漢文の対話と説話:誰が言い、どう行うかを読み分ける
発話者・聞き手・発話内の主語を分け、問いと応答、発言と行動、語り手の評を照合する。短い自作資料で、主張の帰属と根拠を読む。
- 対話の発話者と聞き手を文脈から確認できる
- 発話者と発話内の主語を区別できる
- 発言と行動の対比を説明できる
- 語り手の評と登場人物の判断を区別できる
1.「曰」は発話を探す手がかり
「王曰」なら、王が言ったことが後に続きます。ただし「曰」だけでは、誰に向けた発言か、引用がどこまでかは決まりません。前後の人物名、応答、語の内容を確認します。同じ話題のまま話し手が交代することもあるので、「曰=話題転換」とはしません。
この教材では「王と臣だけが話し合っている」と場面を指定します。自作白文:王問臣曰、「何謂善政。」臣曰、「不奪農時。」語注:善政=よい政治。農時=農作業に必要な時。奪=奪う。
| 白文 | 書き下し | 現代語訳 |
|---|---|---|
| 王問臣曰、「何謂善政。」 | 王、臣に問ひて曰はく、「何をか善政と謂ふ」と。 | 王が臣に尋ねて言うには、「何をよい政治というのか」。 |
| 臣曰、「不奪農時。」 | 臣曰はく、「農時を奪はず」と。 | 臣が言うには、「農作業に必要な時を奪わないことです」。 |
上の対話の①発話者と聞き手、②問いと答えの対応、③「不奪農時」の省略主語について説明せよ。この答えは政治のあり方についての一般論として述べられたものとする。
解答・解説
①王→臣、臣→王。②王は善政の内容を尋ね、臣は農作業の時を奪わないことと答える。③奪わない主体は、一般に政治を行う者として補える。発話者が臣だから「臣個人だけが奪わない」という意味にはならない。訳の「ことです」は、日本語で答えの形を整えた補いである。
2.問われた内容に答えているか
問いを「誰・何・なぜ・どうする」に分けると、答えが何を説明しているかが見えます。「善政とは何か」に対する答えは、政治の内容を示しています。「臣はよい人だ」と答えたのではありません。質問の対象を保ったまま応答を読むことが大切です。
| 確認 | 上の問答の場合 |
|---|---|
| 何を問うか | 善政の内容 |
| どう答えるか | 農時を奪わない |
| 言っていないこと | 実際の王がその政治を行ったかどうか |
3.発言と行動を対照する
次の自作資料では、引用符内だけを官吏の発言、その後を地の文と指定します。白文:吏曰、「吾愛民。」然不均賦。民皆怨。語注:吏=官吏。賦=税。均=均等・公平にする。怨=うらむ。
| 白文 | 書き下し | 現代語訳 |
|---|---|---|
| 吏曰、「吾愛民。」 | 吏曰はく、「吾、民を愛す」と。 | 官吏は「私は民を愛する」と言う。 |
| 然不均賦。 | 然れども賦を均しくせず。 | しかし、税を公平にしない。 |
| 民皆怨。 | 民皆怨む。 | 民はみなうらむ。 |
①「吾」は誰か。②官吏の発言と行動の関係は何か。③「官吏はわざと民をだました」といえるか。
解答・解説
①発話者の官吏。②「民を愛する」と言いながら、税を公平にせず、民がうらむ結果になっている。「然れども」が発言と行動の対照を示す。③意図的にだましたのか、本人の理解がずれていたのかは書かれていないので断定できない。本文が示すのは言葉と行動のずれである。
4.評の出どころを確かめる
説話の最後の教訓は、登場人物が言うことも、語り手が評として述べることもあります。「故曰」という形だけで語り手の評と決めてはいけません。引用元があることもあり、前後の文脈や、設問で与えられた資料区分が必要です。
官吏の資料に、次のどちらかが続くとする。Aは「ここから語り手の評」と指定され、故曰、「言行不一。」とある。Bは民曰、「言行不一。」とある。誰の判断かを区別し、言葉の根拠を答えよ。語注:言行不一=言行一ならず(言葉と行いが一致しない)。
解答・解説
Aは資料区分により語り手の評、Bは民の発言。Aの読みは「故に曰はく、『言行一ならず』と」、Bは「民曰はく、『言行一ならず』と」。どちらも民を愛するという発言と、公平に税を扱わない行動のずれを根拠にしている。Aを語り手と決められるのは「故曰」の字面だけではなく、問題の指定があるから。
師と弟子だけが対話する。「師曰、『學貴勤。』弟子曰、『何謂勤。』師曰、『每日讀書。』」を訓読し、問答の対応を示せ。語注:勤=勤勉。ここでは毎日読書することを具体例として挙げている。
解答・解説
「師曰はく、『学は勤を貴ぶ』と。弟子曰はく、『何をか勤と謂ふ』と。師曰はく、『毎日書を読む』と。」先生が学びは勤勉を大切にすると述べ、弟子が勤勉とは何かを尋ね、先生が毎日の読書を具体例として答える。これだけで勤勉の全内容が読書に限られるとはしない。
師が弟子に「勤而勿怠。」と言う。「勤」は努める、「勿」は禁止として書き下し、訳せ。実際に弟子が怠らなかったと分かるか。
解答・解説
「勤めて怠ること勿かれ。」=「努めて、怠ってはならない。」命令・禁止を述べたことは分かるが、それを弟子が実行したかは分からない。「怠る」はラ行四段動詞。
客と主人の問答「客曰、『此屋古。』主人曰、『然。尚不傾。』」を読め。この然は「そうだ」という応答、尚は「なほ」、屋は家とする。主人は家が今後絶対に倒れないと保証したか。
解答・解説
していない。「客曰はく、『此の屋は古し』と。主人曰はく、『然り。尚ほ傾かず』と。」=「この家は古い」「そうだ。まだ傾いていない」。現在まで傾いていないことと、将来の安全の保証は別である。
引用の終わりや前後の文が示されず「故曰」とだけある。語り手の判断と確定できるか。
解答・解説
確定できない。先の発話者が話し続けている可能性や、何かを引用する場合もある。前後の発話・引用範囲や資料区分が必要。
問1. 最初の王臣の問答で「不奪農時」の主体を読む際に適切なのは?
問2. 官吏の資料から確実に読み取れるのは?
問3. 例題3のAを語り手の評と判断する根拠は?
問4. 「怠ること勿かれ」という発言だけで分かるのは?
- 発話者と聞き手を確認する。
- 発話内の主語を別に調べる。
- 問いと応答を対応させる。
- 発言と地の文の行動を照合する。
- 判断が誰に属するか、本文の根拠とともに示す。