日本語の「なぜ?」——文字・発音・敬語のヒミツ

助詞の「は」が wa と読む理由から敬語の数まで、日本語に関する身近な疑問に答える。

この単元の目標
  • 表記と発音の変化を区別する
  • 助詞の役割を例文で確かめる
  • 敬語で誰を立てるのかを説明する
助詞を残して動かす/助詞を入れ替える

①「犬が猫を追う」②「猫を犬が追う」③「猫が犬を追う」を比べます。単に名詞の登場順を見るのではなく、「犬が」「猫を」のように助詞までを一組として読みましょう。

解答・解説

①②では犬が追い、③では猫が追います。①②は同じ出来事を表せますが、文脈上の強調は同じとは限りません。日本語にも語順の制約があり、助詞を省略した会話では文脈や語順への依存が大きくなります。

日本語を観察する練習(解答つき)
  1. 「太郎が花子に本を渡した」を、誰が誰に何を渡したかを変えずに並べ替えてください。「太郎に花子が本を渡した」との違いも説明しましょう。

    解答・解説

    例:「花子に太郎が本を渡した」。助詞を付けたまとまりを動かしているので、渡す人は太郎、受け取る人は花子のままです。「太郎に花子が…」では助詞の組合せが変わり、渡す人は花子になります。

  2. 「先生がいらっしゃる」「先生のお宅に伺う」「明日、会場に参ります」の敬語の動詞を抜き出し、誰への敬意に関わるかを答えてください。

    解答・解説

    「いらっしゃる」は尊敬語で動作主の先生を立てます。「伺う」は謙譲語Iで訪問先の先生を立てます。「参る」は謙譲語IIで自分側の行為を聞き手に丁重に述べます。「ます」は別に丁寧語です。

