音程を測る数学:十二平均律・純正な音程・セント

音の高さを周波数の比で捉え、十二平均律の指数関数とセントの対数を導く。純正な五度や長三度とのずれ、五度を12回積んでも閉じない理由を計算する。

この単元の目標
  • 同じ音程を周波数の差ではなく比で表し、十二平均律の周波数を計算できる
  • セントの定義を対数から導き、音程の合成と向きの反転を説明できる
  • 純正な五度・長三度と十二平均律の違いを、Hzとセントを区別して比較できる
  • 純正な五度の積み重ねとオクターブが一致しないことを整数の性質で説明できる
📑 目次
  1. 1.音程は「何Hz違うか」ではなく「何倍か」
  2. 2.十二平均律の「平均」は比をそろえること
  3. 3.セント:掛け算を足し算に変える目盛り
  4. 4.純正な音程と平均律のずれを測る
  5. 5.純正な五度を12回積んでも閉じない
  6. 練習:比・Hz・セントを使い分けよう
  7. 計算の根拠と適用範囲

1.音程は「何Hz違うか」ではなく「何倍か」

一定の高さをもつ音の基本周波数を f と書きます。単位の Hz(ヘルツ)は1秒あたりの振動回数です。ここでは周波数が正で安定しており、オクターブを周波数比2:1とする理想的な音律を考えます。打撃音や雑音など、基本周波数を一つに定めにくい音には、そのまま当てはめられません。

220 Hzから440 Hzへも、440 Hzから880 Hzへも、比は2なので1オクターブ上です。しかし差はそれぞれ220 Hzと440 Hz。音程を同じ仕組みで移し替えたいなら、差ではなく比を使うのが便利です。本稿で扱う「音程」は周波数比で定義する尺度であり、人の主観的な聞こえを完全に数式化するものではありません。

r=f2f1>0,f3f1=f3f2f2f1r=\frac{f_2}{f_1}>0,\qquad \frac{f_3}{f_1}=\frac{f_3}{f_2}\frac{f_2}{f_1}

分子と分母を同じ単位で表すので、比 r には単位がありません。上行では r>1、同じ高さなら r=1、下行では 0<r<1。音程を続けて上がる操作は「比の掛け算」、逆向きに進む操作は「比の逆数」になります。

2.十二平均律の「平均」は比をそろえること

十二平均律は、1オクターブを同じ周波数比の半音12個に分ける方式です。各半音の比を q とすれば、12回掛けて2になるように決めます。12個の周波数差を等しくするのではありません。

🔍 半音の比と、n半音先の周波数

  1. 12個の同じ比で1オクターブ
    q12=2,q>0q^{12}=2,\qquad q>0
  2. 正の12乗根を取る
    q=21/12≈1.059463q=2^{1/12}\approx1.059463

    半音上がるたびに、直前の周波数を約1.059463倍します。

  3. 基準の周波数f₀からn半音移動
    fn=f0qn=f0 2n/12,f0>0,n∈Zf_n=f_0q^n=f_0\,2^{n/12},\qquad f_0>0,\quad n\in\mathbb Z

    nが負なら下行です。基準周波数を変えても各音程の比は変わりません。

例題1:440 Hzから7半音上と12半音上

計算の基準音を440 Hzと定める。十二平均律で7半音上(完全五度)と12半音上(1オクターブ)の周波数を求めよう。

解答・解説

7半音上は 440×27/12≈659.255440\times2^{7/12}\approx659.255 Hz。12半音上は 440×212/12=880440\times2^{12/12}=880 Hzです。前者は小数第3位までの近似、後者はこの基準設定のもとでの厳密値です。440 Hzは本稿の計算条件であり、すべての演奏がこの基準を使うという意味ではありません。

例題2:オクターブの「真ん中」は660 Hz?

