重合反応を追う:鎖の成長・官能基・架橋
高分子ができる過程を、付加重合の開始・成長・停止、縮合重合の官能基、共重合と架橋から説明する。天然ゴムの加硫と鎖長の分布も、結合の変化に結び付けて考える。
- 典型的なラジカル付加重合について、開始・成長・停止で何が変わるかを説明できる
- カルボキシ基とヒドロキシ基またはアミノ基の対応から、縮合でできる結合を判定できる
- 共重合による鎖の組成の変化と、架橋による鎖同士の結合を区別できる
- 天然ゴムの加硫を網目の形成として説明し、熱可塑性と熱硬化性の違いに関連付けられる
- 鎖長がそろわない理由を述べ、繰り返し単位の取り方を確認して重合度を計算できる
📑 目次
1.完成品の名前ではなく、結合のでき方を追う
重合とは、多数の単量体(モノマー)から高分子ができる反応です。本記事では材料名と原料名の対応表ではなく、どこが反応して次の結合ができるかを追います。付加重合では二重結合が鎖に取り込まれる過程、縮合重合では官能基同士の結合を中心に考えます。反応の分類と、できた材料が熱でどう変化するかの分類は別の軸です。
2.付加重合:反応できる鎖端を受け渡す
炭素間二重結合をもつ単量体の付加重合では、二重結合の一部が単位間の新しい結合へと変わり、鎖が伸びます。以下ではラジカル重合を概念モデルにします。ラジカルは不対電子をもつ化学種で、点「•」で表します。すべての付加重合がラジカルで進むわけではなく、イオンなどが関わる機構もあります。具体的な薬品や反応条件は扱いません。
| 段階 | 起こること | 着目する点 |
|---|---|---|
| 開始 | 生じたラジカルが単量体の二重結合に付加し、成長可能な鎖端ができる | 最初の単量体を取り込み、鎖の出発点を作る |
| 成長 | 鎖端のラジカルが次の単量体に付加し、新しい鎖端にラジカルが残る | 単量体を取り込むたびに、反応できる場所が鎖の先へ移る |
| 停止 | 二つの鎖端ラジカルの結合などによって、ラジカルが失われる | その鎖端では、それまでと同じ成長が続かなくなる |
Pₙ• は単量体由来の単位を n 個含む鎖の活性な末端、X は単量体に付いた置換基を表す模式記号です。上式は成長の1回分で、単位数は n から n+1 になります。単量体が一つ増えるだけでなく、次の反応に使えるラジカルが残ることが連鎖の要点です。これは電子の動きをすべて描いた機構式ではありません。
同じ単量体からできた、単位数300と500の鎖端ラジカルが互いに結合して停止した。この結合以外に単位の脱離や取り込みはないとする。生成した1本の鎖の単位数はいくつか。また、この停止だけで容器内の全反応が終わるといえるか。
解答・解説
単位数は300+500=800。二つの鎖が結合するので、もとの単位はどちらも残る。一方、この2本のラジカルが失われても、ほかに活性な鎖端や単量体があれば反応は続きうる。「停止」はまず特定の鎖端についての出来事であり、試料全体の一斉停止を意味しない。
3.縮合重合:相手の官能基を探す
縮合重合では、官能基同士の反応で小分子が脱離しながら結合ができます。ここではカルボン酸とアルコール、カルボン酸とアミンの組合せに限って、水が脱離する場合を考えます。次の式は結合1か所分の形式的な収支であり、混ぜるだけで必ず高分子ができることを意味しません。
上はカルボキシ基 −COOH とヒドロキシ基 −OH からエステル結合 −COO−ができる対応、下はカルボキシ基とアミノ基 −NH₂ からアミド結合 −CO−NH−ができる対応です。R と R′ は残りの分子部分を表します。カルボキシ基に含まれる酸素や炭素が丸ごと消えるのではなく、生成する結合にも残ります。
長くつながるには、結合した後も別の反応部位が残る必要があります。典型例は、両端にカルボキシ基をもつジカルボン酸と、両端にヒドロキシ基をもつジオールの組合せです。ジオールをジアミンに替えるとアミド結合でつながります。一つの分子にカルボキシ基とアミノ基を一つずつもつ場合にも、分子間で繰り返し結合できる可能性があります。
