光合成の反応機構

明反応とカルビン回路の連携を式で追い、C4 植物や CAM 植物が乾燥に強い理由を理解する。

この単元の目標
  • 明反応と炭素固定反応のつり合いを化学量論式で確認できる
  • カルビン回路の3段階(CO2 固定 → 還元 → RuBP 再生)を説明できる
  • C4 植物が高温・乾燥下で有利になる仕組みを説明できる
📑 目次
  1. 光合成の全体像と化学量論
  2. 明反応——光のエネルギーを化学エネルギーへ
  3. C4 植物と CAM 植物

光合成の全体像と化学量論

光合成は「光を使う部分(明反応)」と「光を使わない酵素反応(炭素固定反応)」の2段階に分かれます。重要なのは、両者が ATP と NADPH を介して直列につながっている点です。明反応で水を電子源として O₂ を放ちながら ATP と NADPH をつくり、炭素固定反応でその2つを消費して CO₂ を糖へ変えます。したがって、糖 1 分子あたりに必要な CO₂ の数を決めれば、明反応が用意すべき ATP と NADPH の量も自動的に決まります。

6CO2+12H2O→C6H12O6+6O2+6H2O6\mathrm{CO_2} + 12\mathrm{H_2O} \rightarrow \mathrm{C_6H_{12}O_6} + 6\mathrm{O_2} + 6\mathrm{H_2O}
6 CO2  →  2 G3P(正味の産物:六炭糖1分子相当)6\,\mathrm{CO_2} \;\rightarrow\; 2\,\mathrm{G3P} \quad (\text{正味の産物:六炭糖1分子相当})

🔍 なぜ NADPH 12 個・ATP 18 個なのか

  1. Step 1: CO2 固定
    RuBP(C5)+CO2+H2O→rubisco2 3-ホスホグリセリン酸(C3)\text{RuBP}(\mathrm{C_5}) + \mathrm{CO_2} + \mathrm{H_2O} \xrightarrow{\text{rubisco}} 2\,\text{3-ホスホグリセリン酸}(\mathrm{C_3})

    CO2 受容体は五炭糖リン酸(RuBP)。固定 1 回で C3 化合物が 2 個でき、これが回路の入口です。

  2. Step 2: 還元
    3−ホスホグリセリン酸+(ATP+NADPH)→G3P3-\text{ホスホグリセリン酸} + (\mathrm{ATP}+\mathrm{NADPH}) \rightarrow \text{G3P}

    C3 化合物 1 個を G3P まで還元するのに ATP 1 個と NADPH 1 個が必要。ここで NADPH の還元力が糖に蓄えられます。

  3. Step 3: 収支の整理
    6 CO2+6 RuBP→12 G3P(2 個が正味の産物、10 個が再生へ)6\,\mathrm{CO_2} + 6\,\mathrm{RuBP} \to 12\,\mathrm{G3P} \quad (2\text{ 個が正味の産物、}10\text{ 個が再生へ})

    これは炭素の流れを示す模式式です。6 CO₂(炭素6個)と6 RuBP(炭素30個)から、炭素計36個を含む12 G3P ができます。12個すべての還元に ATP 12個・NADPH 12個を使います。

  4. Step 4: ATP の収支
    10 G3P→6 ATP6 RuBP,ATP:12+6=1810\,\mathrm{G3P} \xrightarrow{6\,\mathrm{ATP}} 6\,\mathrm{RuBP}, \qquad \mathrm{ATP}:12+6=18

    再生用 G3P の炭素30個は、6 RuBP の炭素30個として回路に戻ります。ATP は還元に12個、再生に6個で合計18個、NADPH は還元に12個です。光呼吸や C4 の濃縮にかかる追加消費を含めない基本収支です。

明反応——光のエネルギーを化学エネルギーへ

  • チラコイド膜の光化学系 II(PSII)で水が分解され、O₂・電子・H⁺ が放出される
  • 電子は電子伝達系を渡る間にプロトン勾配ができ、ATP 合成酵素が ATP をつくる(光リン酸化)
  • 光化学系 I(PSI)を経た電子は NADP⁺ を受容体に NADPH へ還元される
  • クロロフィルの吸収スペクトルと光合成の作用スペクトルはよく一致する——赤と青紫の光で活発、緑は反射して弱い
比較項目明反応カルビン回路
場所チラコイド膜ストロマ
必要な入力光・水・ADP・Pi・NADP⁺CO₂・ATP・NADPH
生成物O₂・ATP・NADPHG3P(→ 糖)
光の必要性必須直接は不要(ただし原料の ATP・NADPH が切れると停止)