  3. 「母は学校へ行く」の助詞を読みで表してください。また「を」を o と読む変化もハ行転呼と言ってよいでしょうか。

    解答・解説

    助詞「は」は wa、「へ」は e と読みます。「を」はハ行ではなく、wo と o の区別が失われた変化なので、ハ行転呼そのものとは区別します。

Q. なぜ助詞の「は」は「わ」ではなく「は」と書いて wa と読むの? A. 平安時代に進んだ、語中・語尾のハ行音がワ行音へ変わる「ハ行転呼」が関係します。助詞の「は」も前の語に続けて発音され、wa になったと考えられています。現代仮名遣いでも助詞は「は」と書く慣習を残しました。「へ」を e と読むことにもハ行転呼などが関係しますが、「を」を o と読むのは wo と o の区別が失われた別の音変化です。
Q. なぜ日本語には英語のような冠詞(a/the)がないの? A. 言語によって、文法で必ず示す情報が違うからです。英語の a/the は、聞き手がどの対象かを特定できるかなどに関わります。日本語では文脈や「その」などを利用し、「猫を見た」の「猫」が既知の猫かどうかを毎回明示する必要はありません。助詞「は・が」をそのまま the/a に置き換えることもできません。冠詞を持たない言語には中国語やロシア語もあります。
Q. 敬語はいったい何種類あるの? A. 2007年の文化審議会「敬語の指針」は、尊敬語・謙譲語I・謙譲語II(丁重語)・丁寧語・美化語の5種類に分類しています。「先生がいらっしゃる」は動作主を立てる尊敬語、「先生に伺う」は動作の向かう先を立てる謙譲語Iです。「明日、会場に参ります」の「参る」は、自分側の行為を聞き手に丁重に述べる謙譲語IIで、会場そのものを立てるわけではありません。
Q. 「すし」はなぜ海外でも sushi と呼ばれるの? A. 日本の食文化が海外に広がる中で、料理名も借用されたためです。英語の辞書にも sushi が収録されています。ただし全世界の誰にでも通じるわけではなく、発音や指す料理の範囲にも地域差があります。普及には飲食店、移住、流通、メディアなどが関わり、「発音が簡単だから」という理由だけでは説明できません。
Q. 「サラリーマン」は本当は英語じゃないの? A. salary と man を組み合わせた和製英語で、英語では salaried worker や office worker と言います。ただし世界的に有名になったため、英語の辞典には salaryman が日本発の語として項目ごと載っているほどです。和製英語の中でも成功例といえます。
Q. ひらがなとカタカナはなぜ、どうやって生まれたの? A. 日本語の音を漢字で表す万葉仮名をもとに、平安時代にかけて発達しました。ひらがなは漢字全体の草書体から、カタカナは主に漢文の読みを注記する際に漢字の一部を使うことから生まれました。例えば「安」は「あ」、「阿」の一部は「ア」のもとです。ひらがなは「女手」とも呼ばれ女性の文学で発達しましたが、女性だけが使ったわけではありません。
Q. 漢字はいつ、どうやって日本に来たの? A. 大陸との交流を通じ、漢字のある品物と、文字を読んだり書いたりする知識が段階的に伝わりました。57年の授与と結びつけられる「漢委奴国王」の金印は、早い時期の文字資料として有名です。ただし文字入りの品物が届くことと、日本で広く読み書きされることは別です。王仁が書物を伝えたという伝承もありますが、それをそのまま漢字伝来の唯一の出来事や確定年代とはできません。
Q. なぜ日本語は語順を入れ替えても意味が通じるの? A. 「犬が猫を追う」と「猫を犬が追う」は、助詞「が・を」が役割を示すので、追う側と追われる側を保てます。ただし話題や強調、自然さは変わり、どんな語順でもよいわけではありません。「膠着語」は、語幹に文法的な要素を次々と付ける傾向を指す分類です。「食べ・させ・られ・た」のような語の作り方に関する用語で、語順が自由という意味ではありません。
Q. 「おにぎり」「お茶」の「お」は何のためについているの? A. 「お茶」のように物事を上品に表す「お」は美化語として説明されます。「おにぎり」のように「お」を含む形が日常語として定着した語もあります。ただし「先生のお名前」の「お」は相手を立てる働きです。同じ「お・ご」でも、語と文脈によって美化語や尊敬語などの働きが異なります。
Q. 昔の日本人は「は」をどう発音していたの? A. ハ行子音は、古くは p に近い音で、のちに両唇の間で息をこする音 [ɸ] を経たと推定されています。古い時代の音は録音がなく、表記資料や他言語・琉球諸語との比較から再構成します。語中・語尾ではハ行転呼が進み、語頭でも後世に多くが現在の h などへ変化しました。正確な変化の時期や地域差には研究上の議論があります。
Q. 「あいうえお」の並びは誰が決めたの? A. 五十音図は平安時代の音の研究の中で発達し、一人が一度に今の形を決めたわけではありません。サンスクリットの文字・音を研究する悉曇学や漢字音の研究の影響が指摘されています。11世紀後半の明覚の『反音作法』も関連する資料です。現代の図は、縦に母音、横に子音の系列をそろえて仮名を整理しますが、シ・チ・ツなどでは実際の子音にも違いがあります。
Q. 「いろはにほへと」の歌はなんのため作られたの? A. 当時の仮名47字をすべて一度ずつ使った七五調の歌で、11世紀ごろには存在したとされます。手本となる字体が全部そろっているので文字の練習に便利で、江戸時代には辞書の索引順にも採用されました。内容も「色は匂へど散りぬるを…」と美しいものの無常を詠んでいます。
Q. 日本語に方言が多いのはなぜ? A. 地理的な隔たり、人々の交流の範囲、地域の歴史などにより、言葉が異なる変化を重ねたためです。近代以降、東京の言葉を主な基盤とする標準語が学校教育などで広まり、20世紀には放送も普及に関わりました。共通語が広く使われる現在も、方言は地域や世代、場面に応じて使われています。
Q. 「いただきます」にぴったり合う英語の訳はないの? A. 食前に同じように使う定型句が一対一で対応するとは限りません。料理を用意した人への感謝なら Thank you for the meal、食べ始める呼びかけなら Let’s eat など、場面に応じて訳せます。日本語で込める気持ちにも個人差があります。「一語で対応しない」ことは「意味を伝えられない」ことではありません。
Q. 猫の鳴き声はなぜ言語ごとに違うの? A. 猫は世界のどこでも同じ声で鳴いているのに、人は自分の言語の音の並びに近いかたちで聞き取って擬音語にします。英語なら meow、フランス語なら miaou、中国語なら miao、日本語なら「ニャー」です。オノマトペは客観的な録音ではなく、その言語の音の体系をフィルターにした作品なのです。
Q. なぜ「ん」で始まる日本語の単語はほとんどないの? A. 日本語の伝統的な音の並びでは、撥音「ん」は主に母音の後に現れ、普通の和語の語頭には立ちにくいからです。ただし「ん?」という応答や、地名「ンジャメナ」のような外来の固有名詞はあります。「ん」は語末にも現れます。また、標準語で珍しいことを、すべての地域の言葉にも当てはまる絶対的な禁止と考えないようにしましょう。
確認クイズ(5問)

問1. 助詞「は」が wa と読むようになったことに関わる音変化は?

問2. 2007年の「敬語の指針」による敬語の分類は何種類?

問3. ひらがなのもとになった字体は?

問4. 「犬が猫を追う」で誰が何をしたかを示しているのは?

問5. 万葉仮名とはどのようなもの?

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