古文の心情を読む——描写の根拠と解釈の限界
感情語・行動・出来事を結び付けて心情を説明する。本文の事実、根拠のある解釈、まだ決まらないことを分け、理由を含む答案にまとめる。
- 感情語とその対象を結び付けられる
- 行動だけでは決まらない心情を区別できる
- 発話者の言葉と地の文の記述を分けられる
- 理由と根拠を示して心情を説明できる
1.感情の名前に「何に対して」を足す
「うれしい」とだけ書くより、「待っていた友が来たのでうれしい」と書くほうが、出来事と感情の関係が伝わります。古文の心情問題も同じです。ただし、理由が本文にないなら勝手に補いません。設問が語の意味を問うのか、理由を含む心情説明を求めるのかを先に確認します。
| 根拠 | 確認すること | 注意 |
|---|---|---|
| 感情語 | 誰が、何に対してそう感じるか | 同じ語の意味も文脈で選ぶ |
| 行動 | 何をし、何を繰り返したか | 同じ行動でも理由は複数あり得る |
| 身体の描写 | 涙・震えなど何が描かれるか | 涙だけで悲しみとは決めない |
| 出来事 | 感情の前後で何が変わったか | 単なる時間的前後を必ず因果にしない |
| 発言 | 誰が誰に何と言うか | 発言が本心かは周辺の根拠も見る |
「友の来む日を待ちわびつつ、門を見やる。やがて友来たり。うれしくて、走り出づ。」心情の変化を二つの語句を根拠に説明せよ。語注:来む=来るであろう(むは推量の連体形)。待ちわぶ=待ちかねてつらく思う。やがて=すぐに。来たり=来た、の意で用いる。
解答・解説
「待ちわびつつ」から、友の到着を待ちかねてつらく思っていたことが分かる。友が来ると「うれしくて」とあるので、到着を喜ぶ気持ちへ変わり、走り出たと読める。「走り出づ」だけから喜びを決めたのではなく、感情語と出来事の両方を根拠にしている。何日間待ったかは本文にない。
2.描写だけで気持ちが決まらない場合
窓の外を長く見ている人は、景色に見入っているのかもしれませんが、何かを待っていたり、別の物思いに沈んでいたりすることもあります。行動が書かれていることと、その動機が示されていることを分けます。
「降る雪を眺めつつ、久しくそこに居ぬ。」を「雪が好きなので、寒さを忘れて見入った」と説明してよいか。語注:眺む=ここでは物思いに沈んでぼんやり見る。マ行下二段活用で、眺めは連用形。居ぬ=座っていた。ワ行上一段動詞「居る(ゐる)」の連用形ゐ+完了ぬ。久しく=長い間。
解答・解説
そのまま断定してはいけない。訳は「降る雪をぼんやり眺めながら、長い間そこに座っていた」。雪の好き嫌い、寒さを感じたか、何を考えていたかは示されていない。語注の「物思い」は読めるが、その内容を「雪への好意」と特定する根拠はない。
3.程度と、感情の方向を分ける
「いみじ」はシク活用の形容詞で、程度の甚だしさのほか、すばらしい・ひどいなどの意味を文脈に応じて表します。「いみじう」は連用形「いみじく」のウ音便です。以下の二例では、後続語の程度を強めています。語のすべての用法を「程度だけ」と決めるのではありません。
| 自作例 | この例の訳 | 感情・評価を具体化する語 |
|---|---|---|
| 友の来たるを見て、いみじう喜ぶ。 | 友が来たのを見て、たいそう喜ぶ。 | 喜ぶ |
| 夜半の物音を聞きて、いみじう恐る。 | 夜中の物音を聞いて、ひどく恐れる。 | 恐る(恐れる) |
上表の「いみじう」を両方「たいそう」と訳してよいか。また、その一語だけでどちらの気持ちかを決められるか。語注:来たるはラ行四段「来たる」の連体形。恐るはラ行下二段動詞。
解答・解説
両方を「たいそう」と訳してよい。ただし、前者は友の到着への喜び、後者は夜中の物音への恐れである。「いみじう」という程度の表現だけで方向を決めず、対象と後続の動詞を合わせて読む。同じ強さの訳語だから同じ感情ということにはならない。
4.誰の感情か、誰が述べたことか
地の文は人物の行動だけでなく内面を直接述べることもあります。会話も本心を述べる場合がありますが、強がり・誇張・相手への働きかけを含む場合もあります。「会話は事実報告ではない」「会話なら必ず本心」のどちらにも固定しません。
自作例「姫君、母の病を聞きて泣きたまひぬ。母もまた泣きぬ。」では、初めに姫君、次に母という主語が明示されています。「たまひ」は四段活用の尊敬の補助動詞「給ふ」の連用形で、姫君の動作への敬意を表します。尊敬語だけで人物名が決まったのではありません。
「暁に目覚めて、戸を開けて月を見る。」から「寂しさ」を断定できるか。語注:暁=夜明け前のころ。
解答・解説
この文だけでは断定できない。目覚めた・戸を開けた・月を見たという行動は分かるが、寂しさを特定する語や文脈がない。月から連想する自分の印象を、そのまま人物の心情にしない。
「友を待ちわびて、門を見やる。また門を見やる。」の繰り返しの効果を答えよ。「何時間も待った」といえるか。
解答・解説
門へ目を向ける行動が繰り返し強調され、「待ちわびて」と合わせて、友の到着を気にかけて待ちかねている様子が伝わる。しかし具体的な待ち時間はないので、何時間とは決められない。
「雪降りて、道絶えぬ。されど文を書きて、道の通ふ日を待つ。」から読める意志と、決まらない感情を答えよ。語注:文=手紙。道絶えぬ=道が通れなくなった。通ふ=通じる。
解答・解説
道が通れなくなっても手紙を用意し、通じる日を待っているため、相手に便りを届けようとする意志がうかがえる。相手との関係や、寂しさ・怒りなど具体的な感情はこの文だけでは決まらない。手紙がすでに届いたとも書かれていない。
「袖にて涙を拭ひ、しばしものも言はず。」から分かる行動を二つ挙げ、涙の理由を断定できるか述べよ。語注:拭ふ=ぬぐう。しばし=しばらく。
解答・解説
袖で涙を拭いたことと、しばらく何も言わなかったこと。涙の理由は書かれていないので、悲しみか喜びかなどは断定できない。沈黙だけで「話したいのに話せなかった」という能力や欲求まで追加しない。
問1. 心情の説明で適切なのは?
問2. 上表の二つの「いみじう」について正しいのは?
問3. 人物の会話を読む姿勢として適切なのは?
問4. 「姫君、母の病を聞きて泣きたまひぬ。」で主語が姫君と分かる直接の根拠は?
- 誰の気持ちかを確認する。
- 語の意味を語注・文脈で確かめる。
- 出来事と描写を対応させる。
- 本文の事実とそこからの解釈を分ける。
- 設問に必要な範囲を答え、足りない情報は足さない。