440 Hzと880 Hzの間を、上下の周波数比が同じになるよう二分する周波数 x を求めよう。

解答・解説

x/440=880/xx/440=880/x より x2=440×880x^2=440\times880。x>0なので x=4402≈622.254x=440\sqrt2\approx622.254 Hzです。これは6半音上に一致します。算術平均660 Hzでは下側の比が660/440=3/2、上側の比が880/660=4/3となって等しくありません。音程を二等分する値は算術平均ではなく幾何平均です。

3.セント:掛け算を足し算に変える目盛り

1オクターブを1200セント、十二平均律の半音を100セントとする目盛りを使います。周波数比 r が「2を何乗したものか」を調べれば、オクターブ何個分かが分かります。その指数を与える関数が底2の対数です。log₂ r=x とは 2のx乗が r という意味です。

c=1200log⁡2r=1200ln⁡rln⁡2,r=2c/1200(r>0)c=1200\log_2 r=1200\frac{\ln r}{\ln2},\qquad r=2^{c/1200}\quad(r>0)

cはセント表示の数値です。lnは自然対数ですが、分子と分母をともに常用対数にしても同じ値になります。Hzをそのまま対数に入れるのでなく、単位をそろえた周波数の比を入れます。上行なら正、下行なら負、同じ周波数なら0セントです。

🔍 なぜ音程を足せるのか

  1. 対数は積を和にする
    c(r1r2)=1200log⁡2(r1r2)=c(r1)+c(r2)c(r_1r_2)=1200\log_2(r_1r_2)=c(r_1)+c(r_2)

    r₁、r₂はいずれも正。続けて進む二つの音程を、セントでは足し算できます。

  2. 逆向きは符号反転
    c(1/r)=−c(r)c(1/r)=-c(r)
  3. 平均律のn半音を換算
    1200log⁡2(2n/12)=100n1200\log_2(2^{n/12})=100n

    平均律の五度は7半音なのでちょうど700セントです。

100セントは100 Hzでも100%増でもありません。100セント上の比は約1.059463なので約5.946%増です。同じ100セントでも、220 Hzからの増加は約13.082 Hz、440 Hzからの増加は約26.164 Hzで、Hzの差は出発点に依存します。

4.純正な音程と平均律のずれを測る

ここでは純正な完全五度を周波数比3:2、純正な長三度を5:4として扱います。「完全」は音程の分類名であり、平均律の完全五度が比3:2に厳密に一致するという意味ではありません。また、純正律には音の選び方があり、この二つの比だけであらゆる調の全音を一意に決められるわけではありません。

整数比の意味は、理想的な倍音からも説明できます。低い音を f、高い音を3f/2とすると、低い音の第3倍音3fと高い音の第2倍音2×(3f/2)が一致します。5:4なら低い音の第5倍音と高い音の第4倍音が一致します。ただし各倍音が十分に含まれるかは音色によります。単純な比なら誰にでも必ず心地よく聞こえる、と結論することはできません。

音程純正な比純正な音程のセント十二平均律のセント平均律−純正(セント)
完全五度3/2約701.955700約−1.955
長三度5/4約386.314400約+13.686
オクターブ2120012000

表の小数は各式を計算して小数第3位に丸めたものです。「平均律−純正」が負なら、同じ低音から測った平均律の上側の音は純正な上側の音より低くなります。二つの音律のずれは、セント値を引くか、周波数どうしの比を取ってから対数にすることで求められます。

Δc=1200log⁡2 ⁣(fequalfpure)=cequal−cpure\Delta c=1200\log_2\!\left(\frac{f_{\mathrm{equal}}}{f_{\mathrm{pure}}}\right)=c_{\mathrm{equal}}-c_{\mathrm{pure}}
例題3:440 Hzを低音とする長三度

純正な長三度の上側の音と、十二平均律で4半音上の音を比べよう。平均律の方が何Hz、何セント高いか。

解答・解説

純正では 440×5/4=550440\times5/4=550 Hz。平均律では 440×24/12≈554.365440\times2^{4/12}\approx554.365 Hzです。差は約4.365 Hz。セント差は 1200log⁡2(21/3/(5/4))=400−1200log⁡2(5/4)≈13.6861200\log_2(2^{1/3}/(5/4))=400-1200\log_2(5/4)\approx13.686 セントです。低音を880 HzにすればHz差は倍になりますが、周波数比が同じなのでセント差は変わりません。

5.純正な五度を12回積んでも閉じない

十二平均律の五度は7半音です。これを12回積むと84半音、つまり7オクターブなので、出発音と同じ音名の高さに戻ります(周波数は128倍)。では、各五度を厳密な3:2にしたらどうなるでしょうか。

