反応速度のデータ読解 — 平均速度・初速度と反応次数

濃度と時間の表から平均速度を求め、条件をそろえた初速度の比から反応次数を読み取ります。反応式の係数、速度式の指数、データだけでは決まらないことを区別します。

この単元の目標
  • 濃度の減少量と時間差から、符号と単位を付けて平均消失速度を求められる
  • 平均速度と初速度を区別し、有限個のデータからの推定の限界を説明できる
  • 一方の初濃度が等しい行を選び、初速度の比から各成分の次数を求められる
  • 反応式の係数と反応次数を区別し、速度定数の単位と予測値を検算できる
📑 目次
  1. 1.「どれだけ減ったか」を時間で割る理由
  2. 2.平均速度は区間、初速度は出発点
  3. 3.係数は「収支の比」、次数は「濃度への応答」
  4. 4.片方が同じ行なら、比で余分なものが消える
  5. 5.表が少ないと「決まらない」こともある
  6. 読解のまとめとモデルの根拠

1.「どれだけ減ったか」を時間で割る理由

同じ距離を走っても、所要時間が短いほど速いといえます。反応でも、濃度がどれだけ変わったかだけでは速さは比べられません。変化量を時間で割って「1秒あたり」にそろえます。ここでは架空の物質A、B、Pだけを使い、与えられた表の読解を行います。実在物質の選択や実験操作は扱いません。

全例は教材用の架空データです。濃度の単位はmol/L、時間はs、速度はmol L⁻¹ s⁻¹。体積一定、均一な系、単一の総括反応を仮定します。初速度表を比較する際は温度・触媒など濃度以外の条件が共通で、同じ速度式が成り立つ範囲とします。数値は比を読みやすくした理想値で、実測の精度を示しません。

Aが消費されると、後の濃度から前の濃度を引いた変化量は負になります。しかし「消失する速さ」は正の量で表したいので、先頭にマイナスを付けます。角括弧[A]はAのモル濃度、上線は区間平均を表します。

uA‾=−Δ[A]Δt=[A](t1)−[A](t2)t2−t1(t2>t1)\overline{u_A}=-\frac{\Delta[A]}{\Delta t}=\frac{[A](t_1)-[A](t_2)}{t_2-t_1}\quad(t_2>t_1)
時刻 t(s)[A](mol/L)
00.100
100.080
300.056
例題1:時間幅の違う区間を比べる

上表から0〜10 s、10〜30 s、0〜30 sのAの平均消失速度を求めよ。後半の消失量のほうが大きいので、後半のほうが速いといえるか。

解答・解説

0〜10 sは(0.100−0.080)/10 = 0.0020 mol L⁻¹ s⁻¹。10〜30 sは(0.080−0.056)/20 = 0.0012 mol L⁻¹ s⁻¹。後半は消失量0.024 mol/Lが前半の0.020 mol/Lより大きいが、時間が2倍なので平均では遅い。全区間は0.044/30 ≈ 0.00147 mol L⁻¹ s⁻¹。区間速度の単純平均0.0016ではなく、(0.0020×10 + 0.0012×20)/30という時間幅による加重平均になる。

2.平均速度は区間、初速度は出発点

旅行全体の平均時速と、出発直後の速度計の値は別物です。濃度と時間のグラフでも、2点を結ぶ直線の傾きが平均変化率、その時点の接線の傾きが瞬間の変化率です。初速度は反応開始時点の瞬間速度を指します。時間幅を短くした平均速度は近似にはなりますが、同じものと断定はできません。

uA,0=lim⁡h→0+[A](0)−[A](h)hu_{A,0}=\lim_{h\to0^+}\frac{[A](0)-[A](h)}{h}
例題1の3点だけから初速度を一意には求められません。同じ3点を通っても、出発点付近の傾きが異なる曲線は作れます。0〜10 sの平均速度を初速度と同一視したり、速度が低下したというだけで反応次数を決めたりしないでください。以降の表の初速度は、別途与えられた値として読みます。

3.係数は「収支の比」、次数は「濃度への応答」

セット商品を1組作るのに部品Aが2個、部品Bが1個必要なら、部品Aの減る個数は完成する組数の2倍です。反応式の係数もこのような収支を表します。一方、部品の在庫を2倍にしたとき生産が何倍速くなるかは、収支だけでは決まりません。反応次数も「濃度を変えると速度がどう応答するか」を表す、別の情報です。

