租税・社会保障・財政――計算できる制度と、議論する公平

財政の3機能を整理し、架空の超過累進税と給付を計算します。制度の仕組みを説明することと、その制度を公平だと評価することを分けて考えます。

この単元の目標
  • 資源配分・所得再分配・景気安定化という財政の3機能を、重なりも含めて説明できる
  • 租税と社会保険料の違い、社会保障の主な構成を説明できる
  • 架空の超過累進税について、税額・平均税率・追加所得にかかる税率を区別して計算できる
  • 制度に関する事実と公平に関する評価を区別し、判断基準と必要な資料を挙げられる
📑 目次
  1. 1.財政は「集める」と「使う」の組合せ
  2. 2.租税と社会保障を混同しない
  3. 3.架空の超過累進税を計算する
  4. 4.税と給付を合わせて分布を見る
  5. 5.自動安定化と、政策変更を分ける
  6. 6.「制度はこう動く」と「公平だ」は別の主張
  7. 出典と、この教材で扱う範囲

1.財政は「集める」と「使う」の組合せ

財政とは、国や地方公共団体が収入を得て、公共サービスなどに支出する活動です。租税はその重要な財源ですが、収入には公債の発行による借入れなどもあります。公債は税と違って返済や利払いを伴うため、「税を増やさずに支出できる」ことと「負担がなくなる」ことは同じではありません。予算は計画、決算は実績なので、資料を比べるときは年度だけでなく両者の別も確認します。

機能中心となる問い例と注意点
資源配分市場だけでは十分に供給されにくい財・サービスをどう確保するか防災・公共的な施設整備など。公的に供給されるものがすべて厳密な意味の公共財とは限らない。
所得再分配税や給付によって所得の分布や生活上の格差をどう調整するか累進課税や低所得者への給付など。負担だけでなく受け取る給付も見る。
景気安定化景気の過度な変動をどう和らげるか不況時の税収減や失業給付の増加など。景気を必ず一定に保てるわけではない。

この3機能は、予算を重複なく三つに仕分ける分類ではなく、政策の働きを分析する視点です。たとえば不況期の公共施設整備には、必要な施設を供給する資源配分と、需要を支える景気安定化の両面があります。支出額が大きいことだけでは、施設の必要性や政策効果の大きさは判断できません。

例題1:一つの政策を二つの機能から読む

架空の自治体が、不況期に老朽化した避難施設を改修する。資源配分と景気安定化の観点から、それぞれ何を調べるべきか。

解答・解説

資源配分では避難需要や施設の安全性、民間だけで必要な整備が進むかなどを調べる。景気安定化では工事の実施時期、雇用や需要への影響などを調べる。同じ改修でも二つの問いは異なり、実施したという事実だけで両方の目的を達成したとはいえない。

2.租税と社会保障を混同しない

租税は、国や地方公共団体が法律に基づき徴収する負担です。個人が納めた額と、その個人が受ける公共サービスの量が一対一に対応するとは限りません。国税・地方税は課税主体による分類、所得課税・消費課税・資産課税は何に負担を求めるかによる分類です。たとえば所得税は国税で所得課税、固定資産税は地方税で資産課税です。別の分類軸を一つに混ぜないことが大切です。

社会保障は、病気、失業、老後、生活困窮などに対して生活を支える仕組みです。厚生労働省は「社会保険」「社会福祉」「公的扶助」「保健医療・公衆衛生」の四つを挙げています。高齢者だけの制度ではなく、子どもや働く世代も対象になります。

仕組み考え方・例財源を見るときの注意
社会保険加入者などが負担し、病気・老齢・失業などのリスクを共同で支える。医療保険・年金保険・雇用保険など。保険料だけでなく公費が投入される制度もある。給付は個人の積立額の返却とは限らない。
社会福祉子ども、障害者、高齢者などの生活を支援するサービス等。公費や利用者負担などの組合せは制度によって異なる。
公的扶助生活に困窮する人に対し、要件に基づいて最低限度の生活などを保障する。生活保護が代表例。生活保護は公費で賄われ、過去の保険料納付を給付条件とする社会保険とは異なる。
保健医療・公衆衛生疾病予防や健康の保持増進、衛生環境の整備など。個人への現金給付だけで社会保障全体を測ることはできない。
社会保険料は制度への加入などに伴う負担で、租税と概念上区別します。ただし、国民健康保険では保険料方式と保険税方式があります。「保険に関する負担はすべて税ではない」と名称だけで断定せず、対象制度と徴収の仕組みを確認しましょう。

