遷移元素と錯体

遷移元素の特徴、配位化合物の構造と色。

📑 目次
  1. 錯イオン
  2. 金属の周囲の「座席」と電子のエネルギー
  3. 錯体の式では角括弧の内と外を分ける
  • 遷移元素は複数の酸化数をもつ(Mn: +2, +4, +7 など)
  • 有色の化合物・イオンが多い(d 電子の遷移や電荷移動による。すべてが有色ではない)
  • 触媒として働くことが多い(Fe: ハーバー法、V₂O₅: 接触硫酸法)

錯イオン

[Cu(NH3)4]2+,[Ag(NH3)2]+,[Fe(CN)6]4−[\mathrm{Cu(NH_3)_4}]^{2+}, \quad [\mathrm{Ag(NH_3)_2}]^{+}, \quad [\mathrm{Fe(CN)_6}]^{4-}

中心金属に配位子(NH₃, CN⁻, H₂O など非共有電子対をもつ分子・イオン)が配位結合したものが錯体で、そのうち電荷をもつものを錯イオンと呼びます。配位数は中心金属に直接結合する配位原子の数です。NH₃ や CN⁻ のような単座配位子なら配位子の個数と一致しますが、1つの配位子が複数の原子で結合する場合は一致しません。電荷だけから構造は決まらず、代表的な四面体・平面四配位・八面体の構造と対応させて学びます。

錯形成は沈殿の溶解によく使われます。「沈んだら錯体で溶かす」パターン:AgCl → [Ag(NH₃)₂]⁺、Cu(OH)₂ → [Cu(NH₃)₄]²⁺。
例題:錯イオンの電荷と金属の酸化数

[Fe(CN)6]4−[\mathrm{Fe(CN)_6}]^{4-} の配位数と Fe の酸化数を求めよ。CN⁻ は単座配位子とする。

解答・解説

CN⁻ が6個配位するため配位数は **6**。Fe の酸化数を x とすると、錯イオン全体の電荷は x+6(−1)=−4x+6(-1)=-4 なので **x = +2**。配位数6と酸化数+2は別の量である。代表的な構造は八面体。

練習問題:配位数・酸化数・溶解平衡
  1. [Ag(NH3)2]+[\mathrm{Ag(NH_3)_2}]^+ の配位数と Ag の酸化数を求めよ。

    ヒント

    NH₃ は電荷0の単座配位子。

    解答・解説

    配位数は **2**。NH₃ の電荷は0なので x+2(0)=+1x+2(0)=+1 より Ag の酸化数は **+1**。この錯イオンは直線形である。

  2. [Fe(CN)6]3−[\mathrm{Fe(CN)_6}]^{3-} の配位数と Fe の酸化数を求め、例題の錯イオンと比較せよ。

    ヒント

    配位子の数は変わらず、全体の電荷だけが変わる。

    解答・解説

    配位数は **6**、x−6=−3x-6=-3 より Fe の酸化数は **+3**。例題の +2 とは酸化数が異なるが、配位数は等しい。

  3. AgCl がアンモニア水に溶ける変化をイオン反応式で示し、錯形成が溶解を促す理由を述べよ。

    ヒント

    溶け出した Ag⁺ が錯イオンになると、遊離 Ag⁺ の濃度は下がる。

    解答・解説

    AgCl+2NH3⇄[Ag(NH3)2]++Cl−\mathrm{AgCl + 2NH_3 \rightleftarrows [Ag(NH_3)_2]^+ + Cl^-}。Ag⁺ が錯イオンとして取り込まれるため、AgCl⇄Ag++Cl−\mathrm{AgCl \rightleftarrows Ag^+ + Cl^-} の平衡が右へ移る。左右で Ag、Cl、N、H の原子数と全電荷0が保存される。

金属の周囲の「座席」と電子のエネルギー

なぜ同じ金属でも、周りに結びつく配位子が違うと色が変わるのでしょう。配位子が近づくと、その電子との相互作用により中心金属のd軌道のエネルギーが分かれるからです。その差に対応する光を吸収すると、残った光が私たちに届きます。色ガラスが通す光と吸収する光を区別するのと同じで、見える色は吸収した光そのものの色ではありません。色は金属名だけでなく酸化数、配位子、立体配置にも関係します。