カルボキシ基を一つだけもつ分子Aと、ヒドロキシ基を一つだけもつ分子Bを考える。ほかに反応する部位はない。AとBの縮合だけを何度も繰り返して、高分子鎖を作れるか。結合後に残る官能基から説明せよ。
解答・解説
作れない。AとBがエステル結合を作ると、その組の唯一のカルボキシ基とヒドロキシ基が使われ、同じ縮合をさらに続ける部位が残らない。小分子のエステルができることと、重合して長鎖になることは別である。二官能性の単量体が重要なのは、結合しても鎖を伸ばす部位が残るため。
典型的な縮合重合では、単量体同士だけでなく、短い鎖同士も、末端に対応する官能基があれば結合できます。特定の活性鎖端に単量体が次々に付加する先ほどの連鎖モデルとは違い、いろいろな長さの分子同士が段階的に結合します。官能基の片方が不足すると、相手の末端が残って鎖を延ばしにくくなるので、官能基の個数を数えることが重要です。
4.共重合:一本の鎖に複数種の単位を入れる
共重合は、複数種の単量体を重合させ、同じ高分子中にそれぞれに由来する単位を含ませることです。ここでは付加重合できる異なる単量体AとBを例にします。別々に作ったAだけの高分子とBだけの高分子を混ぜても、それだけでは共重合にはなりません。混合と、同じ分子内での共有結合による組込みを区別します。
| 並び方の模式例 | 特徴 |
|---|---|
| 交互:−A−B−A−B−A−B− | AとBが交互に並ぶ |
| ランダム:−A−A−B−A−B−B−… | 規則的な繰り返しではなく、確率的に単位が並ぶ。これは短い模式例 |
| ブロック:−A−A−A−A−B−B−B−B−… | 同種の単位が連続した部分同士がつながる |
スチレンとブタジエンに由来する単位を含む合成ゴムは共重合の例です。組成だけでなく並び方も鎖の動きや性質に関わります。ただし、原料の混合割合と、できた高分子中の単位の割合が常に一致するわけではありません。単量体ごとの反応しやすさなどが関係するためです。表は配列の概念を示し、この合成ゴムがどの配列でも自由に得られると述べたものではありません。
5.架橋と加硫:鎖を伸ばす反応から、鎖を結ぶ反応へ
架橋は、鎖同士を結んで網目を作ることです。ここでは共有結合による永久的な架橋を考えます。二官能性分子を端から端へつなぐだけなら主に線状の鎖を考えられますが、三つ以上の方向へ結合できる部位が関わると、枝分かれや網目形成が可能になります。ただし、枝分かれが少しあるだけで必ず試料全体の網目になるわけではありません。共重合が「何の単位が入るか」に着目するのに対し、架橋は「鎖同士がどう結ばれるか」に着目します。
通常の熱可塑性樹脂は永久的な網目をもたず、加熱で鎖が動きやすくなって軟化・流動します。熱硬化性樹脂は硬化反応で網目が形成され、硬化後は加熱しても鎖全体が滑って溶融流動することが難しくなります。「付加重合なら熱可塑性、縮合重合なら熱硬化性」という対応ではありません。たとえば縮合重合でできる線状ポリエステルにも熱可塑性のものがあります。判定の鍵は反応名だけでなく、完成した結合のつながり方です。
天然ゴムの主成分は、イソプレンに由来する単位が主にシス型の1,4結合でつながったポリイソプレンです。鎖には炭素間二重結合が残っています。加硫では硫黄を含む橋かけが鎖間に形成され、ずれた鎖がそのまま流れ去ることを抑えます。適度な架橋のあるゴムでは、引き伸ばしてそろった鎖が、力を除くと多くの曲がった配置へ戻ろうとし、網目が全体の形の回復を支えます。これは硫黄を隙間に詰めて硬くするだけの現象ではありません。
6.重合度と分子量分布を反応の結果として読む
