相対速度と座標系——川渡り・雨・動く観測者
「何が、誰から見て、どちらへ動くか」を成分で整理する。動く観測者の座標から相対速度を導き、川渡りの最短時間と岸から見た最短経路、走る人に見える雨の向きを区別する。
- 観測対象と観測者を明記し、向きを含む速度の差を計算できる
- 位置の差から相対速度の式を導き、座標系の適用条件を説明できる
- 川渡りで船の水に対する速度と岸に対する速度を区別できる
- 最短時間と最短経路の条件、および真向かいへ渡れない場合を判断できる
- 雨の相対速度と雨が来る側の違いを説明できる
📑 目次
1. 同じ動きでも、測る人が動けば違って見える
同じ向きに走る列車を窓から見ると、地面から見るよりゆっくり動いて見えます。列車そのものが急に減速したわけではありません。自分も進んでいるので、相手と自分の間の位置の変化が小さいのです。「速度」は物体だけでなく、基準にした観測者との組で決まります。
まず地面に固定した座標を用意します。東を正とするなど軸の向きを決め、物体 A と観測者 B の位置を同じ時刻に測ります。B に原点を移すと、A の位置は「A の位置 − B の位置」。軸は地面の軸と平行のまま、回転させないものとします。
🔍 位置の差を、同じ時間で割る
G は地面。A/B は「B から見た A」。同じ時刻の位置を引く。
同じ時間区間なら、位置の差の変化は、それぞれの変位の差。
平均速度でも瞬間速度でも成り立つ。速度の各成分の単位は m/s。
地面から見て列車 A は東へ 20 m/s、列車 B は東へ 12 m/s で等速運動している。B の乗客から見た A の速度は。また、B が西へ 12 m/s で走っていた場合はどうか。東を正とする。
解答・解説
同方向では vA/B = 20 − 12 = +8 m/s、つまり東へ 8 m/s。逆方向では B の速度を −12 m/s と書き、20 − (−12) = +32 m/s、東へ 32 m/s となる。逆方向のとき「速さを足す」のは特別な別公式ではなく、符号付きの引き算の結果である。
観測者を変えても位置と速度を読み替えているだけです。一定速度で平行移動する座標なら加速度は変わらず、地面を慣性系とみなせる範囲ではその座標も慣性系です。加速する観測者でも回転しない軸なら瞬間の速度の差は使えますが、加速度は観測者の加速度を引く必要があり、運動方程式をその座標で使うときは慣性力への配慮が必要です。ここでは地球の回転を無視し、光速より十分小さい速さの古典力学を扱います。
2. 川渡り:船首の向きは、岸から見た進路とは限らない
動く歩道の上を横切る様子を想像しましょう。自分が横へ歩く間にも歩道が運んでいきます。川でも同じで、船が水に対して進む動きに、水が岸に対して流れる動きが加わります。ここでは幅 d(m)の直線的な川で、水は一様・定常に下流へ速さ u(m/s)で流れ、船は水に対して一定の速さ V(m/s)で進める理想模型とします。加速・操舵時間、風、波は無視します。
下流を x の正方向、対岸へ垂直に向かう方向を y の正方向にします。船首を対岸への垂線から上流側へ角度 θ だけ向けると、船の水に対する速度の成分は (−V sin θ, V cos θ)。したがって岸から見た成分は (u − V sin θ, V cos θ) です。ここでは船首の向きに水に対する速度が一致すると仮定しています。
この到着時刻と流される距離の式は、船首の角度を一定に保ち、cos θ > 0 で対岸に進む場合のものです。まず y 方向の移動距離 d から時間を決め、その同じ時間だけ x 方向に流される、と分けて計算します。
3. 「最短」は時間なのか、岸から見た経路の長さなのか
対岸のどこに着いてもよいなら、最短時間には y 方向の速度を最大にします。水流は x 方向だけなので、この最大値は V。船首を対岸へ垂直に向ける θ = 0 のとき t = d/V となり、下流に ud/V だけずれます。岸から見た速度の大きさを最大にする問題ではありません。
一方、岸に固定した座標で出発点から対岸までの経路を最短にするなら、可能であれば長さ d の垂直な直線を進みます。下流成分を打ち消すように上流へ船首を向け、u − V sin θ = 0 とします。このとき真向かいに着きますが、船の力の一部を上流方向に使うので横断速度は小さくなります。
