合成高分子の各論——構造が性質を決める
ポリエチレンからフェノール樹脂まで、主要な合成高分子を「繰り返し単位の構造」から読み解く。分岐・極性・架橋の違いが、柔らかさ・透明性・耐熱性の差を生む理由を追う。
- 代表的な合成高分子について、繰り返し単位と出発原料を結びつけて構造を書ける
- 繰り返し単位のモル質量から重合度と分子量を相互に計算できる
- 分岐・極性官能基・架橋の有無から、柔らかさ・透明性・耐熱性の傾向を説明できる
- 熱可塑性と熱硬化性を分子構造(直鎖・網目)で区別し、材料の使い分けを説明できる
📑 目次
1.材料名の裏には「繰り返し単位」がある
プラスチックの名前は一見複雑ですが、ポリエチレンやポリプロピレンのように、原料の単量体名に poly(多い)を付けた名前もよく使われます。ただし重合で結合が変わるため、単量体と鎖中の繰り返し単位は同じ構造ではありません。まず単位を1つ書き出すのが近道です。以下では原子量を C=12、H=1、N=14、O=16、F=19、Cl=35.5 とし、鎖の計算では末端の寄与を無視します。分子量は無次元で、モル質量は g/mol で表すと数値が対応します。
2.付加重合系:主鎖が炭素だけでできている鎖
| 名称(略号) | 繰り返し単位 | 単位のモル質量(g/mol) | 性質の特徴と代表例 |
|---|---|---|---|
| ポリエチレン(PE) | −CH₂−CH₂− | 28 | 無極性で耐水性。直鎖状は硬め(HDPE)、分岐があると柔らかく低密度(LDPE) |
| ポリプロピレン(PP) | −CH₂−CH(CH₃)− | 42 | PEより耐熱が高め。容器・食品包装 |
| ポリ塩化ビニル(PVC) | −CH₂−CHCl− | 62.5 | 塩素の極性で硬い。可塑剤で柔らかくする(ホース・レコード盤) |
| ポリスチレン(PS) | −CH₂−CH(C₆H₅)− | 104 | 透明で硬い。発泡スチロール(緩衝材) |
| ポリ四フッ化エチレン(PTFE) | −CF₂−CF₂− | 100 | 耐熱・耐薬品性が高く摩擦が小さい(フッ素樹脂) |
この5種はいずれも二重結合をもつ単量体の付加重合でできます。主鎖の炭素が連なる点は共通ですが、置換基が違うだけで性質は大きく変わります。塩素(Cl)やベンゼン環のようなかさ高い置換基があると鎖同士が密に並びにくく、無置換のポリエチレンは並びやすいため結晶化しやすい、という対比がポイントです。
ポリエチレンの鎖の分子量が 56000 のとき、重合度はいくらか。また、ポリ塩化ビニルで重合度 2000 の鎖の分子量を求めよ(末端は無視できるとする)。
解答・解説
ポリエチレンの単位は C₂H₄=28 g/mol なので、重合度は 56000÷28=**2000**。ポリ塩化ビニルの単位は C₂H₃Cl=24+3+35.5=**62.5 g/mol** なので、分子量は 62.5×2000=**125000**。同じ重合度でも単位の質量で分子量は大きく変わります。
3.なぜ HDPE と LDPE は硬さが違うのか
ポリエチレンには二つの代表的なタイプがあります。HDPE(高密度ポリエチレン)は分岐が少ない直鎖状で、鎖同士が密に詰まり結晶部分が多いので硬くて丈夫です。洗剤のボトルやパイプに使われます。LDPE(低密度ポリエチレン)は合成の仕方が異なり分岐が多いので、鎖が絡みつき密に並べず、柔らかく透明なフィルムになります。ラップや柔らかい袋類です。
同じ「ポリエチレン」という名前でも、分岐の量が変われば密度・柔らかさ・透明性が変わる——これは高分子の性質が「分子の構造」と「分子の並び方(結晶性)」の両方で決まることを示す最もわかりやすい例です。分子式だけ同じなら性質も同じ、とは言えません。
4.縮合重合と開環重合:官能基とつながり方を見る
| 名称 | 繰り返し単位(モデル) | 単位のモル質量(g/mol) | 出発原料と脱離物 |