鎖が成長を始める時点や、成長・停止・連鎖移動の起こり方は各分子で同じとは限りません。段階的に結合する場合にも、途中にはいろいろな長さの分子が共存します。このため試料は一般に鎖長の異なる分子を含み、分子量分布をもちます。平均分子量が同じ二つの試料でも分布が同じとは限りません。ここでは平均の種類の詳しい比較ではなく、指定された一つの鎖の単位数を求めます。
n はここで定める繰り返し単位の個数(重合度)、Mᵣ は鎖の相対分子質量、Mᵣ,₀ はその単位の相対質量です。相対質量には単位を付けません。モル質量 M、M₀ を使うなら両方を g/mol など同じ単位にそろえ、割ると単位が消えます。末端の寄与を無視できる長い鎖での近似です。縮合重合では脱離した小分子を単位量に含めず、複数種の単量体からなる場合は何を1単位と数えるかを明記します。
加硫前の一本のポリイソプレン鎖の相対分子質量を68000とする。単位の組成はC₅H₈、原子量はC=12、H=1とし、末端の寄与を無視する。重合度を求めよ。
解答・解説
単位の相対質量は5×12+8×1=68。したがって n≈68000÷68=1000。逆に68×1000=68000で検算できる。この鎖には約1000個の単位があるが、試料の全鎖が同じ長さであるとはいえない。加硫後の巨大な網目を、同じ独立した一本鎖として数える計算ではない。
付加重合によりAとBが厳密に交互に並ぶ架空の鎖を考える。A由来の単位の相対質量は40、B由来は60、鎖は50000である。末端を無視して、ABという組の数と、単量体由来の単位の総数をそれぞれ求めよ。
解答・解説
AB一組の相対質量は40+60=100なので、組の数は50000÷100=500。A由来500個とB由来500個で、単量体由来の単位の総数は1000。500と1000は同じ鎖を異なる単位で数えた値である。不規則な配列の共重合体には、このような厳密なABの繰り返しを仮定できない。数値は学習用の架空設定。
ラジカル付加重合の開始・成長・停止を、「反応できる鎖端」に注目してそれぞれ説明せよ。
解答・解説
開始では単量体を取り込んでラジカルをもつ鎖端ができる。成長では単量体の取り込みとともに新しい鎖端へラジカルが受け継がれる。停止ではラジカルが失われ、その鎖端での成長が止まる。成長には、次の反応が可能な状態を保つことが必要である。
両端にカルボキシ基をもつ分子と、両端にアミノ基をもつ分子が、水を脱離して繰り返し結合する。できる結合と、両端に官能基がある意味を答えよ。
解答・解説
アミド結合 −CO−NH− ができる。一方の端が反応しても、他方の端が次の分子との反応に使えるので、長い鎖を作れる。一官能性分子だけの場合との違いである。
A由来の単位だけからなる鎖とB由来の単位だけからなる鎖を混ぜた。これだけで共重合体と呼べるか。
解答・解説
呼べない。同じ高分子分子内にAとBに由来する単位が組み込まれたとはいえず、単に二種類の高分子の混合物である。
天然ゴムの加硫で、鎖同士のずれが抑えられる理由を説明せよ。また、架橋を増やせば必ず伸びやすくなるか。
解答・解説
硫黄を含む共有結合の橋かけが鎖同士を結ぶため、独立した鎖のように流れ去りにくくなる。架橋を増やせば必ず伸びやすくなるわけではなく、密な網目では鎖の変形が制限される。
同じ単位C₅H₈をもつ加硫前の2本の鎖の相対分子質量が34000と102000である。末端を無視した重合度を各々求め、この情報だけで試料全体の分布を決められるか答えよ。C=12、H=1とする。
解答・解説
単位の相対質量は68なので、34000÷68=500、102000÷68=1500。他の鎖の長さや各長さの鎖の個数が不明なため、試料全体の分子量分布までは決められない。
問1. ラジカル付加重合の「成長」の説明として正しいものはどれか。
問2. ここで扱ったカルボン酸とアルコールの縮合でできる結合はどれか。
問3. 共重合と架橋の区別として正しいものはどれか。
問4. 硬化後の永久的な共有結合の網目について正しい説明はどれか。
問5. 末端を無視した重合度を「分子量÷単位量」で求める際に必要な確認はどれか。