幅 120 m、水流の速さ 3.0 m/s、船の水に対する速さ 5.0 m/s の川を渡る。着岸地点自由の最短時間と下流へのずれを求める。次に岸から見た最短経路で真向かいへ着く場合の船首角度と所要時間を求める。
解答・解説
最短時間は船首を対岸へ垂直に向けて 120/5 = 24 s。下流へ 3×24 = 72 m ずれる。岸からの速度は (3, 5) m/s であり、経路の長さは √(120²+72²) ≈ 140 m。真向かいへ進むには sin θ = 3/5 なので、垂線から上流側へ約 36.9° 向ける。横断速度は √(25−9) = 4.0 m/s、時間は 120/4 = 30 s、経路は 120 m。短い経路の方が、所要時間は長い。
4. 雨:落ちていく向きと、降ってくる側を区別する
静止した人には鉛直に見える雨も、走る人には前から斜めに来るように見えます。人の前進分を雨の速度から引くため、雨は人に対して後ろ向きの成分を持つからです。ここでは地面から見た雨粒の速度を一定とみなし、走る人も等速とします。空気抵抗や雨粒の運動そのものを新たに計算する問題ではありません。
地面から見た雨の速度は鉛直下向き 8.0 m/s。人は東へ 6.0 m/s で走る。東を x の正方向、鉛直上を y の正方向とし、人から見た雨の速度と速さ、鉛直下向きからの傾きを求めよ。
解答・解説
雨の対地速度は (0, −8)、人は (6, 0) m/s。引き算から雨/人 = (−6, −8) m/s、つまり西へ進みながら落ちる。速さは √(36+64) = 10 m/s。鉛直下向きから西側への角度 φ は tan φ = 6/8 なので約 36.9°。雨粒の軌跡を逆にたどると東の上方から来る。したがって雨が来る側は走る人の前方である。
東を正とする。地面から見て A は西へ 4.0 m/s、B は東へ 7.0 m/s で動く。B から見た A の速度と、A から見た B の速度を求めよ。
解答・解説
A/B = −4−7 = −11 m/s、つまり西へ 11 m/s。B/A = 7−(−4) = +11 m/s、東へ 11 m/s。観測者と対象を交換すると符号が逆になる。
幅 60 m の川で、水流は下流へ 1.8 m/s、船の対水速さは 3.0 m/s。着岸地点自由の最短時間と下流へのずれ、および真向かいへの横断時間を求めよ。
解答・解説
最短時間は 60/3 = 20 s、ずれは 1.8×20 = 36 m。真向かいなら船首の上流成分で 1.8 m/s を消すので、横断速度は √(3²−1.8²) = 2.4 m/s、時間は 60/2.4 = 25 s。
地面から見た雨は東へ 2.0 m/s、下へ 6.0 m/s の成分を持つ。人が東へ 2.0 m/s で等速運動すると、人から見た雨はどう動くか。
解答・解説
東を正、上を正にして (2, −6)−(2, 0) = (0, −6) m/s。水平成分が消えるため、鉛直下向き 6.0 m/s に見える。雨の水平成分と同じ速度で動くことが条件。
川幅 40 m、水流の速さと船の対水速さがともに 2.0 m/s である。真向かいへ渡れるか。また、着岸地点が自由なら最短で何秒か。
解答・解説
真向かいは不可能。下流成分を消すには船を真上流へ向けるしかなく、対岸への成分が 0 になる。着岸地点自由なら船首を対岸へ垂直に向け、40/2 = 20 s で渡れる。その間に下流へ 40 m ずれる。
問1. 地面 G から見た速度が与えられたとき、観測者 B から見た物体 A の速度はどれか。
問2. 水流の速さ u > 0 の一様な流れの川で、対水速さが一定の船が対岸のどこに着いてもよいとき、最短時間になる船首の向きは。
問3. 水流の速さ u が船の対水速さ V と等しく正のとき、正しい説明は。
問4. 東を正、上を正として、人から見た雨の速度が (−3, −4) m/s だった。雨はどちらから来るか。
5. 解く前の四つの確認
- 対象と観測者を決め、「対象/観測者」と速度に名前を付ける。
- 共通の正方向を定め、速度を符号付きの成分で書く。
- 相対速度なら対象から観測者を引く。水に対する船速から対地速度を作るなら水流を足す。
- 求めるのが速さ・向き・時間・経路の長さのどれか、着地点に制約があるかを確認し、最後に単位と到着位置を検算する。