反応速度のデータ読解 — 平均速度・初速度と反応次数
濃度と時間の表から平均速度を求め、条件をそろえた初速度の比から反応次数を読み取ります。反応式の係数、速度式の指数、データだけでは決まらないことを区別します。
- 濃度の減少量と時間差から、符号と単位を付けて平均消失速度を求められる
- 平均速度と初速度を区別し、有限個のデータからの推定の限界を説明できる
- 一方の初濃度が等しい行を選び、初速度の比から各成分の次数を求められる
- 反応式の係数と反応次数を区別し、速度定数の単位と予測値を検算できる
📑 目次
1.「どれだけ減ったか」を時間で割る理由
同じ距離を走っても、所要時間が短いほど速いといえます。反応でも、濃度がどれだけ変わったかだけでは速さは比べられません。変化量を時間で割って「1秒あたり」にそろえます。ここでは架空の物質A、B、Pだけを使い、与えられた表の読解を行います。実在物質の選択や実験操作は扱いません。
Aが消費されると、後の濃度から前の濃度を引いた変化量は負になります。しかし「消失する速さ」は正の量で表したいので、先頭にマイナスを付けます。角括弧[A]はAのモル濃度、上線は区間平均を表します。
| 時刻 t(s) | [A](mol/L) |
|---|---|
| 0 | 0.100 |
| 10 | 0.080 |
| 30 | 0.056 |
上表から0〜10 s、10〜30 s、0〜30 sのAの平均消失速度を求めよ。後半の消失量のほうが大きいので、後半のほうが速いといえるか。
解答・解説
0〜10 sは(0.100−0.080)/10 = 0.0020 mol L⁻¹ s⁻¹。10〜30 sは(0.080−0.056)/20 = 0.0012 mol L⁻¹ s⁻¹。後半は消失量0.024 mol/Lが前半の0.020 mol/Lより大きいが、時間が2倍なので平均では遅い。全区間は0.044/30 ≈ 0.00147 mol L⁻¹ s⁻¹。区間速度の単純平均0.0016ではなく、(0.0020×10 + 0.0012×20)/30という時間幅による加重平均になる。
2.平均速度は区間、初速度は出発点
旅行全体の平均時速と、出発直後の速度計の値は別物です。濃度と時間のグラフでも、2点を結ぶ直線の傾きが平均変化率、その時点の接線の傾きが瞬間の変化率です。初速度は反応開始時点の瞬間速度を指します。時間幅を短くした平均速度は近似にはなりますが、同じものと断定はできません。
3.係数は「収支の比」、次数は「濃度への応答」
セット商品を1組作るのに部品Aが2個、部品Bが1個必要なら、部品Aの減る個数は完成する組数の2倍です。反応式の係数もこのような収支を表します。一方、部品の在庫を2倍にしたとき生産が何倍速くなるかは、収支だけでは決まりません。反応次数も「濃度を変えると速度がどう応答するか」を表す、別の情報です。
A、B、Pは実在の元素記号ではなく、この収支を満たす架空化学種のラベルです。この式では反応速度vを係数で割って共通化しています。Aの消失速度uAは2vです。平均速度にも同じ係数関係が成り立ちます。以降の初速度表は、Aの消失速度ではなく、この定義のvの開始時の値v₀を示します。
下付き0は開始時の値です。mはAに関する次数、nはBに関する次数、kは同じ条件で一定とみなす速度定数です。このべき乗型速度式を仮定してデータに合う指数を求めます。次数は必ず正の整数とは限らず、0ならその成分の濃度を変えても、この範囲では速度は変わりません。
4.片方が同じ行なら、比で余分なものが消える
価格の違いを比べるとき、内容量まで違うと原因を分けにくくなります。速度も同じです。まずBの初濃度が同じ2行を探せば、比を取ったとき共通のkとBの項が消え、Aだけの影響が残ります。先に指数を当てるのではなく、先に比較する行を選びましょう。
🔍 Bが同じ行i、jを比較する
正の濃度と速度を扱う。同じ温度などの条件でkが共通であることが必要。
Aだけ3倍で速度も3倍ならAについて一次。同様にAが同じ行からBの次数を読む。
| 行 | [A]₀(mol/L) | [B]₀(mol/L) | v₀(mol L⁻¹ s⁻¹) |
|---|---|---|---|
| I | 0.10 | 0.20 | 0.0040 |
| II | 0.30 | 0.20 | 0.0120 |