遷移金属では外側のs電子とd電子に関わる状態のエネルギーが比較的近いため、複数の酸化数の化合物が安定になり得ます。ただし、どの酸化数でも同じように安定というわけではありません。またd軌道間の電子遷移だけが色の原因ではなく、配位子と金属の間の電荷移動による吸収もあります。たとえばMnO₄⁻は中心金属がd電子をもたない形式的配置でも有色です。

量何を数えるか混同しやすい量
酸化数結合電子を形式的に割り当てた金属の電子の収支錯イオン全体の電荷とは限らない
配位数金属に直接結合する配位原子の数配位子の分子数とは限らない
配位子の座数1つの配位子が1つの金属へ結合する原子の数二座なら1分子で2か所を占める
「配位数4なら必ず正四面体」「遷移金属イオンなら必ず有色」とは言えません。配位数4には平面四角形もあります。形を決めるには金属と配位子に関する情報が必要です。色の分類も例外を含む傾向であり、未知物質を外見だけで同定しないようにします。
例題:二座配位子を座席として数える

中性の二座配位子エチレンジアミンをenと書く。[Co(en)₃]³⁺では各enが2個のN原子でCoに結合しているとする。配位子の個数、配位数、Coの酸化数を求めよ。

解答・解説

配位子は **3個**、1個が2か所で結合するので配位数は **6**。enの電荷は0だから x + 3×0 = +3、Coの酸化数は **+3**。配位数6の代表的な配置は八面体で、「八」は配位子数でなく多面体の面の数である。

錯体の式では角括弧の内と外を分ける

錯塩の式は、まとまって存在する錯イオンを角括弧でくくり、その電荷を打ち消す対イオンを外に書きます。たとえば[Co(NH₃)₅Cl]Cl₂では、括弧内のCl⁻は配位子、括弧外のCl⁻は対イオンです。同じ元素記号でも役割が違います。水中で括弧内の結合が保たれると仮定する問題では、外側の対イオンだけを分離して、溶液中の粒子数を数えます。

[Co(NH3)5Cl]Cl2→[Co(NH3)5Cl]2++2Cl−\mathrm{[Co(NH_3)_5Cl]Cl_2\rightarrow [Co(NH_3)_5Cl]^{2+}+2Cl^-}
錯形成と酸化還元は別です。配位子が入れ替わっても金属の酸化数が変わらない変化があります。また、上の電離式は錯イオンが分解・加水分解せず、対イオンとの会合も無視するモデルです。実際の溶液で、括弧内の配位子が永遠に交換しないという意味ではありません。
例題:括弧の電荷から金属と粒子数を求める

[Co(NH₃)₅Cl]Cl₂ 0.010 molが、上の式の通り完全電離したとする。Coの酸化数、遊離Cl⁻の物質量、生成するイオンの合計物質量を求めよ。NH₃は中性、配位Clの電荷は−1とする。

解答・解説

外側のCl⁻が2個あるので錯イオンは+2。Coをxとして x−1=+2、酸化数は **+3**。遊離Cl⁻は **0.020 mol**、錯イオンは0.010 molなのでイオン合計は **0.030 mol**。括弧内のClまで独立した粒子として数えない。

解答つき練習:配位子の役割を読む
  1. [Cr(H₂O)₄Cl₂]⁺のCrの酸化数と配位数を求めよ。H₂OとCl⁻はすべて単座配位子とする。

    解答・解説

    x + 4×0 + 2×(−1) = +1より酸化数は **+3**。直接結合する原子は4+2=6個なので配位数は **6**。

  2. 中性の二座配位子enを含む[Ni(en)₂]²⁺で、各enが2か所で結合するとき、配位数とNiの酸化数は?この情報だけで形まで一意に決まるか。

    解答・解説

    配位数は **4**、Niの酸化数は **+2**。配位数の数え上げだけでは形を一意に決められず、金属・配位子の性質に関する追加知識が必要。

  3. [Co(NH₃)₆]Cl₃ 0.020 molが錯イオンを保ったまま完全電離するとする。遊離Cl⁻とイオン全体の物質量は?

    解答・解説

    1式量分が錯イオン1個とCl⁻ 3個に分かれる。遊離Cl⁻は **0.060 mol**、イオン全体は **0.080 mol**。NH₃は配位したままなので別粒子ではない。

確認クイズ:三つの数を区別する

問1. 中性の二座配位子3個が各2か所で1つの金属に結合するとき、配位数は?

問2. [Co(NH₃)₅Cl]²⁺中のCoの酸化数は?

問3. 錯体の色について正しい説明は?

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