圧力・静水圧・浮力——「作用面積」と「沈んだ体積」を混同しない
圧力の定義から出発して、深さできまる静水圧、そして浮力が「押しのけた液体の重さ」であることを導く。面積 S は圧力の計算に、体積 V は浮力の計算に現れる。この二つを区別できることが本レッスンの到達目標。
- 圧力が「単位面積あたりの力」であり、単位 Pa(N/m²)を正しく使える
- 静水圧 p = ρgh が成り立つ条件(密度一定・静止した液体・深さのみに依存)を説明できる
- 浮力が押しのけた液体の重さに等しいことを、圧力差から導き、計算に使える
- 物体に作用する面積 S と沈んだ体積 V を取り違えずに、圧力と浮力を計算できる
1. 圧力とは「単位面積あたりの力」
同じ力でも、接する面が狭いほど押し込み方はきつくなります。作用する力の大きさを F(N)、力が面に垂直に作用している面積を S(m²)とすると、圧力 p は次のように定義されます。
この定義が使えるのは、力が面に垂直にはたらく場合です。斜めに押す場合は垂直成分だけを使います。質量 m の物体が水平面に静止しているとき、面に垂直な力は重さ mg なので、底面積 S との比 p = mg/S が平均圧力です。面内で一様なら各点の圧力もこの値です。ここで「物体の全表面積」ではなく接している面の面積を使う点が第一の注意です。
一辺 0.20 m の立方体(密度 2.5×10³ kg/m³)を水平な床に置く。立方体の質量と、底面全体を床につけたときの平均圧力を求めよ。次に立方体を質量が無視できる安定した台に載せる。台の脚と床の接触面積の合計が 1.0×10⁻⁴ m² のとき、脚が床に及ぼす平均圧力はいくらか。g = 10 m/s² とする。
解答・解説
体積は V = (0.20)³ = 8.0×10⁻³ m³。質量は m = ρV = 2.5×10³ × 8.0×10⁻³ = **20 kg**、重さは mg = 200 N。底面全体の面積は S = 0.20 × 0.20 = 4.0×10⁻² m² なので、p = 200 / 4.0×10⁻² = **5.0×10³ Pa**。台を介した場合は p = 200 / 1.0×10⁻⁴ = **2.0×10⁶ Pa**。平均圧力は400倍です。床を押す力の合計はどちらも 200 N で、接触面積 S だけが変わりました。
2. 静水圧:深さ h で圧力は p = ρgh に決まる
重力下で静止した密度一定の液体では、同じ液面圧のもとで圧力は深さだけで決まります。また、一点での圧力の大きさは面の向きによらず、液体が面を押す力はその面に垂直です。液体内部に仮想的な鉛直の柱をとり、つり合いから深さとの関係を調べます。
🔍 深さ h の圧力の導出
- 1. 液体柱を取り出す
上面が液面、下面が深さ h にある面積 S の円柱状の液体を考える。液体の密度を ρ(kg/m³)とする。
- 2. この柱の重さ
液面は大気圧 p₀(水面上の気体の圧力)で押している。
- 3. 下面の圧力
周囲の液体も同じ面積 S を同じ力で押すので、水平方向の力はつり合って消える。残るのが鉛直方向の重さだけ。
絶対圧は p = p₀ + ρgh、大気圧を基準とするゲージ圧は p − p₀ = ρgh です。以下「静水圧 p = ρgh」と書く箇所ではゲージ圧を意味します。式が成り立つ条件を確認しましょう。
- 密度が一様で一定の液体であること。気体は密度が高さで変わるため、小さい高さ範囲でなければ ρgh は使えない。
- 液体が静止していること。容器が加速していたり液が流れている場合はそのまま適用できない。
- 深さ h は「液面から測る」。斜めの管の中でも、深さは鉛直距離であって管に沿った距離ではない。
- 圧力自体は向きをもたない量。同じ点に置いた小さな面では向きを変えても圧力の大きさは等しいが、力の向きは面に垂直なので変わる。
水の密度を 1.0×10³ kg/m³、g = 10 m/s² とする。(1) 深さ 0.30 m の水圧(ゲージ圧)はいくらか。(2) 水深 0.30 m、水平な底面積 0.010 m² の開いた容器で、底の内外の圧力差による力はいくらか。外側も大気圧とする。(3) 一様な断面の鉛直管に高さ 0.30 m まで水を入れたとき、管の太さによらず底のゲージ圧が同じになることを確かめよ。表面張力は無視する。