(32)12≠27,R=(3/2)1227=312219=531441524288≈1.013643\left(\frac32\right)^{12}\ne2^7,\qquad R=\frac{(3/2)^{12}}{2^7}=\frac{3^{12}}{2^{19}}=\frac{531441}{524288}\approx1.013643

等しくなるなら3の12乗と2の19乗が等しくなければなりません。しかし前者は奇数、後者は偶数なので等しくありません。さらに一般に、正の回数mの純正五度が正の回数kのオクターブと一致すると仮定しても、3のm乗=2の(m+k)乗となり不可能です。これは丸め誤差ではなく、整数比の構造そのものの違いです。

例題4:閉じない幅をセントで計算する

純正五度12回と7オクターブの差をセントで求め、その差を12個の五度へ等分した場合の五度の幅を確かめよう。

解答・解説

差は 1200log⁡2R=12×1200log⁡2(3/2)−7×1200≈23.4601200\log_2 R=12\times1200\log_2(3/2)-7\times1200\approx23.460 セントです。この差はピタゴラス・コンマと呼ばれます。各五度を約23.460/12=1.955セント狭めれば、約701.955−1.955=700セントになります。厳密には c(3/2)−(12c(3/2)−8400)/12=700c(3/2)-(12c(3/2)-8400)/12=700。Hz差の等分ではなく、対数で測った音程差の等分です。

十二平均律は、すべての調で同じ半音数なら同じ比になる利点をもちます。その代わり、五度や長三度の単純な整数比からは少しずれます。「平均律は不正確で純正律だけが正解」という二択ではなく、移調のしやすさと特定の整数比の両立に制約があると捉えましょう。実際の楽器では倍音が整数倍からずれる場合があり、ピアノなどの実際の調律が理想的な式から補正されることもあります。

練習:比・Hz・セントを使い分けよう

練習問題
  1. 440 Hzの音から、十二平均律で12半音下がった周波数はいくらか。音程をセントでも答えよう。

    解答・解説

    440×2−12/12=220440\times2^{-12/12}=220 Hzです。比が1/2なので 1200log⁡2(1/2)=−12001200\log_2(1/2)=-1200 セント。下行を負で表しています。

  2. 比3/2の純正五度を上がり、続けて比4/3の純正四度を上がる。全体の周波数比とセントはいくらか。

    解答・解説

    比は(3/2)×(4/3)=2なので1オクターブ、1200セントです。五度は約701.955、四度は約498.045セントで、和も1200になります。比は掛け、セントは足します。

  3. 基準音より50セント高い音の周波数比を求めよう。基準が440 Hzなら何Hzか。小数第3位まで答えよう。

    解答・解説

    比は 250/1200=21/24≈1.0293022^{50/1200}=2^{1/24}\approx1.029302。周波数は 440×21/24≈452.893440\times2^{1/24}\approx452.893 Hzです。50セントだから440に50を足す、という計算ではありません。

  4. 440 Hzと442 Hzの差を、442 Hzを上側としてセントで求めよう。このセント差は880 Hzと884 Hzでも同じか。

    解答・解説

    1200log⁡2(442/440)≈7.8511200\log_2(442/440)\approx7.851 セントです。884/880=442/440なので後者も同じ値です。Hzの差は2 Hzと4 Hzで異なりますが、どちらも同じ倍率の変化です。

確認クイズ

問1. 十二平均律の隣り合う半音について、基準の高さによらず一定なのはどれか。

問2. 周波数比が1の音程は何セントか。

問3. 同じ低音に対し、十二平均律の長三度の上側の音は、純正な比5:4の上側の音と比べてどうなるか。

問4. 純正五度を12回積んだ周波数と7オクターブ上の周波数が一致しない根拠はどれか。

計算の根拠と適用範囲

本稿の数値は、オクターブ比2、十二平均律の半音比2^(1/12)、純正五度3/2、純正長三度5/4、セントの定義1200 log₂(r)から算出したもので、観測統計や歴史上の年代の引用ではありません。基準の440 Hzは例題の仮定です。小数は原則として最終結果を小数第3位に丸め、比の近似は第6位まで示しました。音律の比較は理想的な基本周波数に対するもので、楽器固有の倍音、演奏中の音高変化、聞き取り能力や好みの差までは予測しません。

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