN=7.50×6.02×2.70/61.0=1.99844…≒2。丸めの範囲でBCCに対応する。値が2と4の中間なら勝手に近い方へ決めず、仮定・単位・測定の精度を確認する。一般の未知結晶は密度だけで構造を一意に決められず、ここでは候補を2つに限定している。

項目BCC(体心立方格子)FCC(面心立方格子)
通常の立方体内の原子数N24
最近接原子の数(配位数)812
接触する方向体対角線面対角線
一辺と半径の関係√3a=4r√2a=4r
充填率√3π/8 ≒ 68.0%π/(3√2) ≒ 74.0%
密度2M/(N_A a³)4M/(N_A a³)

7.練習:数える、接触方向、単位の順に確認

解答つき練習
  1. FCCの単位格子には頂点に8個、面心に6個の原子が描かれる。単位格子に属する原子数が14ではない理由を計算で示せ。

    解答・解説

    頂点は8格子で共有、面心は2格子で共有するので8×1/8+6×1/2=4個。14は共有された球をすべて1個分として数えた値で、質量計算には使えない。

  2. 接触球モデルのBCCでr=0.130 nmのとき、aを3桁で求めよ。

    解答・解説

    体対角線で√3a=4r。a=4×0.130/√3=0.300222… nmより0.300 nm。a=2rではなく、辺に沿う原子間にはすき間がある。

  3. FCCで球が占めない部分は単位格子体積の何%か。小数第1位まで求めよ。

    解答・解説

    充填率はπ/(3√2)=0.740480…なので、残りは100×(1−0.740480…)=25.9519…%より26.0%。あくまで硬い球モデルの値である。

  4. 架空のBCC結晶のa=0.400 nm、M=60.0 g/molとする。N_A=6.02×10²³ mol⁻¹を用いて密度を3桁で求めよ。

    解答・解説

    N=2、a³=6.40×10⁻²³ cm³よりρ=120/(6.02×6.40)=3.1146… g/cm³、答えは3.11 g/cm³。例題2とM・aが同じで原子数だけ半分なので密度も半分になる。

  5. 同じ原子半径rと同じモル質量Mをもつと仮定したBCCとFCCを比較する。FCCの密度はBCCの何倍か。

    解答・解説

    密度比は充填率の比に等しく、[π/(3√2)]/[√3π/8]=8/(3√6)=1.08866…より約1.09倍。Nが2倍でもaが異なるので密度は2倍ではない。この比較はr一定であり、例題1や前問のa一定とは条件が違う。

確認クイズ

問1. 通常の立方体のBCC単位格子に属する原子数はいくつか。

問2. FCCの接触球モデルで正しい関係はどれか。

問3. 格子定数0.200 nmの立方体の体積をcm³で表すとどれか。

問4. 充填率について正しい説明はどれか。

適用範囲と数値の根拠:粒子数は境界の共有、半径関係は三平方の定理、充填率は球と立方体の体積、密度は質量保存から本文中で導出しました。例題・練習の元素X・Yと数値は学習用の仮想設定で、実測値ではありません。N_Aは計算用に6.02×10²³ mol⁻¹へ丸めています。実物の格子定数は温度・圧力で変わり、異なる結晶構造への転移もあります。イオン結晶のように粒子の種類や半径が異なる場合は種類別に数え、単位格子内の質量を足し合わせる必要があり、金属のBCC・FCCの式を無条件に流用できません。
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