2A+B⟶P,v=−12d[A]dt=−d[B]dt=d[P]dt2A+B\longrightarrow P,\qquad v=-\frac{1}{2}\frac{d[A]}{dt}=-\frac{d[B]}{dt}=\frac{d[P]}{dt}

A、B、Pは実在の元素記号ではなく、この収支を満たす架空化学種のラベルです。この式では反応速度vを係数で割って共通化しています。Aの消失速度uAは2vです。平均速度にも同じ係数関係が成り立ちます。以降の初速度表は、Aの消失速度ではなく、この定義のvの開始時の値v₀を示します。

v0=k[A]0m[B]0n,全反応次数=m+nv_0=k[A]_0^m[B]_0^n,\qquad \text{全反応次数}=m+n

下付き0は開始時の値です。mはAに関する次数、nはBに関する次数、kは同じ条件で一定とみなす速度定数です。このべき乗型速度式を仮定してデータに合う指数を求めます。次数は必ず正の整数とは限らず、0ならその成分の濃度を変えても、この範囲では速度は変わりません。

総括反応式が2A + B → Pだからm = 2、n = 1、と書くのは誤りです。係数は収支を、次数は速度の濃度依存性を表します。単一段階の素反応に質量作用則を適用する場合には反応物の係数と対応しますが、総括反応が素反応だとは通常断定できません。速度の定義をvからuA = 2vに変えるとkの数値は2倍になりますが、次数は変わりません。

4.片方が同じ行なら、比で余分なものが消える

価格の違いを比べるとき、内容量まで違うと原因を分けにくくなります。速度も同じです。まずBの初濃度が同じ2行を探せば、比を取ったとき共通のkとBの項が消え、Aだけの影響が残ります。先に指数を当てるのではなく、先に比較する行を選びましょう。

🔍 Bが同じ行i、jを比較する

  1. v0,jv0,i=k[A]0,jm[B]0nk[A]0,im[B]0n=([A]0,j[A]0,i)m\frac{v_{0,j}}{v_{0,i}}=\frac{k[A]_{0,j}^m[B]_0^n}{k[A]_{0,i}^m[B]_0^n}=\left(\frac{[A]_{0,j}}{[A]_{0,i}}\right)^m

    正の濃度と速度を扱う。同じ温度などの条件でkが共通であることが必要。

  2. [A]0,j[A]0,i=3,v0,jv0,i=3 ⟹ 3m=3 ⟹ m=1\frac{[A]_{0,j}}{[A]_{0,i}}=3,\quad \frac{v_{0,j}}{v_{0,i}}=3\ \Longrightarrow\ 3^m=3\ \Longrightarrow\ m=1

    Aだけ3倍で速度も3倍ならAについて一次。同様にAが同じ行からBの次数を読む。

行[A]₀(mol/L)[B]₀(mol/L)v₀(mol L⁻¹ s⁻¹)
I0.100.200.0040
II0.300.200.0120
III0.100.400.0160
IV0.300.400.0480
例題2:次数を求め、残りの行で確かめる

上表は2A + B → Pについての架空の初速度データである。I〜IIIからm、nとkを求め、IVを再現できるか確認せよ。

解答・解説

IとIIではBが同じ。Aは3倍、v₀も3倍なので3ᵐ = 3、m = 1。IとIIIではAが同じ。Bは2倍、v₀は4倍なので2ⁿ = 4、n = 2。全次数は3、速度式はv₀ = k[A]₀[B]₀²。Iからk = 0.0040/(0.10×0.20²) = 1.0 L² mol⁻² s⁻¹。IVの予測は1.0×0.30×0.40² = 0.0480 mol L⁻¹ s⁻¹で表と一致する。反応式のAの係数は2だが次数は1、Bの係数は1だが次数は2である。

kの単位は暗記よりも割り算で確認できます。例題2では濃度の3乗にkを掛けて「濃度/時間」にするため、kには濃度の−2乗と時間の−1乗が必要です。濃度の単位を変えるとkの数値も変わるため、数値だけを比較しないでください。

