熱容量・比熱・潜熱——熱量計と相変化の収支
温度変化に使う熱と相変化に使う熱を区別し、容器も含めたエネルギー保存から混合後の温度や融ける氷の質量を求める。
- 熱容量と比熱を単位・質量への依存性から区別できる。
- 熱量計も熱を受け渡す物体として収支の式に含められる。
- 温度変化と相変化を段階に分けて必要な熱量を求められる。
- 氷がすべて融けるかを判定してから最終状態を計算できる。
1.温度は熱量そのものではない
同じ20 ℃の水でも、コップ1杯と浴槽1杯を30 ℃にするために必要な熱量は異なります。温度は熱的な状態を表す量、熱量は温度差によって物体間を移動するエネルギーです。「物体が熱を何J持つ」という表現より、「物体が熱を何J受け取る」と区別して考えましょう。
2.物体全体の熱容量と物質の比熱
| 記号 | 意味 | 単位 |
|---|---|---|
| Q | 物体が受け取る熱量(放出なら負) | J |
| C | その物体の温度を1 K上げるのに必要な熱量 | J/K |
| c | 単位質量あたりの熱容量(比熱) | J/(kg·K) |
| m | 物体の質量 | kg |
| ΔT | 後の温度 − 前の温度 | K(温度差の数値は℃でも同じ) |
これらの式は、相変化がなく、対象の温度範囲で比熱を一定とみなし、温度が物体全体で一様な前後の状態を比べるときに使います。同じ物質・状態なら質量が2倍になると熱容量は2倍ですが、比熱は変わりません。複数の部品が同じ温度変化をする容器では、各部品の熱容量を足したものを全体の熱容量とします。
質量180 g、比熱0.90 J/(g·K)の固体を、相変化させずに15 ℃から35 ℃にする。熱容量と、固体が受け取る熱量を求めよ。
解答・解説
熱容量は180 × 0.90 = **162 J/K**。温度上昇は35 − 15 = 20 Kなので、熱量は162 × 20 = **3240 J(約3.2 kJ)**。162 Jは1 K上げるための熱量であり、20 K上げる熱量とは区別します。
3.熱量計の容器も収支に参加する
熱量計は、内部の物体が受け渡す熱量を温度変化から調べる容器です。外との熱交換を無視できても、容器自身の温度変化はなくなりません。水と容器が最初に同じ温度なら、両方が同じ温度差だけ変化します。ここでは密閉に伴う圧力変化ではなく、外部と熱をやり取りしない断熱近似を使い、かき混ぜる仕事・蒸発・化学反応などの寄与も無視します。
🔍 熱い固体を水に入れた場合
- 高温の固体から出る熱
Thは固体の初温、Tfは熱平衡後の共通温度。放出量の大きさを正で書く。
- 水と容器が受け取る熱
水と容器の初温を共にTc、容器の熱容量をCcalとする。
- 収支を解く
相変化がないときの結果。すべての温度を℃で統一してもよい。熱容量で重みを付けた平均になり、二つの初温の間に入る。
86 ℃の固体0.25 kg(比熱400 J/(kg·K))を、20 ℃の水0.20 kgに入れる。水を入れた容器も20 ℃で、その熱容量は160 J/K。水の比熱は4200 J/(kg·K)。外部への熱損失・相変化を無視し、最終温度を求めよ。
解答・解説
固体の熱容量は100 J/K、水は840 J/K、水と容器の合計は1000 J/K。放出と吸収を等しくすると100(86 − T) = 1000(T − 20)。よって **T = 26 ℃**。検算すると固体の放出は6000 J、水の吸収は5040 J、容器の吸収は960 Jで一致します。水だけで式を立てると約27 ℃となり、最終温度を高く見積もってしまいます。
4.相変化中は温度が上がらなくても熱を受け取る
Lは単位質量あたりの潜熱で、単位はJ/kgです。融解や気化では熱を吸収し、その逆の凝固や凝縮では同じ質量あたりの熱を放出します。ここでQ = mLは吸収・放出量の大きさを表します。純物質が一定圧力で平衡に近い相変化をしている間は温度が一定です。この間にQ = mcΔTだけを使うと、ΔT = 0から熱量も0だと誤って判断してしまいます。
- 融点より冷たい固体を融点まで温める:固体の比熱でmcΔTを計算する。
- 融点で固体を融かす:融ける質量に対してmLを計算する。
- できた液体を温める:液体の比熱に切り替え、mcΔTを計算する。