|---|---|---|---|
| ナイロン6,6 | −CO−(CH₂)₄−CO−NH−(CH₂)₆−NH− | 226 | アジピン酸+ヘキサメチレンジアミン、H₂O |
| ナイロン6 | −NH(CH₂)₅CO− | 113 | ε-カプロラクタム(開環重合)、小分子の脱離なし |
| PET(ポリエステル) | −CO−C₆H₄−CO−O−CH₂CH₂−O− | 192 | テレフタル酸+エチレングリコール、H₂O |
| フェノール樹脂の線状モデル | −C₆H₃(OH)−CH₂− | 106 | フェノール+ホルムアルデヒド、H₂O(末端を無視した理想モデル) |
ナイロンやPETでは主鎖に窒素や酸素が入ります。アミド基(−CO−NH−)同士は水素結合を作りやすく、ナイロンは繊維に向きます。PETではエステル結合が単位の境界にもあり、単位はC₁₀H₈O₄=192 g/molです。ベンゼン環は剛直さを与えます。ただし重合の分類と主鎖の元素は一対一ではありません。ナイロン6は開環重合、フェノール樹脂は主に炭素でつながる縮合系です。表のフェノール樹脂は線状部分のモデルであり、硬化した網目全体を唯一の反復単位で表すものではありません。
ナイロン6,6 の繰り返し単位のモル質量を整数原子量で求め、分子量 11300 の鎖の重合度を計算せよ。末端の寄与は無視する。
解答・解説
繰り返し単位 −CO−(CH₂)₄−CO−NH−(CH₂)₆−NH− は C₁₂H₂₂N₂O₂ で、C 12×12=144、H 22、N 28、O 32 を合わせて**226 g/mol**。重合度は末端を無視して 11300÷226=**50**。アジピン酸 146+ヘキサメチレンジアミン 116−2×18=226 と、原料の和から水2分子を引いても単位の質量は一致します。有限の鎖全体の脱水数には末端による補正があります。
5.熱可塑性と熱硬化性——加熱したときに戻るか戻らないか
熱可塑性樹脂は、分解などが起こらない温度範囲で、加熱による軟化・流動と冷却による固化を繰り返して再成形できます(PETボトル、PE袋など)。ただし繰り返すうちに劣化する場合があり、無制限に再利用できるわけではありません。熱硬化性樹脂は硬化後に網目構造をもち、再加熱しても溶融・流動による再成形ができません。温度によって弾性率が下がることはあるため、「一切柔らかくならない」ではなく「再溶融して成形できない」と区別します(硬化したフェノール樹脂、ユリア樹脂、メラミン樹脂など)。
違いの正体は架橋(網目構造)です。熱可塑性の鎖は互いに独立していて、加熱すれば分子運動が活発になりずれ動ける。熱硬化性は鎖同士が共有結合で張り巡らされて一体化しているため、どこから解けばよい分離点がなく、加熱しても流動しません。
| 樹脂(硬化後) | 熱可塑/熱硬化 | 結合・網目構造の要点 | 身近な使用例 |
|---|---|---|---|
| フェノール樹脂 | 熱硬化性 | OHをもつ芳香環が主にCH₂でつながり、網目を作る | 電気のプラグ・耐熱部品(ベークライト) |
| ユリア樹脂 | 熱硬化性 | 尿素由来部位がメチレン架橋(−N−CH₂−N−)などでつながる | 木工用接着剤・パーティクルボード |
| メラミン樹脂 | 熱硬化性 | トリアジン環を含む | 化粧板・硬い食器 |
| 不飽和ポリエステル | 熱硬化性 | 架橋して硬化 | FRP(浴槽・船体) |
フェノール(C₆H₆O)とホルムアルデヒド(CH₂O)からなる線状部分を、フェノール1分子とホルムアルデヒド1分子から水1分子を引いた単位で近似する。末端を無視した単位のモル質量を求めよ。次に、この線状モデルとは区別して、三次元架橋が形成された硬化後のフェノール樹脂が再溶融できない理由を説明せよ。
解答・解説