C4 植物と CAM 植物

カルビン回路の CO₂ 固定酵素ルビスコは、CO₂ 濃度が低いと代わりに O₂ と反応して無駄な光呼吸を起こします。高温・乾燥地帯では気孔を閉める時間が長くなり葉内 CO₂ が減るので、この損失が深刻です。C4 植物(トウモロコシ・サトウキビ)はまず葉肉細胞で PEP カルボキシラーゼが CO₂(HCO₃⁻)を C4 化合物に固定し、それを維管束鞘細胞へ運んで CO₂ を遊離させてからカルビン回路に回します。CO₂ を局所的に高濃度に保てるため、光呼吸の損失を大幅に抑えられます。

  • C4 植物: 葉肉細胞と維管束鞘細胞で空間的に分担(トウモロコシ・サトウキビ)
  • CAM 植物: 夜間に気孔を開けて CO₂ を有機酸として貯蔵し、昼間に使う(サボテン・パイナップル)。砂漠の乾燥対策
  • C3 植物: 直接カルビン回路で固定(コムギ・イネ)。涼しく湿潤な環境ではむしろ有利
例題

光合成の明反応で生成した ATP と NADPH は、炭素固定反応のどの過程で使われますか。

解答・解説

**還元段階**で ATP と NADPH を使って3-ホスホグリセリン酸を G3P に変えます。さらに **RuBP の再生段階でも ATP** を使います。ルビスコによる CO₂ 固定そのものでは ATP を直接消費しません。

収支の具体例:CO₂ が3分子なら

カルビン回路に CO₂ が3分子入ったとき、正味の G3P と必要な ATP・NADPH はいくつか。

解答・解説

3 RuBP と3 CO₂ から6 G3P ができ、そのうち5個で3 RuBP を再生します。正味の G3P は1個(炭素3個)。還元で ATP 6個・NADPH 6個、再生で ATP 3個を使うので、合計 ATP 9個・NADPH 6個です。

「光を直接使わない」は「暗所でずっと進む」という意味ではありません。カルビン回路には明反応が供給する ATP・NADPH が必要で、酵素の活性も光条件に応じて調節されます。また G3P は三炭糖リン酸であり、グルコースそのものではありません。
練習問題
  1. 基本収支に従って CO₂ を12分子固定するとき、正味の G3P、必要な ATP、NADPH の数を求めよ。

    ヒント

    CO₂ 3分子あたりの収支を4倍する。

    解答・解説

    正味の G3P は4分子(六炭糖2分子相当)。ATP は還元24個+再生12個=36個、NADPH は24個。正味の産物の炭素は4×3=12個で、入力した CO₂ の炭素数と一致します。

  2. 明反応で水が分解されることの意味を、O2 の由来という観点から説明せよ。

    ヒント

    光合成で放出される O2 の酸素原子は、CO2 と水のどちらに由来するか。

    解答・解説

    PSII で水が電子供与体として分解され、そのとき O₂ が副産物として放出されます。O₂ の酸素原子は CO₂ ではなく水由来です(トレーサー実験で確かめられています)。

  3. カルビン回路で CO2 固定の受容体となる化合物と、その再生に必要なものを答えよ。

    ヒント

    受容体は五炭糖リン酸。再生には ATP が要る。

    解答・解説

    受容体は **RuBP(リブロース-1,5-二リン酸)**。再生には G3P から ATP を使って RuBP を再合成する一連の反応が必要です。

  4. C4 植物が高温・強光下で C3 植物より有利な理由を、光呼吸という言葉を使って説明せよ。

    ヒント

    ルビスコは CO2 と O2 のどちらでも反応できる。

    解答・解説

    高温・強光下では気孔が閉じがちになり葉内 CO₂ が減るため、C3 植物ではルビスコが O₂ と反応する光呼吸で損失が増大します。C4 植物は PEP カルボキシラーゼで CO₂ を濃縮してからカルビン回路に回すため、光呼吸を抑えられます。

確認クイズ

問1. 明反応の直接的な生成物の組合せとして正しいものはどれ?

問2. カルビン回路が進行する場所はどれ?

問3. CAM 植物が昼間に気孔を閉じて夜間に開ける理由は?

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