| III | 0.10 | 0.40 | 0.0160 |
| IV | 0.30 | 0.40 | 0.0480 |
上表は2A + B → Pについての架空の初速度データである。I〜IIIからm、nとkを求め、IVを再現できるか確認せよ。
解答・解説
IとIIではBが同じ。Aは3倍、v₀も3倍なので3ᵐ = 3、m = 1。IとIIIではAが同じ。Bは2倍、v₀は4倍なので2ⁿ = 4、n = 2。全次数は3、速度式はv₀ = k[A]₀[B]₀²。Iからk = 0.0040/(0.10×0.20²) = 1.0 L² mol⁻² s⁻¹。IVの予測は1.0×0.30×0.40² = 0.0480 mol L⁻¹ s⁻¹で表と一致する。反応式のAの係数は2だが次数は1、Bの係数は1だが次数は2である。
kの単位は暗記よりも割り算で確認できます。例題2では濃度の3乗にkを掛けて「濃度/時間」にするため、kには濃度の−2乗と時間の−1乗が必要です。濃度の単位を変えるとkの数値も変わるため、数値だけを比較しないでください。
5.表が少ないと「決まらない」こともある
同じべき乗型速度式で、AとBの初濃度がともに2倍の行では初速度が8倍になった。この2行だけからmとnをそれぞれ求められるか。
解答・解説
速度比は2ᵐ×2ⁿ = 2^(m+n) = 8なので、全次数m+n = 3までは決まる。しかし(m,n) = (1,2)、(2,1)、(0,3)などを区別できない。個別の次数は未確定である。既に与えられた表に一方の濃度だけが異なる行があれば、それを使うと分離できる。
体積一定の2A + B → Pで、5〜25 sに[A]が0.120から0.080 mol/Lに減った。Aの平均消失速度と、係数で共通化した平均反応速度を求めよ。
解答・解説
時間差は20 s。Aの平均消失速度は0.040/20 = 0.0020 mol L⁻¹ s⁻¹。平均反応速度は係数2で割って0.0010 mol L⁻¹ s⁻¹。濃度変化そのものは負だが、消失速度は正で表す。
一定条件でv₀ = k[A]₀ᵐ[B]₀ⁿとする。Bが同じ2行ではAが4倍で速度が4倍、Aが同じ2行ではBが3倍でも速度は同じだった。m、n、全次数は?
解答・解説
4ᵐ = 4よりm = 1。3ⁿ = 1よりn = 0。全次数は1。この範囲でBの濃度に速度が依存しないという意味であり、Bが反応で消費されないという意味ではない。
例題2の速度式が使える範囲で、[A]₀ = 0.20 mol/L、[B]₀ = 0.30 mol/Lのv₀とAの初期消失速度を予測せよ。
解答・解説
v₀ = 1.0×0.20×0.30² = 0.018 mol L⁻¹ s⁻¹。Aの係数は2なので、その初期消失速度は2v₀ = 0.036 mol L⁻¹ s⁻¹。Iに対してAが2倍、Bが1.5倍なので速度比2×1.5² = 4.5でも検算できる。
ある表ではAとBがともに3倍になると初速度が9倍になった。同じべき乗型速度式の下で個別次数は決まるか。
解答・解説
3^(m+n) = 9より全次数は2。m = 1、n = 1に限らず、m = 2、n = 0なども可能なので、この情報だけでは個別次数は決まらない。
問1. 濃度が時刻0 sと10 sで与えられた。この2点だけで確実に求められるのは?
問2. v₀ = k[A]₀ᵐ[B]₀ⁿで、Bと他の条件が同じときAが3倍、初速度が9倍だった。mは?
問3. 総括反応式2A + B → Pだけから判断できることは?
問4. ある範囲でBについて0次であることの意味は?
読解のまとめとモデルの根拠
- まず速度の定義と単位を確認する。成分の消失速度か、係数で共通化した反応速度かを区別する。
- 時間の表なら濃度差と時間差を使う。有限区間の平均を初速度と断定しない。
- 初速度の表なら共通条件を確認し、一方の初濃度が等しい行を選んで比を取る。
- 次数が決まってからkを求め、別の行を再現する。情報不足なら「決まらない」と結論する。
数値の根拠は、平均変化率の定義、一定体積での化学量論的収支、仮定したべき乗型速度式です。初速度表はv₀ = k[A]₀[B]₀²、k = 1.0 L² mol⁻² s⁻¹から作成した架空値で、実在反応の実測値や機構の主張ではありません。本節は表から情報を取り出す読み方に限定し、積分速度式・半減期・温度依存性の導出は扱いません。