自然選択と遺伝的浮動 — 玉モデルで考える創始者効果

「増えたから有利」とは限らない。色付きの玉を使う架空モデルで、自然選択による方向性と遺伝的浮動による偶然を区別し、創始者効果と集団サイズの意味を読み解く。

この単元の目標
  • 自然選択と遺伝的浮動を、次世代への寄与の差と偶然の標本抽出の違いから説明できる
  • 玉の比率から次世代の期待頻度と、特定の色が失われる確率を計算できる
  • 創始者効果を遺伝的浮動の一場面として位置づけ、ボトルネック効果と区別できる
  • 1集団の頻度変化だけでは自然選択の存在を断定できない理由を述べられる
📑 目次
  1. 1.進化で変わるのは集団の構成
  2. 2.架空の玉モデルを定義する
  3. 3.自然選択:平均的な寄与に差がある
  4. 4.遺伝的浮動:公平でも毎回半分にはならない
  5. 5.創始者効果:新集団の出発点が偏る
  6. 6.頻度の変化から、どこまで言えるか

1.進化で変わるのは集団の構成

集団遺伝学では、世代を経て集団内の対立遺伝子頻度が変わることを進化として捉えます。対立遺伝子とは同じ遺伝子座にある遺伝子の異なる型です。個体が一生のうちに経験によって変化することと、集団の遺伝的な構成が世代間で変化することは別です。また、頻度の変化は必ずしも環境への適応を意味しません。ここでは自然選択・遺伝的浮動・創始者効果を、その変化が生じる仕組みから比較します。

用語変化の仕組み方向についての注意
自然選択遺伝する違いに関連して、生存や繁殖を通じた次世代への寄与に系統的な差があるどの型が有利かは環境などに依存する。強さだけで決まらない
遺伝的浮動有限個の遺伝子コピーが次世代に受け継がれる際の偶然によって、頻度が変わる有利さとは独立に増減しうる。小集団ほど相対的な揺れが大きい
創始者効果少数の個体から新集団ができる際、元集団の遺伝的構成を十分に代表しない遺伝的浮動の一場面であり、自然選択と並ぶ別個の基本原理ではない

2.架空の玉モデルを定義する

赤玉を型A、白玉を型aの遺伝子コピーに見立てます。玉1個を生物の個体そのものと考えるのではありません。元の袋で赤玉の割合を p、白玉の割合を 1−p とします。無作為に1個選んで色を記録し、元の袋に戻す、という抽出を独立に m 回行い、記録した色の玉 m 個で次の袋を表します。これは紙上の思考モデルです。復元抽出なので、各回に赤が選ばれる確率は変わらず p です。

以下の数値・集団・色の記録はすべて説明用に作った架空のものです。突然変異と集団間の移入はなく、世代を区切って考えます。玉モデルでは遺伝子型の組合せ、優性・劣性、交配様式を省略しています。実際の二倍体集団で N 個体なら対象とする常染色体の遺伝子コピーは通常 2N 個ですが、玉 m 個を無条件に m 個体と読み替えてはいけません。

3.自然選択:平均的な寄与に差がある

自然選択の方向性を表すため、赤には正の重み wA、白には正の重み wa を付け、重みに比例して選ばれやすいとします。重みは次世代への平均的な相対寄与を単純化した値です。両方を同じ倍数にしても結果は変わりません。「赤が増えたいから増える」のではなく、遺伝する違いに関連した寄与の差が、集団の構成を変えるという対応です。実際の二倍体の自然選択では各遺伝子型の頻度と寄与を考慮する必要があり、次の式をそのまま万能に使うことはできません。

ps=pwApwA+(1−p)wap_{\mathrm{s}}=\frac{p w_A}{p w_A+(1-p)w_a}

分子は赤の寄与、分母は赤と白を合わせた寄与です。ps は重みづけ後に赤が選ばれる確率で、実現した次世代頻度とは区別します。p と ps は0から1までの無次元量、重みも相対値なので無次元です。0 < p < 1 かつ wA > wa なら ps > p ですが、有限回の抽出で赤が必ず増えるとは限りません。自然選択と遺伝的浮動は同時に働きえます。

例題1:重みを付けたときの期待頻度

赤40個、白60個に対応する元集団で、赤の重みを2、白の重みを1とする。重みづけ後の赤の確率と、独立に70回抽出するときの赤の個数の期待値を求めよう。

解答・解説

赤の寄与は40×2=80、白は60×1=60なので、赤の確率は80/(80+60)=4/7(約0.5714)。赤の個数の期待値は70×4/7=40個です。元の頻度0.4より期待頻度は高くなりますが、次の袋が必ず赤40個になるという意味ではありません。元と次で袋の大きさが違うため、個数の増減だけでなく頻度を比較します。

4.遺伝的浮動:公平でも毎回半分にはならない

赤と白の重みが等しくても、有限回だけ選ぶと元の割合からずれます。次の袋の赤の個数を X、赤の頻度を p′=X/m とします。独立な復元抽出では X は二項分布に従います。期待値は、多数の同条件の袋を考えたときの平均の予測であり、1つの袋の確定値ではありません。

P(X=k)=(mk)pk(1−p)m−k,E(p′)=p,Var⁡(p′)=p(1−p)mP(X=k)=\binom{m}{k}p^k(1-p)^{m-k},\quad E(p')=p,\quad \operatorname{Var}(p')=\frac{p(1-p)}{m}

ここでは m は正の整数、k は0から m の整数、0 < p < 1 とします。組合せの係数は、赤が出る回の選び方の数です。頻度は無次元なのでその分散も無次元です。同じ p で m を4倍にすると頻度の分散は1/4、標準偏差(分散の平方根)は1/2になります。これは「小集団の揺れが相対的に大きい」を数で表したものです。p=0または1なら、このモデルでは毎回同じ色だけが選ばれます。