[k]=mol L−1 s−1(mol L−1)3=L2 mol−2 s−1[k]=\frac{\mathrm{mol\,L^{-1}\,s^{-1}}}{(\mathrm{mol\,L^{-1}})^3}=\mathrm{L^2\,mol^{-2}\,s^{-1}}

5.表が少ないと「決まらない」こともある

例題3:両方が同時に変わる落とし穴

同じべき乗型速度式で、AとBの初濃度がともに2倍の行では初速度が8倍になった。この2行だけからmとnをそれぞれ求められるか。

解答・解説

速度比は2ᵐ×2ⁿ = 2^(m+n) = 8なので、全次数m+n = 3までは決まる。しかし(m,n) = (1,2)、(2,1)、(0,3)などを区別できない。個別の次数は未確定である。既に与えられた表に一方の濃度だけが異なる行があれば、それを使うと分離できる。

1組の比に合うだけでは、速度式があらゆる濃度で成立する証明にはなりません。実測値には誤差があり、倍率が3.9だから必ず正確に二次とも限りません。複数の行との整合、条件の同一性、適用した濃度範囲を確認します。速度式が合っても反応機構が一意に決まるわけではありません。
練習:まず何を比較するか決めよう
  1. 体積一定の2A + B → Pで、5〜25 sに[A]が0.120から0.080 mol/Lに減った。Aの平均消失速度と、係数で共通化した平均反応速度を求めよ。

    解答・解説

    時間差は20 s。Aの平均消失速度は0.040/20 = 0.0020 mol L⁻¹ s⁻¹。平均反応速度は係数2で割って0.0010 mol L⁻¹ s⁻¹。濃度変化そのものは負だが、消失速度は正で表す。

  2. 一定条件でv₀ = k[A]₀ᵐ[B]₀ⁿとする。Bが同じ2行ではAが4倍で速度が4倍、Aが同じ2行ではBが3倍でも速度は同じだった。m、n、全次数は?

    解答・解説

    4ᵐ = 4よりm = 1。3ⁿ = 1よりn = 0。全次数は1。この範囲でBの濃度に速度が依存しないという意味であり、Bが反応で消費されないという意味ではない。

  3. 例題2の速度式が使える範囲で、[A]₀ = 0.20 mol/L、[B]₀ = 0.30 mol/Lのv₀とAの初期消失速度を予測せよ。

    解答・解説

    v₀ = 1.0×0.20×0.30² = 0.018 mol L⁻¹ s⁻¹。Aの係数は2なので、その初期消失速度は2v₀ = 0.036 mol L⁻¹ s⁻¹。Iに対してAが2倍、Bが1.5倍なので速度比2×1.5² = 4.5でも検算できる。

  4. ある表ではAとBがともに3倍になると初速度が9倍になった。同じべき乗型速度式の下で個別次数は決まるか。

    解答・解説

    3^(m+n) = 9より全次数は2。m = 1、n = 1に限らず、m = 2、n = 0なども可能なので、この情報だけでは個別次数は決まらない。

確認クイズ

問1. 濃度が時刻0 sと10 sで与えられた。この2点だけで確実に求められるのは?

問2. v₀ = k[A]₀ᵐ[B]₀ⁿで、Bと他の条件が同じときAが3倍、初速度が9倍だった。mは?

問3. 総括反応式2A + B → Pだけから判断できることは?

問4. ある範囲でBについて0次であることの意味は?

読解のまとめとモデルの根拠

  1. まず速度の定義と単位を確認する。成分の消失速度か、係数で共通化した反応速度かを区別する。
  2. 時間の表なら濃度差と時間差を使う。有限区間の平均を初速度と断定しない。
  3. 初速度の表なら共通条件を確認し、一方の初濃度が等しい行を選んで比を取る。
  4. 次数が決まってからkを求め、別の行を再現する。情報不足なら「決まらない」と結論する。

数値の根拠は、平均変化率の定義、一定体積での化学量論的収支、仮定したべき乗型速度式です。初速度表はv₀ = k[A]₀[B]₀²、k = 1.0 L² mol⁻² s⁻¹から作成した架空値で、実在反応の実測値や機構の主張ではありません。本節は表から情報を取り出す読み方に限定し、積分速度式・半減期・温度依存性の導出は扱いません。

📝 メモこの端末のみに保存
メモ欄はページ読み込み後に使えるようになります。