解答・解説
(1) p = ρgh = 1.0×10³ × 10 × 0.30 = **3.0×10³ Pa**。(2) F = pS = 3.0×10³ × 0.010 = **30 N**。(3) 管の断面積を s とすると水の重さは ρ·(0.30·s)·g、底面積も s なので圧力は ρg·0.30 となり、**s が消えて太さによらない**。太さに関係なく「高さだけ」で決まるのが静水圧の特徴です。
3. 浮力:押しのけた液体の重さに等しい
水中の物体では、下の面は深い位置にあるので上向きの圧力が大きく、上の面は浅いので下向きの圧力が小さい。この圧力の差が浮力の正体です。
🔍 浮力の大きさ B = ρgV
- 1. 液中の物体を液体で置き換える
体積 V だけ液体中にある物体を考え、その V を液体で置き換える。置き換えた液体塊は静止している(つり合い)。
- 2. 置き換えた液体塊につり合いの式
液体塊に作用する力は重力 mg と周囲からの浮力 B だけ。静止しているので B = mg。
- 3. 物体に置き換えても同じ
浮力は周囲の液体の圧力分布だけで決まるので、V が同じなら物体の密度や材質によらない。
ここで鍵となるのが V は「沈んだ体積」 だという点です。物体全体が水中なら V は物体の体積、液面に一部だけ出ているなら V は水面下の部分の体積。面積 S は出てこない。圧力の式では S(面積)、浮力の式では V(体積)——これが本レッスンで最も間違いやすい区別です。
| 量 | 式 | 使う量 | 単位の確認 |
|---|---|---|---|
| 圧力 | p = F / S | 力 F と面積 S | N / m² = Pa |
| 静水圧 | p = ρgh | 密度 ρ、深さ h | kg/m³ · m/s² · m = Pa |
| 浮力 | B = ρgV | 密度 ρ、沈んだ体積 V | kg/m³ · m/s² · m³ = N |
4. つり合いで読む:沈むか浮くか
物体の密度を ρ物、液体の密度を ρ液 とします。物体全体が沈んだ状態での重さは ρ物·V物·g、浮力の最大値は ρ液·V物·g です。
- ρ物 > ρ液:完全に浸っていても重力が浮力より大きく、他の支えがなければ沈む。
- ρ物 = ρ液:どこに置いてもつり合う(液中で浮遊)。
- ρ物 < ρ液:物体の一部が液面より上に出て、沈んだ体積 V を調整しながら浮く。このとき ρ物·V物·g = ρ液·V·g がつり合いの式。
密度 0.92×10³ kg/m³ の氷を密度 1.00×10³ kg/m³ の水に浮かべる。(1) 氷の体積の何%が水面下にあるか。(2) 一辺 0.10 m の立方体の氷の質量と、沈んだ体積、そしてこのとき氷が水から受ける「浮力」を求めよ。氷の底面積 S = 1.0×10⁻² m² を浮力の式に入れるのはなぜ誤りか、理由も述べよ。(3) (2) の氷に最大どれだけの質量の小石を載せて沈めずにいられるか(小石の体積は無視、g = 10 m/s²)。
解答・解説
(1) つり合い ρ物·V物·g = ρ液·V沈·g より V沈/V物 = 0.92/1.00 = **92%**。(2) 質量 m = ρ物·V = 0.92×10³ × (0.10)³ = 0.92×10³ × 1.0×10⁻³ = **0.92 kg**。沈んだ体積は V沈 = 0.92 × 1.0×10⁻³ = **9.2×10⁻⁴ m³**、浮力は B = ρ液·g·V沈 = 1.0×10³ × 10 × 9.2×10⁻⁴ = **9.2 N**(= 重さ 9.2 N と一致)。S = 1.0×10⁻² m² を ρgV の V の位置に代入すると 数値は100ですが単位は N/m となり、力ではありません。浮力は**体積**を押しのけた量の重さであって、接触面積だけでは決まらないからです。(3) 浮力の最大値は全体が沈んだとき Bmax = ρ液·g·V物 = 1.0×10³ × 10 × 1.0×10⁻³ = 10 N。氷の重さ 9.2 N なので、余分に支えられるのは 10 − 9.2 = 0.8 N、質量は **0.080 kg(80 g)** まで。
