浸透圧と溶液の物理化学
半透膜と浸透圧の仕組みを「なぜ」から理解し、π = cRT の導出、ファントホフ係数、コラーゲンなどの高分子溶液への応用まで学ぶ。
- 半透膜を挟んだ水の移動方向を浸透圧で予測できる
- 浸透圧 π = cRT を分子論的に導出できる
- 凝固点降下と浸透圧を使い分け、高分子や生体の実例に適用できる
半透膜と浸透
溶媒は通すが溶質粒子を通さない膜を半透膜といいます。膜を挟んで濃度差があると、溶媒分子は希薄側から濃厚側へ移動しようとします(浸透)。この溶媒の移動を止めるのに必要な圧力が浸透圧 π で、非揮発性溶質の希薄溶液では溶質粒子のモル濃度に比例します。溶質の種類によらず粒子の数だけで決まる点は、蒸気圧降下・沸点上昇・凝固点降下と共通する依数性です。
| 項目 | 凝固点降下 ΔT | 浸透圧 π |
|---|---|---|
| 式 | ||
| 使う濃度 | 質量モル濃度(kg 溶媒あたり) | モル濃度(L 溶液あたり) |
| 感度 | 効果が小さい | 効果が大きい(薄い溶液でも測定可) |
| おもな用途 | 低分子の分子量決定 | 高分子・生体高分子の分子量決定 |
🔍 ファントホフによる浸透圧 π = nRT/V の導出
- Step 1: 浸透圧は「溶媒の化学ポテンシャル差」の現れ
溶質が溶けると混合エントロピーの分だけ溶液側の溶媒の化学ポテンシャルが下がる。そこへ向かって溶媒が流れ込むのが浸透。
- Step 2: 膜の溶液側に圧力をかけるとどうなるか
外圧を加えて溶液側の溶媒の化学ポテンシャルを押し上げ、純溶媒と釣り合わせたときの追加圧力が浸透圧。「溶質が溶媒の自由度を奪った分」を圧力で償う量と読める。
- Step 3: 希薄極限では気体と同じ形式になる
ファントホフは実験的に、希薄溶液の浸透圧が理想気体の状態方程式とそっくり同じ形(πV = nRT)で書けることを見出した。
- Step 4: 分子論的な読み替え
溶質粒子1個あたり kT ぶんの「押し広がろうとする傾向」が半透膜越しに圧力として観測される。粒子数しか関与しない=依数性の本質。
コラーゲンなどのタンパク質水溶液(濃度 w g/L)の浸透圧を測ったところ、27 ℃ で π Pa だった。このタンパク質の分子量 M を表す式を求めよ。
解答・解説
溶液 1 L 中の物質量は w/M mol。R = 8.31 Pa·m³/(mol·K) を使うなら濃度を mol/m³ に換算して とする。 より 。T ≈ 300 K なので **M = 2.493 × 10⁶ w/π**(M の数値はモル質量を g/mol で表した値に等しい)。
27 ℃ で 0.10 mol/L のショ糖水溶液の浸透圧を求めよ(R = 8.31 kPa·L/(mol·K),非解離)。ただし近似計算でよい。
ヒント
π = cRT。T は K に換算。
解答・解説
T = 300 K として kPa ≒ **250 kPa**(約 2.5 気圧)。薄い溶液でも大きな値になるのが浸透圧の特徴。
同じ温度・同じ mol 濃度の十分希薄な尿素水溶液と塩化カリウム水溶液の浸透圧を比べよ。
ヒント
KCl は水中でどうなるか。
解答・解説
KCl は と に完全解離するので粒子数は約2倍。よって KCl 溶液の浸透圧は尿素の約 **2倍**(ファントホフ係数 i = 2)。
植物細胞に純水を注ぐと細胞は膨らむが普通は破裂しない。細胞壁の役割を浸透圧で説明せよ。
ヒント
内側の浸透圧と外からの力のつり合い。
解答・解説
細胞液の浸透圧のため水が流入し内圧(膨圧)が上がるが、細胞壁がその圧力に抗する張力を生むため平衡に達する。細胞壁がない動物細胞は赤血球のように溶血(破裂)することがある。
問1. 浸透圧 π = cRT の c は何を表すか。
問2. 高分子(例:コラーゲン)の分子量を測るのに浸透圧が適する理由はどれか。
問3. 半透膜を挟んで 0.1 mol/L のショ糖水溶液と純水を置いたとき、起こることはどれか。