金属のイオン化傾向と精錬

イオン化傾向の順序を電池の起電力・腐食・精錬法の選択に使いこなす。

この単元の目標
  • イオン化傾向の順序から金属の置換反応の可否を判定できる
  • 標準電極電位から電池の起電力を計算できる
  • イオン化傾向に応じて精錬法(熱分解・加熱還元・電気分解)を選べる
📑 目次
  1. イオン化傾向とは
  2. イオン化傾向と電池の起電力
  3. 精錬(製錬)の方法

イオン化傾向とは

金属が水溶液中で陽イオンになりやすい性質をイオン化傾向といいます。傾向の大きい金属ほど電子を手放しやすく、強い還元剤として働きます。順序は Li > K > Ba > Sr > Ca > Na > Mg > Al > Zn > Fe > Ni > Sn > Pb > (H) > Cu > Hg > Ag > Pt > Au で、語呂で丸暗記する前に「電子を手放しやすさの順番」と理解することが大切です。なお傾向の大小は反応の速さではなく起こりやすさ(熱力学)を表すので、アルミニウムのように表面の酸化被膜のせいで実際は穏やかな金属もあります。

金属の仲間水・酸との反応おもな精錬法
K, Na, Ca冷水と激しく反応して水素を発生溶融塩の電気分解
Mg, Al塩酸に溶ける。Mg は熱水と反応し、Al は通常は酸化被膜に保護されるMg は溶融塩電解など。Al は溶融氷晶石に溶かしたアルミナを電解
Zn, Fe, Ni, Sn, Pb原理的には酸から水素を発生。Pb は難溶性塩の被膜で反応が進みにくい酸化物を C や CO で加熱還元
Cu, Hg, Ag希塩酸には不溶。酸化性の酸に溶ける硫化鉱の焙焼と加熱還元。銅は電解精製
Pt, Au通常の塩酸・硝酸には溶けず、王水には溶ける天然金・砂金として採取。湿式製錬も
Li>K>Ba>Sr>Ca>Na>Mg>Al>Zn>Fe>Ni>Sn>Pb>(H2)>Cu>Hg>Ag>Pt>Au\mathrm{Li} > \mathrm{K} > \mathrm{Ba} > \mathrm{Sr} > \mathrm{Ca} > \mathrm{Na} > \mathrm{Mg} > \mathrm{Al} > \mathrm{Zn} > \mathrm{Fe} > \mathrm{Ni} > \mathrm{Sn} > \mathrm{Pb} > (\mathrm{H_2}) > \mathrm{Cu} > \mathrm{Hg} > \mathrm{Ag} > \mathrm{Pt} > \mathrm{Au}

イオン化傾向と電池の起電力

🔍 ダニエル電池の起電力 1.10 V はどこから生まれるか

  1. Step 1: 負極——イオン化傾向の大きい金属が溶ける
    Zn→Zn2++2e−E∘=−0.76 V\mathrm{Zn \rightarrow Zn^{2+} + 2e^-} \qquad E^{\circ} = -0.76\ \mathrm{V}

    Zn は Cu よりイオン化傾向が大きいため、電子を放出してイオンとして液中へ出ていく(酸化)。ここで −0.76 V は逆向きの Zn²⁺ + 2e⁻ → Zn に対する標準還元電位であり、酸化方向の電位ではない。

  2. Step 2: 正極——液中の金属イオンが析出する
    Cu2++2e−→CuE∘=+0.34 V\mathrm{Cu^{2+} + 2e^- \rightarrow Cu} \qquad E^{\circ} = +0.34\ \mathrm{V}

    外部回路を渡ってきた電子を Cu²⁺ が受け取り、極板上に金属銅として析出する(還元)。

  3. Step 3: 起電力は電位の差
    E=E正∘−E負∘=(+0.34)−(−0.76)E = E^{\circ}_{\text{正}} - E^{\circ}_{\text{負}} = (+0.34) - (-0.76)

    標準電極電位は「イオン化傾向の小ささ」を電位として表したもの。差をとれば電池の駆動力がわかる。

  4. Step 4: 起電力
    E=+1.10 VE = +1.10\ \mathrm{V}

    標準還元電位の差が大きい組ほど標準起電力が高い——これが電池設計の基本原理。

イオン化傾向は電池以外にも応用が広がります。鉄の腐食では、空気中の酸素と水分のはたらきで Fe が Fe²⁺ として溶け出し、さらに酸化されて赤錆 Fe2O3⋅nH2O\mathrm{Fe_2O_3 \cdot nH_2O} へと変わります。これを防ぐ犠牲陽極方式では、イオン化傾向のより大きい Mg や Zn を鉄に接触させておき、そちらに優先的に溶けてもらいます。逆にイオン化傾向の小さい Sn のめっきは、傷がついたときに鉄の腐食をかえって加速する点が入試の定番です。