5. まとめ:2つの式の使い分け
- 面積 S が出たら圧力の文脈:p = F/S(物体が面を押す強さ)、p = p₀ + ρgh(深さ h の圧力)。
- 体積 V が出たら浮力の文脈:B = ρ液·g·V沈(押しのけた液体の重さ)。
- 静水圧で「液体の重さ」を考えたときにも ρg·(Sh) の S は途中で消えて、結局深さ h だけが残る。浮力では逆に、水平な上下面をもつ柱状物体なら圧力差 ρgΔh に面積 S を掛け、SΔh を沈んだ体積 V とまとめる。
- g の値と液体の密度は問題文で確認する。本レッスンでは g = 10 m/s²、水は 1.0×10³ kg/m³ を用いた。1.0×10⁵ Pa(約1気圧)は大気圧 p₀ の代表値で、ゲージ圧に加算するかどうかを常に確認する。
質量 60 kg の人が、両足で立ったときの接地面積は合計 0.040 m²、スキー板2枚に乗ったときの接地面積は合計 0.60 m² とする。それぞれの雪面にかかる圧力を求めよ(g = 10 m/s²)。
ヒント
圧力は重さを面積で割る。雪面に垂直な力は重さそのもの。
解答・解説
重さは mg = 600 N。両足では p = 600/0.040 = **1.5×10⁴ Pa**、スキー板では p = 600/0.60 = **1.0×10³ Pa**。力は同じでも面積が15倍になると圧力は1/15になります。
水槽の水深 1.5 m の底に、面積 2.0×10⁻³ m² の小さな板を水平に置いた。この板が上から受ける水の力(ゲージ圧による分)を求めよ。水の密度 1.0×10³ kg/m³、g = 10 m/s²。
ヒント
まず深さ 1.5 m の静水圧を出し、p = F/S で力に戻す。ここでは面積 S を使う場面。
解答・解説
p = ρgh = 1.0×10³ × 10 × 1.5 = 1.5×10⁴ Pa。力は F = pS = 1.5×10⁴ × 2.0×10⁻³ = **30 N**。板の厚さ方向の体積を使ってしまうと単位が合わなくなることに注意。
密度 0.60×10³ kg/m³ の木片(体積 5.0×10⁻⁴ m³)を水(密度 1.0×10³ kg/m³)に浮かべる。沈んだ体積、浮力、そして木片の体積の何%が水面上に出るか(g = 10 m/s²)。
ヒント
つり合い ρ木·V木·g = ρ水·g·V沈。g は両辺で消える。
解答・解説
V沈 = 0.60×10³ × 5.0×10⁻⁴ / 1.0×10³ = **3.0×10⁻⁴ m³**。浮力は B = 1.0×10³ × 10 × 3.0×10⁻⁴ = **3.0 N**(木片の重さ 0.60×10³ × 5.0×10⁻⁴ × 10 = 3.0 N と一致)。水面下の割合は 60%なので水面上は **40%**。
体積 1.0×10⁻⁴ m³、密度 2.7×10³ kg/m³ のアルミ片を水に完全に沈めて静止させてつるすとき、糸の張力はいくらか。水の密度 1.0×10³ kg/m³、g = 10 m/s²。
ヒント
水中では重力と浮力と張力の3つがつり合う。浮力の V は「沈んだ体積=物体全体の体積」。
解答・解説
重さは mg = 2.7×10³ × 1.0×10⁻⁴ × 10 = 2.7 N、浮力は B = 1.0×10³ × 10 × 1.0×10⁻⁴ = 1.0 N。つり合い T + B = mg より T = 2.7 − 1.0 = **1.7 N**。水中では見かけの重さが (ρ物 − ρ液)Vg で軽くなる、という見方もできます。
問1. 静水圧の式 p = ρgh で、深さ h として正しいのはどれ?
問2. 体積 2.0×10⁻⁴ m³ の物体を水に完全に沈めたときの浮力は?水の密度 1.0×10³ kg/m³、g = 10 m/s²。
問3. 浮力の大きさを決めるのはどれ?
問4. 深さが2倍の点での静水圧(ゲージ圧)は、もとの何倍?
問5. 密度 0.80×10³ kg/m³ の物体を密度 1.0×10³ kg/m³ の水に浮かべた。水面下にある体積の割合は?