3.架空の超過累進税を計算する

ここからの金額・税率・給付は、仕組みを理解するための架空設定です。日本の現行税額や受給額ではなく、申告・家計設計には使えません。年間の課税対象所得をx万円とし、xは0以上。所得控除後の額として扱い、税額控除、社会保険料、他の税、端数処理は考えません。給与収入そのものと課税対象所得は同じではありません。
課税対象所得の部分その部分に適用する架空税率
0万円から200万円までの部分10%
200万円を超え500万円までの部分20%
500万円を超える部分30%

超過累進税率では、上の区分に入ったからといって所得全体に高い税率をかけ直すのではありません。区分を超えた部分にだけ高い税率を適用します。以下でT(x)は税額を万円で表した数値です。境界で税額はつながっています。

T(x)={0.10x(0≤x≤200)20+0.20(x−200)(200<x≤500)80+0.30(x−500)(x>500)T(x)=\begin{cases}0.10x & (0\le x\le200)\\20+0.20(x-200) & (200<x\le500)\\80+0.30(x-500) & (x>500)\end{cases}
例題2:所得600万円なら全額の30%?

上の架空制度で課税対象所得が600万円のとき、税額と平均税率を求める。さらに所得が610万円になったときの税額増加を求めよう。

解答・解説

最初の200万円に20万円、次の300万円に60万円、残る100万円に30万円がかかり、税額は110万円。平均税率は110÷600×100≒18.3%(小数第1位まで)。所得610万円の税額は80+110×0.30=113万円なので増加は3万円。追加の10万円への税率は30%だが、平均税率とは異なる。600×30%=180万円とするのは誤り。

平均税率は税額÷所得(所得が正の場合)です。限界税率は追加の所得にかかる税率で、追加分が区分をまたぐときは分けて計算します。この架空税だけなら所得500万円で税額80万円、501万円で80.3万円なので、税引後は420万円から420.7万円へ増えます。ただし現実の手取りは、保険料や所得制限付き給付などにも影響されるため、この計算だけで一般化できません。

4.税と給付を合わせて分布を見る

例題3:所得格差はどこまで縮まったか

架空のA・B世帯の年間所得はそれぞれ200万円と600万円で、全額を上の課税対象とする。Aには年間50万円、Bには0万円の現金給付がある。この例では「可処分所得=所得−この税+現金給付」と単純化する。給付は課税されず、保険料や他の負担はない。前後の所得差を求めよう。

解答・解説

Aの税は20万円なので可処分所得は200−20+50=230万円。Bの税は110万円なので600−110=490万円。当初の差400万円は260万円になり、140万円縮まる。税負担の差90万円と給付の差50万円が効いている。ただし現物サービス、世帯人数、資産、生活費は比べていないので、生活水準や公平さまで確定できない。

社会保障は所得再分配に関わりますが、それだけではありません。医療保険は病気になるリスクを共同で支え、年金は老後の所得を支えるなど、生涯を通じた保障の面があります。ある年だけの負担と給付で「得をした人・損をした人」を決めると、病気や年齢による変化を見落とします。

5.自動安定化と、政策変更を分ける

景気が悪化して所得が減ると、税率を改正しなくても所得税負担が減り、税引後所得の落込みが緩和されます。失業者が増えれば、要件を満たす人への失業給付も増えます。このように既存制度が景気変動を和らげる働きを自動安定化機能といいます。新たな減税や追加支出を決める裁量的な財政政策とは区別します。効果は制度や受給要件に左右され、物価上昇や財政負担との兼ね合いも検討が必要です。

