ラグランジュ形式の力学

力の成分を直接追う代わりに、ラグランジアンから運動方程式を導く。

この単元の目標
  • ラグランジアンを書き下せる
  • オイラー=ラグランジュ方程式で運動方程式を導出できる
  • ニュートン力学との違い(スカラーだけで済む利点)を説明できる
📑 目次
  1. なぜもう一つの形式が必要か
  2. ラグランジアン
  3. 対称性と保存則(ネーターの定理)

なぜもう一つの形式が必要か

ニュートンの方程式 F=maF = ma はベクトルを扱います。拘束があると「力の成分」をいちいち分解するのが面倒になる。ラグランジュ形式では、系の状態を一般化座標 qiq_i(角度や長さなど、自由度そのもの)で表し、スカラー量だけで運動方程式が出ます。

ラグランジアン

ここでは一定質量の粒子からなる保存力系で、位置エネルギーが速度に依存せず、拘束は一般化座標に組み込めるホロノミックな理想拘束である場合を扱います。この条件で L=T−VL=T-V が使えます。摩擦などの非保存力があれば一般化力を右辺に加える必要があり、電磁場中の荷電粒子では速度に依存する相互作用項も必要です。

L(q,q˙,t)=T−V(運動エネルギー−位置エネルギー)L(q, \dot{q}, t) = T - V \quad (\text{運動エネルギー} - \text{位置エネルギー})
ddt∂L∂q˙i−∂L∂qi=0(i=1,…,n)\frac{d}{dt}\frac{\partial L}{\partial \dot{q}_i} - \frac{\partial L}{\partial q_i} = 0 \qquad (i = 1, \dots, n)

🔍 オイラー=ラグランジュ方程式の導出——作用を停留させる条件

  1. Step 1: 作用積分を定義
    S[q]=∫t1t2L(q,q˙) dtS[q] = \int_{t_1}^{t_2} L(q, \dot{q})\, dt

    実際の運動 q(t) はこの積分 S を停留(微小な変化に対して1次の変化なし)にする。

  2. Step 2: 経路を少しだけ変える
    q(t)→q(t)+εη(t),η(t1)=η(t2)=0q(t) \to q(t) + \varepsilon\eta(t), \quad \eta(t_1) = \eta(t_2) = 0

    両端は固定(始点・終点は同じ)なので、変化 η は両端でゼロという関数。

  3. Step 3: 停留条件 dS/dε = 0 を書く
    δS=∫(∂L∂qη+∂L∂q˙η˙)dt=0\delta S = \int \left( \frac{\partial L}{\partial q}\eta + \frac{\partial L}{\partial \dot{q}}\dot{\eta} \right) dt = 0

    部分積分で第二項を変形すると、η の係数だけが残る形になる。

  4. Step 4: 部分積分と任意性
    ∫∂L∂q˙η˙ dt=[∂L∂q˙η]t1t2−∫ddt(∂L∂q˙)η dt\int \frac{\partial L}{\partial \dot{q}}\dot{\eta}\,dt = \left[ \frac{\partial L}{\partial \dot{q}}\eta \right]_{t_1}^{t_2} - \int \frac{d}{dt}\left(\frac{\partial L}{\partial \dot{q}}\right)\eta\,dt

    境界項は η が端点で 0 なので消える。η を任意にとれるため、残った積分が常に0なら係数そのものが0でなければならない。

  5. Step 5: 結論
    ddt∂L∂q˙−∂L∂q=0\frac{d}{dt}\frac{\partial L}{\partial \dot{q}} - \frac{\partial L}{\partial q} = 0

    これが運動方程式。ニュートンの運動方程式と同じ内容を、スカラー量 L を使って表現したものです。力のつり合いは加速度がゼロの場合に限られます。

このオイラー=ラグランジュ方程式が、qiq_i ごとの運動方程式そのものです。「実際の運動は、作用積分 S=∫L dtS = \int L \, dt を停留(極小とは限らない)にする」——この最小作用の原理から変分法で導かれます。

例題(単振り子)

固定支点から長さ ll の質量のない伸びない糸で質点 mm をつるし、鉛直面内で振らせる。糸は張っており、摩擦と空気抵抗は無視する。一様重力中で、鉛直下向きから測る角 θ\theta を一般化座標として運動方程式を求めよ。

解答・解説

T=12ml2θ˙2T = \tfrac{1}{2} m l^2 \dot{\theta}^2、V=mgl(1−cos⁡θ)V = mgl(1 - \cos\theta) より L=T−VL = T - V。 ddt(ml2θ˙)+mglsin⁡θ=0  ⇒  θ¨=−glsin⁡θ\frac{d}{dt}(m l^2 \dot{\theta}) + mgl\sin\theta = 0 \;\Rightarrow\; \ddot{\theta} = -\frac{g}{l}\sin\theta 微小振動 sin⁡θ≈θ\sin\theta \approx \theta で高校でおなじみの単振動に戻る。

対称性と保存則(ネーターの定理)

  • ラグランジアンが時間を陽に含まない → 一般化エネルギー保存(通常の時間に依存しない拘束と L=T−VL=T-V では力学的エネルギー T+VT+V)
  • 空間並進に対して不変 → 運動量保存
  • 回転に対して不変 → 角運動量保存
「保存則 = 対称性」という対応は現代物理の設計原理です。素粒子論で「どの対称性をもつか」から相互作用が決まるのは、この定理の延長線上にあります。
練習問題
  1. 自由粒子(力を受けない)の LL を書き、運動方程式をオイラー=ラグランジュ方程式から求めよ。

    ヒント

    V=0V = 0、T=12mx˙2T = \tfrac{1}{2}m\dot{x}^2。

    解答・解説

    L=12mx˙2L = \tfrac12 m \dot x^2。∂L/∂x˙=mx˙\partial L/\partial \dot x = m\dot x、∂L/∂x=0\partial L/\partial x = 0 なので mx¨=0m\ddot x = 0 ——等速直線運動が自動的に出る。

  2. 重力中の放物運動で保存する量を挙げ、ラグランジアンのどの性質から従うか説明せよ。

    解答・解説

    空気抵抗のない一様重力中の鉛直面内運動なら L=12m(x˙2+y˙2)−mgyL=\tfrac12m(\dot x^2+\dot y^2)-mgy。xx を含まないので水平方向の運動量 px=mx˙p_x=m\dot x が保存し、時間を陽に含まないので力学的エネルギー E=12m(x˙2+y˙2)+mgyE=\tfrac12m(\dot x^2+\dot y^2)+mgy も保存する。鉛直方向の運動量は重力により変化する。3次元ならもう一つの水平成分の運動量も保存する。

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