古文読解の主語と場面——省略された「誰か」を追う
述語ごとに動作主を確認し、会話の人称と場面の転換を読む。接続助詞や敬語だけで人物を決めず、分かることと決まらないことを区別する。
- 述語ごとに主語の候補と根拠を示せる
- 発話者と発話内の主語を区別できる
- 接続助詞だけで主語の継続・交代を断定しない
- 時間・場所・登場人物を整理して場面を読み直せる
1.文全体に一人ではなく、述語ごとに主語を探す
「雨が降ったので、傘を開いた」なら、降ったのは雨、傘を開いたのは人です。古文でも、一文の途中で主語が変わります。まず動作・状態を述べる語を拾い、その一つ一つについて「誰が/何が」と問います。人物の名前を一つ選んで文全体に当てはめないことが出発点です。
| 手がかり | 使い方 | 限界 |
|---|---|---|
| 明示された名詞 | 「妹、言ふ」なら妹が発言する | 別の述語にも同じ主語を自動的に当てはめない |
| 動詞の意味 | 「雨降る」では降るものが雨と分かる | 動物も寝たり死んだりする。人間に限定しない |
| 敬語 | 誰への敬意かを文脈と照らす | 尊敬語があるだけで特定の人物名は決まらない |
| 前後の流れ | 道具を取って使う等の連続した動作を結ぶ | 省略された人物が本文でまだ紹介されていない場合もある |
「兄、筆を取りて文を書きつ。妹、これを見て、『我も書かむ』と言ふ。」①取りて、②書きつ、③見て、④言ふ、⑤書かむの主語を答え、全文を訳せ。語注:文=手紙。書きつ=書いた(書き+完了の助動詞つの終止形)。むはこの会話では意志とする。
解答・解説
①②は兄、③④⑤は妹。兄・妹は本文に明示され、取りて→書きつ、見て→言ふはそれぞれの連続した動作です。⑤は会話の「我」と意志の指定から妹。「兄は筆を取って手紙を書いた。妹はこれを見て、『私も書こう』と言う。」意志を「すでに書いた」という事実に変えません。
2.話している人と、話の中で動く人は別
会話の「我」は通常、その発話者自身を指します。しかし、会話に出るすべての人物が発話者になるわけではありません。「私は弟を待つ」なら、待つのは私で、待たれるのは弟です。発話者・聞き手・会話内の主語を別々の欄に書きましょう。
「父、子に『おのが子を思はぬ親はあらじ』と言ふ。」①発話者と聞き手、②「親」と「おのが子」の指す範囲、③全文の訳を答えよ。語注:おのが=自分の。思ふ=気にかける。思はぬのぬは打消ずの連体形、あらじのじは打消推量。
解答・解説
①発話者は父、聞き手は子。②「親」は親一般、「おのが子」はそれぞれの親にとっての自分の子。父自身にも当てはまり得ますが、父一人とその子だけに限定する文ではありません。③「父は子に『自分の子を気にかけない親はいないだろう』と言う。」引用末尾の「と」は格助詞であり、「言ふ」が発言を表す動詞です。
| 確認する欄 | 例題2での答え |
|---|---|
| 誰が言うか | 父 |
| 誰に言うか | 子 |
| 誰についての一般論か | 親一般とそれぞれの子 |
| 誰の判断か | 父の発言として示された判断 |
3.「ば」だけで主語の交代は決まらない
接続助詞「ば」は条件などを示す語で、人物の名前を指定する語ではありません。未然形に付く仮定条件と、已然形に付く確定条件を区別し、そのうえで前後の述語の主語を調べます。已然形+ばにも原因・理由、偶然的条件、恒常的条件などがあり、いつでも「ので」と訳すわけではありません。
男が一人で本を読み、その後眠る場面とする。①「男、文を読めば、その意味を知りぬ。」②「夜深くなりたれば、男、灯を消して寝ぬ。」各述語の主語を答え、②の「なりたれば」を分解せよ。語注:文=文章。①のばは「読むと」、②のばは「なったので」。寝ぬ=寝た(ナ行下二段「寝(ぬ)」の連用形ね+完了ぬ)。
解答・解説
①読む・知るのは男で、主語は継続。②深くなるのは夜、灯を消す・寝るのは男で、節の間で主語が変わります。「なりたれば」はラ行四段「なる」の連用形なり+完了たりの已然形たれ+接続助詞ば。訳は「夜が更けたので、男は灯を消して寝た」。同じ「ば」があっても主語の対応は異なります。
4.場面のメモを更新する
「日暮れぬ」「ほど経て」などの時間表現、「家に帰る」「門を出づ」などの移動表現を拾い、時・場所・登場人物のメモを更新します。転換語の「さて」があるだけで主語が必ず交代するわけではありません。新しい人物名があるか、前の動作が続くかを確かめます。
「男、山に入りて薪を取る。家に帰りて休む。日暮れぬ。隣の家の人、男を訪ねて来たり。『我は明日また来む』と言ふ。」最後の発言は訪問者のものとし、むは意志とする。①帰る・休む人、②訪ねる・言う人、③明日来るつもりの人を答えよ。
解答・解説
①男。②隣の家の人。③同じ訪問者。「男は山に入って薪を取り、家に帰って休む。日が暮れた。隣の家の人が男を訪ねて来た。『私は明日また来よう』と言う。」日は暮れるもの、男と訪問者は動く人として区別します。明日の訪問は意志であり、実現した出来事ではありません。
「風強く吹けば、花ぞ散りける。」で吹くもの・散るものを答え、「ぞ」に対する結びを示せ。ばは原因・理由、けりは過去とする。
解答・解説
吹くものは風、散るものは花。「ぞ」の結びは助動詞けりの連体形「ける」。訳は「風が強く吹くので、花が散った」。一文中でも主語を二つに分けます。
「母、針を持つ。娘、糸を通す。」の主語は省略されているか。「は」という係助詞による対比があるか。
解答・解説
主語は母と娘で、どちらも明示されています。「は」は書かれていません。二人の動作は対照的に並んでいますが、存在しない係助詞を根拠にしてはいけません。
「姉、妹に『汝はここに待て』と言ふ。」の発話者・聞き手・待つよう命じられた人を答えよ。語注:汝=お前。待ては待つの命令形。
解答・解説
発話者は姉、聞き手と待つよう命じられた人は妹。訳は「姉は妹に『お前はここで待て』と言う」。命令を受けたことから、妹が実際に待ったとまでは決まりません。
「男、家にあり。ほど経て、雪降りぬ。男、その日は外に出でず。」の時間の変化と、降るもの・出ない人を答えよ。語注:出でず=ダ行下二段出づの未然形いで+打消ず。
解答・解説
「ほど経て」で時間が進み、「その日」が雪の降った日を受けます。降るものは雪、外に出ない人は男。男が家にいて、その後雪が降ったという順序を保ちます。
人物紹介も前後の文もなく「文を読む」とだけある。主語を「語り手」と断定できるか。
解答・解説
できません。読む人の名前はこの句だけでは示されていません。語り手以外の人物も可能なので、前後の文脈が必要です。
問1. 「ば」があるだけで主語について決まることは?
問2. 例題2の「おのが子」は何を指すか。
問3. 省略された主語を決める際に適切なのは?
問4. 「我は明日また来む」を意志と読むと、何が分かるか。
- 述語を拾う。
- それぞれに誰が・何がを当てる。
- 会話の発話者と会話内の主語を分ける。
- 時・場所・人物の変化を記録する。
- 本文の根拠で決まらなければ、必要な情報を示す。