6.「制度はこう動く」と「公平だ」は別の主張

「この税率表では600万円の税額は110万円」は、条件と計算で確かめられる記述です。一方「その負担は公平だ」は、どんな公平を重視するかを含む評価です。評価が無意味なのではなく、基準を明示することで議論が可能になります。制度が法律で定められている事実だけでも、その制度を最善と評価する根拠にはなりません。

公平を考える視点問いの例
水平的公平同じ負担能力をもつ人を同じように扱っているか。何を「同じ条件」とみなすか。
垂直的公平負担能力の異なる人にどの程度異なる負担を求めるか。
応能負担と応益負担支払う能力に応じるか、受ける便益に応じるか。便益の測定が難しいサービスもある。
世代間・生涯での比較現在の給付と将来の負担、同じ世代内の格差をどう捉えるか。
制度を評価するときは、①確かめた事実、②重視する基準、③基準に照らした評価、④未確認の点、の順に書きます。「所得差が縮んだので、所得格差の縮小を重視する基準では改善した。ただし世帯人数や就労への影響は未確認」のように、結論の範囲を限定すると議論が明確になります。
練習:計算・機能・評価を切り分ける
  1. 架空税制で課税対象所得350万円の税額と平均税率を求めよ。平均税率は小数第1位まで。

    解答・解説

    税額は200×0.10+150×0.20=50万円。平均税率は50÷350×100≒14.3%。350万円全体に20%をかけない。

  2. 架空税制で所得が490万円から510万円へ増えた。税額の増加はいくらか。

    解答・解説

    490万円の税額は20+290×0.20=78万円、510万円では80+10×0.30=83万円。増加は5万円。追加分20万円のうち最初の10万円には20%、残りには30%がかかる。

  3. 不況で所得が600万円から500万円に減る。架空税だけを考え、給付なしとして税引後所得の減少を求め、自動安定化との関係を述べよ。

    解答・解説

    税額は110万円から80万円に減少。税引後所得は490万円から420万円へ70万円減る。税前の100万円減に比べ落込みが小さく、税率改正なしで負担が30万円減ることが緩衝となる。所得の減少そのものがなくなるわけではない。

  4. 「例題3では所得差が140万円縮まった。だから全世帯にとって公平な制度だ」という文章を、事実と評価に分け、足りない点を一つ挙げよ。

    解答・解説

    前半は条件下の計算事実、後半は公平に関する評価。「全世帯」とする資料はなく、公平の基準も不明。たとえば世帯人数や資産を考慮する基準なら、その情報が必要となる。

確認クイズ

問1. 必要な避難施設が市場だけでは十分整備されないため自治体が供給する、という説明が直接注目する財政機能は?

問2. この記事の架空税制で課税対象所得500万円の税額は?

問3. 社会保障について適切なのは?

問4. 制度の記述と公平の評価の区別として適切なのは?

出典と、この教材で扱う範囲

  • 財務省「税の種類に関する資料」 https://www.mof.go.jp/tax_policy/summary/condition/a01.htm (2026年9月17日閲覧)。国税・地方税、所得・消費・資産課税の分類と例を確認。掲載税目の全一覧や個別の施行時期を本文で再現するものではない。
  • 厚生労働省「社会保障とは何か」 https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_21479.html (2026年9月17日閲覧)。社会保障の四つの構成と生涯にわたる対象範囲を確認。ページ本文に基準日の明示がないため、個別制度の給付要件・金額の現行性まではこの資料から判断しない。
  • 国税庁「No.2260 所得税の税率」 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/2260.htm (令和8年4月1日現在法令等、2026年9月17日閲覧)。実際の所得税では課税所得に区分別の税率と速算控除を用い、分離課税などの例外があることを確認。本教材の200万円・500万円の区分と10%・20%・30%は実際の税率表ではない。
財政の3機能と公平の視点は分析のための概念整理です。例題の自治体・世帯・税・給付はすべて教材用に作成しており、実際の政策効果や所得分布の統計ではありません。特定の税率や給付制度の是非をこれらの計算だけで結論づけることはできません。
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