線状部分のモデルでは94+30−18=**106 g/mol**。単位 −C₆H₃(OH)−CH₂− はC₇H₆Oで、84+6+16=106と一致します。OHは残ります。ただしこの1:1の収支だけでは架橋の有無は決まりません。ノボラックのような未硬化の線状樹脂は熱可塑的に振る舞います。一方、フェノール環のOHに対してオルト・パラ位の計3か所などを介して三次元の**網目構造**ができた硬化物では、鎖が独立して流動できず再溶融できません。網目全体の構造・組成を、この線状の106という単位だけで表すことはできません。ユリア樹脂でも、尿素由来の−NH−CO−NH−部分と部位間のメチレン架橋は別であり、架橋自体をアミド結合とは呼びません。
6.添加剤:高分子だけでは実用にならない
市販のプラスチックは高分子だけではありません。可塑剤(PVCを柔らかくする)、酸化防止剤(劣化を遅らせる)、着色剤、充てん剤(強度やコストの調整)、難燃剤などが混ぜられています。だから「ポリ塩化ビニルの性質」といっても、配合次第で柔らかいホースから硬い配管まで幅があります。材料の性質を読むときは、繰り返し単位だけでなく添加物の有無も確認しましょう。
7.プラスチックの見分け方と表示
ペットボトルや容器の底には 1〜7の樹脂識別コードと略号が表示されることがあります。1=PET、2=HDPE、4=LDPE、5=PP、6=PS などで、リサイクルの分類を助けるための表示です。家庭で燃やして確かめるような識別は有害な煙が出るおそれがあり行いません。表示のないものは外観や密度の差から推測するしかなく、確実な同定には専用の分析方法が必要です。
ポリプロピレン(単位 C₃H₆、単位のモル質量42 g/mol)で重合度 5000 の鎖の分子量を求めよ。末端は無視する。
解答・解説
単位の分子量は3×12+6=42。42×5000=**210000**が鎖の分子量です。対応するモル質量は210000 g/mol。分子量自体には単位を付けません。
テフロン(PTFE)の繰り返し単位のモル質量を求めよ。また、炭素鎖にフッ素がつくと耐薬品性が高まる理由を、C−F結合の性質から説明せよ。
解答・解説
単位 −CF₂−CF₂− は C₂F₄=24+4×19=**100 g/mol**。C−F結合は極性が強く、かつ結合エネルギーが大きいため、薬品や熱によって切れにくく、化学的に安定な表面になります。
PETボトルとポリスチレンの発泡トレイの、熱可塑性・熱硬化性の観点からの分類と、その理由を答えよ。
解答・解説
どちらも**熱可塑性**。PETはエステル結合をもつ直鎖状ポリエステル、PSはベンゼン環置換の付加重合体で、いずれも架橋のない鎖状構造のため加熱で軟化して再成形できる。発泡スチロールも素材としては熱可塑性です。
同じ「ナイロン」という名前でも、ナイロン6,6 とナイロン6 では出発原料が違う。それぞれの原料名と、繰り返し単位のモル質量の関係を答えよ。
解答・解説
ナイロン6,6 は**アジピン酸+ヘキサメチレンジアミン**の縮合重合で単位226 g/mol。ナイロン6 は**ε-カプロラクタム**の開環重合で単位113 g/mol。後者は環が開いてそのまま並ぶため、原料1分子=単位1個という対応になり、小分子が脱離しません。
プラスチックの性質が「繰り返し単位の構造」だけで決まらないことを、添加物の観点から1文で説明せよ。
解答・解説
同じポリ塩化ビニルでも可塑剤の量で柔らかいホースにも硬い配管にもなり、繰り返し単位の構造に加えて配合が性質を左右するから。
問1. HDPE が LDPE より硬くて高密度になる理由として正しいものはどれか。
問2. 熱硬化性樹脂の特徴として正しいものはどれか。
問3. ナイロン6,6 の繰り返し単位に含まれる結合として正しいものはどれか。
問4. ポリ塩化ビニル(PVC)で重合度 2000 の分子量はいくらか(単位 62.5 g/mol)。