群集の遷移と生物多様性の保全

遷移の過程、多様度指数の計算、島の生物地理学、レッドリストと外来種問題を学ぶ。

この単元の目標
  • 一次遷移と二次遷移の違い、遷移の通則を説明できる
  • シンプソンの多様度指数を計算し、種数と均等度を区別して評価できる
  • 島の生物地理学の理論から保護区設計の要点を説明できる
  • レッドリストの区分と外来種問題への対策を述べられる
📑 目次
  1. 遷移——群落は時間とともに変わる
  2. 多様度指数——種数だけでは足りない
  3. 島の生物地理学
  4. 絶滅危惧種とレッドリスト
  5. 外来種問題と保全の実際

遷移——群落は時間とともに変わる

生物がほとんどいない場所(溶岩台地や砂地など)から始まる遷移を一次遷移、火災や伐採などで破壊されたあと土壌が残っている場所から始まる遷移を二次遷移と呼びます。一次遷移ではまずコケや地衣類が岩石を風化させて土壌をつくり、草本 → 低木 → 高木へと進みます。二次遷移は土壌や種子・地下茎が残っているぶん、一次遷移より速く進みます。遷移の終点である極相(クライマックス群落)は気候でほぼ決まり、日本の温帯ではブナやシイ・カシの森になります。

  • 遷移の通則: 群集の高さ・個体の大きさ・寿命は増え、種数も一般に増加して極相で安定する
  • 生産と呼吸: 成熟した生態系の単純化した平衡では、総一次生産量と生態系全体の呼吸量がほぼつり合い、正味の有機物蓄積が小さくなる。純一次生産量=総一次生産量−生産者の呼吸量とは区別する
  • 遷移は可逆的にもなる: 火山噴火のような大規模な撹乱で以前の段階に戻ることがあります

多様度指数——種数だけでは足りない

群集の多様さは種数と均等度(各種の個体数の偏り)で評価します。ここではシンプソンの逆数指数 D = 1/Σpᵢ² を使います。Σpᵢ² は独立に復元抽出した2個体が同種になる確率で、D はその逆数です。別種になる確率は1−Σpᵢ²であり、D そのものではありません。「シンプソン指数」は文献によりこの3種類を指すので、必ず定義式を確認しましょう。

D=1∑i=1spi2,pi=niND = \frac{1}{\displaystyle\sum_{i=1}^{s} p_i^{2}}, \qquad p_i = \frac{n_i}{N}

🔍 シンプソンの多様度指数を手で計算する

  1. Case 1: 2種が各50個体
    ∑pi2=0.52+0.52=0.5⇒D=10.5=2\sum p_i^2 = 0.5^2 + 0.5^2 = 0.5 \quad \Rightarrow \quad D = \frac{1}{0.5} = 2

    同種になる確率が0.5なので、その逆数 D は2。この例では別種になる確率も偶然0.5です。

  2. Case 2: 4種が各25個体
    ∑pi2=4×0.252=0.25⇒D=10.25=4\sum p_i^2 = 4 \times 0.25^2 = 0.25 \quad \Rightarrow \quad D = \frac{1}{0.25} = 4

    各種の割合が等しいとき、この定義の D は種数に正確に一致します。別種になる確率は0.75で、その逆数ではありません。

  3. Case 3: 2種でも偏りがある場合(90 : 10)
    ∑pi2=0.92+0.12=0.82⇒D=10.82≈1.22\sum p_i^2 = 0.9^2 + 0.1^2 = 0.82 \quad \Rightarrow \quad D = \frac{1}{0.82} \approx 1.22

    種数は Case 1 と同じ 2 でも D は 2 から 1.22 へ下がりました。偏り(低い均等度)が多様度を下げることを示す好例です。

指標見ているもの長所・短所
種数(s)何種いるか簡単だが、1種が圧倒的に優占していても高くなる
シンプソンの逆数指数 D同種になる確率の逆数均等な群集の何種分に相当するかで解釈できる。定義の違いに注意
シャノンの H群集の不確かさ(情報量)シンプソン指数より希少種の影響を受けやすい。対数の底が2なら単位はビット、自然対数ならナット

島の生物地理学

マッカーサーとウィルソンは、島の種数が新規移住による加入と局所絶滅のつり合いで決まると考えました。本土に近い島ほど移住率が高く、面積の大きい島ほど個体群が大きくなって絶滅率が下がります。したがって種数は「大きくて本土に近い島」ほど多く、「小さくて遠い島」ほど少なくなります。この理論は陸橋島と海洋島の生物相の違いとして確認されたほか、国立公園や自然保護区の設計(面積の確保、断片化の回避)に応用されています。