例題

硫酸銅(II)水溶液に鉄くぎを入れると何が観察されるか。イオン反応式で示せ。

解答・解説

くぎの表面に**赤い銅が析出**し、溶液は徐々に緑がかった色になる。Fe+Cu2+→Fe2++Cu\mathrm{Fe + Cu^{2+} \rightarrow Fe^{2+} + Cu} —— イオン化傾向 Fe > Cu なので鉄が銅イオンを押し出して溶ける。

精錬(製錬)の方法

  • 熱分解: イオン化傾向の小さい金属の酸化物は加熱だけで金属が得られる(2Ag2O→4Ag+O2\mathrm{2Ag_2O \rightarrow 4Ag + O_2})
  • 加熱還元: 中程度の金属はコークス(C)や CO で酸化物を還元する(Fe2O3+3CO→2Fe+3CO2\mathrm{Fe_2O_3 + 3CO \rightarrow 2Fe + 3CO_2})
  • 電気分解: Na や Al は炭素での還元が困難なので溶融塩電解を利用する。Al はバイヤー法で精製したアルミナを溶融氷晶石に溶かして電解する
  • 電解精製: 粗銅を陽極・純銅を陰極として電解すると高純度の銅が得られる。Au や Ag はアノードスライムとして回収される
Na や Al のような金属は水溶液から析出させにくく、陰極では水の還元による水素発生が優先されるため、製錬に溶融塩を使います。ただし水素よりイオン化傾向が大きい金属が一律に析出しないわけではなく、Zn などは濃度・電極・過電圧によって水溶液から析出できます。
練習問題
  1. 亜鉛と銅のそれぞれの金属片を希塩酸に入れたときの変化を、イオン化傾向を用いて説明せよ。

    ヒント

    境目は水素。

    解答・解説

    Zn は水素より大きいので Zn+2H+→Zn2++H2\mathrm{Zn + 2H^+ \rightarrow Zn^{2+} + H_2} として泡を発生しながら溶ける。Cu は水素より小さいので溶けない。

  2. E∘(Zn2+/Zn)=−0.76 VE^{\circ}(\mathrm{Zn^{2+}/Zn}) = -0.76\ \mathrm{V}、E∘(Ag+/Ag)=+0.80 VE^{\circ}(\mathrm{Ag^{+}/Ag}) = +0.80\ \mathrm{V} のとき、Zn|Zn²⁺ ‖ Ag⁺|Ag 型電池の標準起電力を求めよ。

    ヒント

    起電力=正極の電位−負極の電位。

    解答・解説

    E=0.80−(−0.76)=1.56 VE = 0.80 - (-0.76) = 1.56\ \mathrm{V}。標準状態では Zn が負極になる。電極電位は濃度にも依存する。

  3. 酸化銀(I) Ag2O\mathrm{Ag_2O} を加熱すると何が得られるか。化学反応式で示し、鉄の酸化物に同じ方法が使えない理由を説明せよ。

    ヒント

    酸化物の安定性とイオン化傾向の関係。

    解答・解説

    2Ag2O→4Ag+O2\mathrm{2Ag_2O \rightarrow 4Ag + O_2}。Ag はイオン化傾向が非常に小さく酸化物が不安定なので熱分解だけでよい。Fe2O3\mathrm{Fe_2O_3} は熱的に安定なため、CO などのより強力な還元剤と高温を要する。

確認クイズ(イオン化傾向と精錬)

問1. 希塩酸に溶けて水素を発生する金属の組はどれか。

問2. 鉄船の船底にとりつけて鉄の腐食を防ぐ「犠牲陽極」に適する金属はどれか。

問3. 粗銅の電解精製について正しい記述はどれか。

📝 メモこの端末のみに保存
メモ欄はページ読み込み後に使えるようになります。