- 沸点に達して気化する場合も、液体の昇温と気化を分ける。融解熱と気化熱は別の値である。
5.「全部融ける」を先に確かめる
0 ℃の氷を温かい水に入れる場合、まず水(必要なら容器も)が0 ℃まで冷えるときに出せる熱量を求めます。それが氷をすべて融かす熱量より大きければ、残りの熱で融けた水も含めて温度が上がります。小さければ氷が残り、平衡温度は0 ℃です。等しければちょうどすべて融けて0 ℃になります。これは初めの氷が0 ℃の場合の判定です。氷が0 ℃未満なら、まず氷を0 ℃にする分も考えなければなりません。
40 ℃の水0.20 kgに0 ℃の氷0.050 kgを入れる。容器の熱容量と外部との熱交換は無視する。最終状態を求めよ。物性値は上記の近似値を使う。
解答・解説
水が0 ℃まで冷えると33600 Jを出せます。氷をすべて融かすには0.050 × 334000 = 16700 Jなので、全部融けます。残る16900 Jで、合計0.250 kgの水を0 ℃から温めると考えれば、T = 16900/(0.250 × 4200) ≈ **16.1 ℃**。直接の収支は0.20 × 4200(40 − T) = 16700 + 0.050 × 4200T。融けた水の昇温も右辺に含まれています。
20 ℃の水0.10 kgに0 ℃の氷0.10 kgを入れる。容器の熱容量と外部との熱交換は無視する。最終温度と残る氷の質量を求めよ。
解答・解説
水が0 ℃まで冷えて出す熱は8400 Jで、氷全体の融解に必要な33400 Jに足りません。よって最終温度は **0 ℃**。融ける氷は8400/334000 ≈ 0.0251 kg、残る氷は0.10 − 0.0251 ≈ **0.0749 kg(約75 g)**です。「全部融ける」と仮定して負の水温を出すのは、この平衡モデルでは仮定の誤りを示します。
6.計算の点検
- 比熱と質量の単位はそろっているか。潜熱はJ/kg、熱容量はJ/Kである。
- 熱を吸収する物体・放出する物体をすべて数えたか。容器の項を忘れていないか。
- 相変化を含むとき、温度変化の区間と潜熱の区間を分けたか。
- 最終温度と相の状態は仮定に合うか。融ける質量が初めの氷の質量を超えていないか。
質量0.50 kg、比熱800 J/(kg·K)の固体に6000 Jの熱を与えた。相変化と熱損失はない。熱容量と温度上昇を求めよ。
解答・解説
熱容量は0.50 × 800 = **400 J/K**。温度上昇は6000/400 = **15 K**。質量を含めた物体全体の熱容量で熱量を割ります。
60 ℃の水0.10 kgを、20 ℃の水0.10 kgと20 ℃の容器(熱容量210 J/K)に加える。外部との熱交換を無視すると最終温度はいくらか。
解答・解説
熱容量は熱い水が420 J/K、冷たい水と容器が630 J/K。420(60 − T) = 630(T − 20)より **36 ℃**。容器も熱を吸収するので、同質量の水だけを混ぜた40 ℃より低くなります。
−10 ℃の氷0.10 kgをすべて20 ℃の水にするために必要な熱量を求めよ。熱損失・容器は無視し、本文の物性値を使う。
解答・解説
氷の昇温:0.10 × 2100 × 10 = 2100 J。融解:0.10 × 334000 = 33400 J。水の昇温:0.10 × 4200 × 20 = 8400 J。合計は **43900 J(43.9 kJ)**。全区間を水の比熱だけで計算してはいけません。
0 ℃の氷と水が共存している系から6680 Jの熱を取り去った。水が十分残るとき、何kgの水が凍るか。大気圧付近の平衡を仮定する。
解答・解説
凝固で放出される熱はmL。m = 6680/334000 = **0.020 kg**。温度を下げるのではなく、0 ℃のまま水の一部が氷になります。
問1. 同じ物質・状態の固体の質量を3倍にすると、比熱と熱容量はどうなるか。比熱の温度依存は無視する。
問2. 断熱した容器内で熱い固体が水と容器を温める。正しい収支はどれか。相変化や他のエネルギー移動はない。
問3. 一定圧力のもとで純粋な氷が0 ℃で融けている間、熱を吸収しても温度が一定なのはなぜか。
問4. 0 ℃の氷と温かい水を断熱容器で混ぜた。水と容器が0 ℃まで冷えて出せる熱が、氷全体を融かす熱より少ない場合、最終状態はどれか。