  • 面積効果: 面(保護区)が大きいほど種数が多い。小面積の分割より大面積の一括保護が有利とされることが多い
  • 距離効果: 移住元から遠いほど移住率が下がり、種数は減る
  • SLOSS論争: 面積の総和が同じなら「1つの大きな保護区」と「複数の小さな保護区」のどちらがよいかという議論。対象生物の分散能力しだいで答えが変わる

絶滅危惧種とレッドリスト

国際自然保護連合(IUCN)は、絶滅のおそれの程度に応じて生物をカテゴリ分類したレッドリストを公開しています。環境省のレッドリストもこの考え方に準拠しており、個体数・分布域の大きさ・減少速度などから判定します。なお小さな個体群は近親交配や偶発的な事故(火災・疫病・台風)で一気に絶滅しやすい点にも注意が必要です。数が少ないことはそれ自体がリスクになります。

IUCN カテゴリ判定の意味読み取りの注意
EX(絶滅)最後の個体が死亡したことに合理的な疑いがない十分な調査が必要で、最近見つからないだけでは断定できない
EW(野生絶滅)飼育・栽培下、または過去の分布域外の帰化個体群としてのみ存続ある国からいなくなったことと世界全体での野生絶滅は別
CR(深刻な危機)野生での絶滅リスクが極めて高い環境省の絶滅危惧IA類に対応する区分
EN(危機)野生での絶滅リスクが非常に高い環境省の絶滅危惧IB類に対応する区分
VU(危急)野生での絶滅リスクが高い環境省の絶滅危惧II類に対応する区分。評価年と対象地域を確認する

外来種問題と保全の実際

人為的に持ち込まれた外来種は、天敵がいない・繁殖力が高い・ニッチに空きがあるなどの理由で急増し、在来種を捕食したり競争で押さえ込んだりします。例として、奄美大島や沖縄島に導入されたフイリマングースによる在来動物への捕食(奄美大島では2024年に根絶が宣言された)、湖沼でのブラックバスやブルーギルによる小型魚の減少が挙げられます。対策は侵入防止が第一で、侵入後は早期発見・除去、繁殖力を削ぐ駆除、法規制(特定外来生物の指定)を組み合わせます。保全の基本は生息地の保護であり、飼育下繁殖と再導入、保護区同士をつなぐ回廊の整備なども併用されます。

例題

外来種が在来の生態系に大きな被害を与えやすい理由を、生態・進化の観点から2つ挙げよ。

解答・解説

(1) 在来の捕食者や寄生者がいないため個体数の増加が抑制されない。(2) 在来種に捕食への防御行動が備わっていなかったり、ニッチの空きがあったりするため、競争や捕食で在来種が一方的に不利になる。

練習問題
  1. ある林で昆虫を調査したところ、3種がそれぞれ 60、30、10 個体だった。シンプソンの多様度指数 D を求めよ。

    ヒント

    N = 100。各種の pip_i を出し、∑pi2\sum p_i^2 の逆数をとる。

    解答・解説

    pi2p_i^2 の和は 0.36+0.09+0.01=0.460.36 + 0.09 + 0.01 = 0.46 なので D=1/0.46≈2.17D = 1/0.46 \approx 2.17

  2. 火災跡地(土壌は残存)と溶岩台地で始まる遷移の名前をそれぞれ答え、進む速さの違いを説明せよ。

    ヒント

    土壌・種子・地下茎の有無を考える。

    解答・解説

    火災跡地は**二次遷移**、溶岩台地は**一次遷移**。二次遷移は土壌と繁殖体(種子・地下茎・埋土種子)が残るため、一次遷移より速く進みます。

  3. 島の生物地理学によれば、種数が最も多くなるのはどんな島か。面積と本土からの距離で答えよ。

    ヒント

    移住率を高める要因と絶滅率を低くする要因を組み合わせる。

    解答・解説

    **面積が大きく本土に近い島**。大きいほど個体群が大きく絶滅率が低く、近いほど移住率が高いためです。

  4. 孤立した小さな森林に生息する絶滅危惧種を守る方策を2つ挙げよ。

    ヒント

    生息地そのものの保全と、個体群の遺伝的な問題の両面から考える。

    解答・解説

    例:(1) 生息地の拡大や保護区間の回廊(コリドー)整備で分断化を防ぐ。(2) 血縁の遠い個体の導入や飼育下繁殖で遺伝的多様性を保ち、近親交配による弱体化を防ぐ。

確認クイズ

問1. 一次遷移の特徴として正しいものはどれ?

問2. 種数が同じ 2 種でも、個体数比 90 : 10 の群集と 50 : 50 の群集では多様度はどうなる?

問3. 島の生物地理学の予測として誤っているものはどれ?

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