二項定理——選び方を数えて一般項と係数比較へ

展開の係数を「どの括弧から何を選ぶか」で説明し、一般項による係数の抽出、定数項、恒等式の係数比較までつなげます。

この単元の目標
  • 二項係数が組合せの数になる理由を、分配法則と選択の対応から説明する。
  • 一般項の指数を整理して、指定された次数の項とその係数を求める。
  • 恒等式と方程式を区別し、係数比較から未知数や組合せの関係式を求める。
  • 符号、添字の範囲、負の指数が現れる式の定義域を確認する。
📑 目次
  1. 1.展開とは、各括弧から一つずつ選ぶこと
  2. 2.組合せの数から二項定理を導く
  3. 3.一般項を使うと全展開がいらない
  4. 4.恒等式の係数を比較する
  5. 5.係数比較で組合せの公式も作れる

1.展開とは、各括弧から一つずつ選ぶこと

(a+b)4(a+b)^4 は四つの括弧 (a+b)(a+b)(a+b)(a+b)(a+b)(a+b)(a+b)(a+b) の積です。分配法則で展開するとは、それぞれの括弧から aa か bb を一つ選び、選んだ四つを掛け、その結果をすべて足すことです。括弧には左から1、2、3、4と番号を付けて区別します。文字が同じでも、選ぶ位置は区別するのが数え上げの鍵です。

導入例:なぜ中央の係数は6なのか

(a+b)4(a+b)^4 の展開で a2b2a^2b^2 を作る選び方を挙げましょう。

解答・解説

bを選ぶ位置の組は {1,2}、{1,3}、{1,4}、{2,3}、{2,4}、{3,4} の6通りです。残りの二つからはaを選びます。どの選び方も同じ積 a2b2a^2b^2 を作るため、まとめると 6a2b26a^2b^2 です。位置の組に順序はなく、{1,2}と{2,1}を別に数えません。

2.組合せの数から二項定理を導く

ここでは nn を0以上の整数、a,ba,b を実数または可換な文字式とします。nn 個の括弧から bb を選ぶ個数を rr とすると、rr は 0,1,…,n0,1,\ldots,n のいずれかです。残る n−rn-r 個からは aa を選ぶので、できる積は an−rbra^{n-r}b^r になります。

🔍 一般の係数を数える

  1. 選ぶ位置を順番付きで数える
    n(n−1)⋯(n−r+1)n(n-1)\cdots(n-r+1)

    1≤r≤n1\le r\le n とします。bb を選ぶ位置を順番付きで選ぶと、最初は nn 通り、次は n−1n-1 通り、という積になります。

  2. 順番の重複を除く
    (nr)=nCr=n!r!(n−r)!\binom nr={}_n\mathrm C_r=\frac{n!}{r!(n-r)!}

    同じ位置の集合を並べる順番は r!r! 通りなので割ります。m!m! は1から mm までの整数の積、0!=10!=1 と定義します。r=0r=0 では何も選ばない1通り、r=nr=n では全部選ぶ1通りで、式とも一致します。

  3. すべての選び方を重複なくまとめる
    (a+b)n=∑r=0n(nr)an−rbr(a+b)^n=\sum_{r=0}^{n}\binom nr a^{n-r}b^r

    どの選び方もbを選んだ個数rによってただ一つのグループに入ります。各グループ内の同じ積をまとめて足すので、漏れも二重計上もありません。これが二項定理です。

この有限和の二項定理は nn が0以上の整数の場合のものです。n=0n=0 は空の積を1とする多項式の約束で両辺とも1です。式の端に現れる0乗の因子も、多項式としては1と読みます。負の整数や分数の指数へ、この有限和をそのまま使うことはできません。本記事の文字は単位を持たない数・式として扱い、計算は近似ではなく厳密です。
(a+b)4=a4+4a3b+6a2b2+4ab3+b4(a+b)^4=a^4+4a^3b+6a^2b^2+4ab^3+b^4

二項係数には (nr)=(nn−r)\binom nr=\binom n{n-r} という対称性があります。「bb を選ぶ rr 個の位置」を決めることと「aa を選ぶ残りの n−rn-r 個の位置」を決めることは一対一に対応するからです。四乗の係数が1、4、6、4、1と左右対称なのも偶然ではありません。

