遷移元素と錯体
遷移元素の特徴、配位化合物の構造と色。
- 遷移元素は複数の酸化数をもつ(Mn: +2, +4, +7 など)
- 有色の化合物・イオンが多い(d 電子の遷移や電荷移動による。すべてが有色ではない)
- 触媒として働くことが多い(Fe: ハーバー法、V₂O₅: 接触硫酸法)
錯イオン
中心金属に配位子(NH₃, CN⁻, H₂O など非共有電子対をもつ分子・イオン)が配位結合したものが錯体で、そのうち電荷をもつものを錯イオンと呼びます。配位数は中心金属に直接結合する配位原子の数です。NH₃ や CN⁻ のような単座配位子なら配位子の個数と一致しますが、1つの配位子が複数の原子で結合する場合は一致しません。電荷だけから構造は決まらず、代表的な四面体・平面四配位・八面体の構造と対応させて学びます。
の配位数と Fe の酸化数を求めよ。CN⁻ は単座配位子とする。
解答・解説
CN⁻ が6個配位するため配位数は **6**。Fe の酸化数を x とすると、錯イオン全体の電荷は なので **x = +2**。配位数6と酸化数+2は別の量である。代表的な構造は八面体。
の配位数と Ag の酸化数を求めよ。
ヒント
NH₃ は電荷0の単座配位子。
解答・解説
配位数は **2**。NH₃ の電荷は0なので より Ag の酸化数は **+1**。この錯イオンは直線形である。
の配位数と Fe の酸化数を求め、例題の錯イオンと比較せよ。
ヒント
配位子の数は変わらず、全体の電荷だけが変わる。
解答・解説
配位数は **6**、 より Fe の酸化数は **+3**。例題の +2 とは酸化数が異なるが、配位数は等しい。
AgCl がアンモニア水に溶ける変化をイオン反応式で示し、錯形成が溶解を促す理由を述べよ。
ヒント
溶け出した Ag⁺ が錯イオンになると、遊離 Ag⁺ の濃度は下がる。
解答・解説
。Ag⁺ が錯イオンとして取り込まれるため、 の平衡が右へ移る。左右で Ag、Cl、N、H の原子数と全電荷0が保存される。
金属の周囲の「座席」と電子のエネルギー
なぜ同じ金属でも、周りに結びつく配位子が違うと色が変わるのでしょう。配位子が近づくと、その電子との相互作用により中心金属のd軌道のエネルギーが分かれるからです。その差に対応する光を吸収すると、残った光が私たちに届きます。色ガラスが通す光と吸収する光を区別するのと同じで、見える色は吸収した光そのものの色ではありません。色は金属名だけでなく酸化数、配位子、立体配置にも関係します。
遷移金属では外側のs電子とd電子に関わる状態のエネルギーが比較的近いため、複数の酸化数の化合物が安定になり得ます。ただし、どの酸化数でも同じように安定というわけではありません。またd軌道間の電子遷移だけが色の原因ではなく、配位子と金属の間の電荷移動による吸収もあります。たとえばMnO₄⁻は中心金属がd電子をもたない形式的配置でも有色です。
| 量 | 何を数えるか | 混同しやすい量 |
|---|---|---|
| 酸化数 | 結合電子を形式的に割り当てた金属の電子の収支 | 錯イオン全体の電荷とは限らない |
| 配位数 | 金属に直接結合する配位原子の数 | 配位子の分子数とは限らない |
| 配位子の座数 | 1つの配位子が1つの金属へ結合する原子の数 | 二座なら1分子で2か所を占める |
中性の二座配位子エチレンジアミンをenと書く。[Co(en)₃]³⁺では各enが2個のN原子でCoに結合しているとする。配位子の個数、配位数、Coの酸化数を求めよ。
解答・解説
配位子は **3個**、1個が2か所で結合するので配位数は **6**。enの電荷は0だから x + 3×0 = +3、Coの酸化数は **+3**。配位数6の代表的な配置は八面体で、「八」は配位子数でなく多面体の面の数である。
錯体の式では角括弧の内と外を分ける
錯塩の式は、まとまって存在する錯イオンを角括弧でくくり、その電荷を打ち消す対イオンを外に書きます。たとえば[Co(NH₃)₅Cl]Cl₂では、括弧内のCl⁻は配位子、括弧外のCl⁻は対イオンです。同じ元素記号でも役割が違います。水中で括弧内の結合が保たれると仮定する問題では、外側の対イオンだけを分離して、溶液中の粒子数を数えます。
[Co(NH₃)₅Cl]Cl₂ 0.010 molが、上の式の通り完全電離したとする。Coの酸化数、遊離Cl⁻の物質量、生成するイオンの合計物質量を求めよ。NH₃は中性、配位Clの電荷は−1とする。
解答・解説
外側のCl⁻が2個あるので錯イオンは+2。Coをxとして x−1=+2、酸化数は **+3**。遊離Cl⁻は **0.020 mol**、錯イオンは0.010 molなのでイオン合計は **0.030 mol**。括弧内のClまで独立した粒子として数えない。
[Cr(H₂O)₄Cl₂]⁺のCrの酸化数と配位数を求めよ。H₂OとCl⁻はすべて単座配位子とする。
解答・解説
x + 4×0 + 2×(−1) = +1より酸化数は **+3**。直接結合する原子は4+2=6個なので配位数は **6**。
中性の二座配位子enを含む[Ni(en)₂]²⁺で、各enが2か所で結合するとき、配位数とNiの酸化数は?この情報だけで形まで一意に決まるか。
解答・解説
配位数は **4**、Niの酸化数は **+2**。配位数の数え上げだけでは形を一意に決められず、金属・配位子の性質に関する追加知識が必要。
[Co(NH₃)₆]Cl₃ 0.020 molが錯イオンを保ったまま完全電離するとする。遊離Cl⁻とイオン全体の物質量は?
解答・解説
1式量分が錯イオン1個とCl⁻ 3個に分かれる。遊離Cl⁻は **0.060 mol**、イオン全体は **0.080 mol**。NH₃は配位したままなので別粒子ではない。
問1. 中性の二座配位子3個が各2か所で1つの金属に結合するとき、配位数は?
問2. [Co(NH₃)₅Cl]²⁺中のCoの酸化数は?
問3. 錯体の色について正しい説明は?