例題2:半分ずつの袋から4回選ぶ

赤と白が半分ずつの元の袋から、重みを付けず独立に4回復元抽出する。次の袋が赤2個・白2個になる確率と、赤が1個もない確率を求めよう。

解答・解説

各回の色の列は全部で2⁴=16通りあり、等確率です。赤2個となる列は「赤の出る2か所」を4か所から選ぶ6通りなので、確率は6/16=3/8=0.375。赤0個は白白白白の1通りで、1/16=0.0625です。したがって、平均は赤2個でも、ちょうど半分になる確率は半分未満です。

赤の個数 X次の頻度 X/4確率
001/16
10.254/16
20.56/16
30.754/16
411/16

次の袋をさらに元の袋として抽出を繰り返すと、各集団の頻度は別々に揺れます。ある型の頻度が1になることを固定、0になることを消失と呼びます。突然変異・移入のないこのモデルでは、一度失われた色はその袋の子孫には戻りません。赤が固定したとしても、それだけで赤が有利だったとは結論できません。

5.創始者効果:新集団の出発点が偏る

元集団のごく一部が移動して新集団をつくると、その出発時の遺伝的構成は元集団と異なることがあります。これが創始者効果です。元集団にある型が新集団に含まれないこともあります。一方、既存集団の規模が急に小さくなり、残った少数が遺伝的構成を代表しない場合はボトルネック効果と呼びます。どちらも偶然の偏りが問題になりますが、「新集団の成立」か「既存集団の縮小」かが異なります。

例題3:少数で始めると、少ない型が抜け落ちる

赤の頻度0.2、白の頻度0.8の元集団を玉で表す。独立な復元抽出で5個の遺伝子コピーを選び、新しい袋の創始時の構成に見立てる。赤が1個も含まれない確率はいくらか。20個を選ぶ場合とも比較しよう。

解答・解説

5回とも白になる確率は0.8⁵=0.32768(32.768%)。20個なら0.8²⁰≒0.01153(約1.153%)です。平均では5個中1個の赤を期待しても、約3分の1の袋では赤がありません。これは5個体の二倍体生物の厳密な移住モデルではなく、遺伝子コピー5個を独立に抽出する単純化です。現実の移住個体同士に血縁がある場合などは独立性が崩れます。

実物の有限な袋から玉を戻さず選ぶなら、抽出ごとの確率が変わるため、例題3の累乗は厳密式ではありません。ここでは復元抽出として正確に計算しています。元集団が抽出数より十分大きい場合には非復元抽出を近似できますが、小さな元集団には無条件で適用しません。また、新集団が後に大きくなっても、失われた型が個体数の回復だけで復活するわけではありません。

6.頻度の変化から、どこまで言えるか

ある袋で赤が0.5から0.75に増えた記録だけでは、重みが赤に有利だったのか、等しい重みで偶然赤が多く選ばれたのかは判別できません。例題2では等しい重みでも0.75になる確率が4/16あります。複数の独立した集団や複数世代の観察、遺伝する違いと次世代への寄与の関係、集団の大きさや移入の情報などを合わせて説明を比較します。同じ方向への繰り返しの変化は手がかりになりますが、それだけで他の要因を排除したことにはなりません。

練習:仕組みと数値を結びつける
  1. 赤の頻度0.25、赤の重み3、白の重み1の玉モデルで、重みづけ後の赤の確率を求めよ。

    解答・解説

    0.25×3 / (0.25×3+0.75×1)=0.75/1.5=0.5です。赤と白の全体としての寄与が等しくなります。重み3をそのまま頻度に掛けた0.75は、全体で割っていないため答えではありません。

  2. 等しい重み、赤の頻度0.5のとき、m=25とm=100の次世代頻度の標準偏差を比較せよ。

    解答・解説

    分散はそれぞれ0.5×0.5/25=0.01、0.5×0.5/100=0.0025。標準偏差は0.1と0.05で、m=100の方が半分です。どちらも期待頻度は0.5ですが、ばらつきの大きさが異なります。

  3. 赤の頻度0.1の元の袋から独立に3回復元抽出するとき、赤が少なくとも1個含まれる確率を求めよ。

    解答・解説

    赤が0個の確率は0.9³=0.729。その補集合なので1−0.729=0.271(27.1%)です。期待個数0.3個と、少なくとも1個含む確率0.271は異なる量です。

  4. 「少数で成立した新集団では、元集団になかった対立遺伝子が創始者効果だけで新しく生まれる」という説明を修正せよ。

    解答・解説

    創始者効果は元集団の一部を引き継ぐ際の頻度の偏りであり、それ自体が新しい対立遺伝子を作るわけではありません。元集団にあった型が新集団に含まれず失われたり、まれだった型が高頻度になったりします。

確認クイズ

問1. 自然選択と遺伝的浮動の比較として最も適切なのはどれか。

問2. 創始者効果を最も直接に表す場面はどれか。

問3. 等しい重みで赤の頻度が0.5の玉モデルについて正しい記述はどれか。

問4. 玉モデルで赤が消失した後、突然変異も移入もないまま袋の玉数だけが増えた。赤について何がいえるか。

根拠と範囲:用語整理は高校生物の集団遺伝学で扱う標準的な区別に基づきます。参考書として OpenStax『Biology 2e』(2018年刊)第19章「The Evolution of Populations」の19.2「Population Genetics」、19.3「Adaptive Evolution」があります。本記事の玉モデルと全数値は独自作成で、二項分布と重みづけの定義から導いたものです。実在する集団の統計や特定時点の観測結果を引用したものではなく、現実の生物集団の将来を予測するための実用手順ではありません。
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