3.一般項を使うと全展開がいらない

Tr+1=(nr)An−rBr(r=0,1,…,n)T_{r+1}=\binom nr A^{n-r}B^r\qquad(r=0,1,\ldots,n)

(A+B)n(A+B)^n で BB を選ぶ個数が rr の項を一般項と呼びます。r=0r=0 から並べるため第 r+1r+1 項です。「第3項」なら r=2r=2 であり、r=3r=3 ではありません。さらに A,BA,B がどちらも xx を含むとき、xx の指数は rr そのものとは限りません。まず一つの積として整理し、欲しい指数と等しくなる rr を求めます。

例題1:符号を含めて全体を展開する

(2x−1)4(2x-1)^4 を展開しましょう。

解答・解説

A=2x,B=−1A=2x, B=-1 とみて、一般項は (4r)(2x)4−r(−1)r\binom4r(2x)^{4-r}(-1)^r。r=0,1,2,3,4r=0,1,2,3,4 の順に 16x4,−32x3,24x2,−8x,116x^4,-32x^3,24x^2,-8x,1 なので、答えは 16x4−32x3+24x2−8x+116x^4-32x^3+24x^2-8x+1 です。x=1x=1 を代入すると元の式は1、展開後も 16−32+24−8+1=116-32+24-8+1=1 になり、計算ミスの検査になります。ただし1点の一致だけで恒等式を証明したことにはなりません。

例題2:両方の項にxがあるときの係数

(x2+2x)5(x^2+2x)^5 の x7x^7 の係数を、全展開せずに求めましょう。

解答・解説

一般項は (5r)(x2)5−r(2x)r=(5r)2rx10−r\binom5r(x^2)^{5-r}(2x)^r=\binom5r2^r x^{10-r}。指数の条件 10−r=710-r=7 より r=3r=3 で、許される範囲 0≤r≤50\le r\le5 に入ります。係数は (53)23=10⋅8=80\binom532^3=10\cdot8=80、項そのものは 80x780x^7 です。別の確認として x5(x+2)5x^5(x+2)^5 とくくると、括弧内の x2x^2 の係数 (52)23=80\binom522^3=80 を求めればよく、同じ結果になります。

一般項の指数条件を解いても、rr が整数でない、または 0≤r≤n0\le r\le n を満たさないなら、その項は存在せず係数は0です。例題2では指数は10から5までなので、x4x^4 の項はありません。また「係数」を問われたら xx の部分は付けずに答えます。
例題3:負の指数があっても選択の考え方は同じ

x≠0x\ne0 のとき、(x2−1x)6\left(x^2-\frac1x\right)^6 を展開して同類項をまとめたときの定数項を求めましょう。

解答・解説

一般項は (6r)(x2)6−r(−x−1)r=(6r)(−1)rx12−3r\binom6r(x^2)^{6-r}(-x^{-1})^r=\binom6r(-1)^r x^{12-3r}。定数項は指数0なので 12−3r=012-3r=0、すなわち r=4r=4。よって定数項は (64)(−1)4=15\binom64(-1)^4=15 です。これは負の整数指数も含む有限和(ローラン多項式)です。分母に xx があるので x=0x=0 は代入できず、「定数項=0を代入した値」と考えてはいけません。

4.恒等式の係数を比較する

二つの実係数多項式がすべての実数 xx で等しいとき、同じ次数の係数はそれぞれ等しくなります。これが係数比較です。理由は、両辺の差が零でない次数 dd の多項式なら、異なる実数の根を高々 dd 個しか持てず、すべての xx で0にはなれないからです。したがって差は零多項式で、各係数が0です。

例題4:一部の係数から未知の定数を決める

実数 p,qp,q について、(1+px)4=1+12x+qx2+108x3+81x4(1+px)^4=1+12x+qx^2+108x^3+81x^4 が xx の恒等式となるように p,qp,q を求めましょう。

解答・解説

左辺の xx の係数は (41)p=4p\binom41p=4p なので 4p=124p=12 から p=3p=3。x2x^2 の係数は (42)p2=6p2\binom42p^2=6p^2 なので q=54q=54 です。残る係数も 4p3=1084p^3=108、p4=81p^4=81 と一致します。この確認によって、求めた値が恒等式全体を満たすことも分かります。

方程式 x2=1x^2=1 が x=1x=1 で成り立っても、x2x^2 の係数1と右辺の係数0を等しいとはいえません。係数比較には「すべての xx で等しい」という恒等式の条件が必要です。反対に恒等式から特定の値を代入することはでき、代入と係数比較を使い分けられます。

5.係数比較で組合せの公式も作れる

🔍 隣り合う二項係数を足す関係

  1. 同じ式を二通りに見る
    (1+x)n+1=(1+x)n(1+x)(1+x)^{n+1}=(1+x)^n(1+x)

    n≥1n\ge1 を整数、1≤r≤n1\le r\le n とします。両辺の xrx^r の係数を比較します。

  2. 右辺で目的の次数を作る
    (n+1r)=(nr)+(nr−1)\binom{n+1}r=\binom nr+\binom n{r-1}

    右辺では (1+x)n(1+x)^n の xrx^r の項に1を掛ける場合と、xr−1x^{r-1} の項に xx を掛ける場合の二つです。これがパスカルの三角形の「上の二つを足す」規則です。

数え上げでも同じ関係が出ます。n+1n+1 人から rr 人を選ぶ際、特定の一人を選ばなければ残り nn 人から rr 人、選べば残りから r−1r-1 人を選びます。二つの場合は重ならず、すべてを尽くします。数え方による証明と係数比較による証明が同じ構造を表しています。

∑r=0n(nr)=2n(n≥0),∑r=0n(−1)r(nr)=0(n≥1)\sum_{r=0}^n\binom nr=2^n\qquad(n\ge0),\qquad \sum_{r=0}^n(-1)^r\binom nr=0\qquad(n\ge1)

最後の二つの式は (1+x)n(1+x)^n にそれぞれ x=1,−1x=1,-1 を代入した結果です。前者は各位置について「選ぶ・選ばない」の2通りがあるため合計 2n2^n 通りという数え方にも対応します。後者は偶数個選ぶ場合と奇数個選ぶ場合の総数が等しいという意味です。ただし n=0n=0 では後者の和は1なので、条件 n≥1n\ge1 を落とさないようにします。

練習:指数を決めてから係数へ
  1. (x−2)5(x-2)^5 の x3x^3 の係数を求めましょう。

    ヒント

    一般項で xx の指数は 5−r5-r です。

    解答・解説

    5−r=35-r=3 より r=2r=2。係数は (52)(−2)2=10⋅4=40\binom52(-2)^2=10\cdot4=40。負号も2乗されるので正です。

  2. (x2+3)4(x^2+3)^4 の x5x^5 の係数を求めましょう。

    解答・解説

    一般項の指数は 8−2r8-2r。8−2r=58-2r=5 は r=3/2r=3/2 となり整数ではないので、係数は0です。偶数次の項しか現れないことからも分かります。

  3. x≠0x\ne0 のとき、(2x−1x)4\left(2x-\frac1x\right)^4 の定数項を求めましょう。

    解答・解説

    一般項は (4r)24−r(−1)rx4−2r\binom4r2^{4-r}(-1)^r x^{4-2r}。指数0の条件から r=2r=2 で、定数項は (42)22=24\binom422^2=24 です。

  4. (1+ax)3=1−6x+bx2−8x3(1+ax)^3=1-6x+bx^2-8x^3 が恒等式となる実数 a,ba,b を求めましょう。

    解答・解説

    xx の係数比較で 3a=−63a=-6 より a=−2a=-2。x2x^2 の係数は 3a23a^2 なので b=12b=12。さらに a3=−8a^3=-8 で三次の係数も一致するので、確かに恒等式になります。

確認クイズ

問1. (a+b)7(a+b)^7 を bb の指数が0から増える順に並べた第3項は?

問2. (1−2x)4(1-2x)^4 の x3x^3 の係数は?

問3. 二つの実係数多項式の係数を比較して等しいと結論できる条件は?

問4. (60)+(61)+⋯+(66)\binom60+\binom61+\cdots+\binom66 の値は?

解く順番は「何を一つの項として選ぶか決める → 一般項を書く → 指数を整理する → 添字の条件を確認する → 係数を計算する」です。根拠は本記事内の分配法則と組合せの数え上げで示しており、外部データや近似値には依存しません。
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