静電誘導・導体の静電平衡・接地

内部の電場ゼロと等電位を電子の再配置から理解し、接地で固定される量と、誘導帯電に必要な操作の順序を区別する。

この単元の目標
  • 静電平衡で導体内部の電場がゼロになり、導体全体が等電位になる理由を説明できる
  • 静電誘導と接地における電子の移動・総電荷の保存条件を区別できる
  • 孤立導体と接地導体について、電位・電荷・操作順序を正しく判断できる
📑 目次
  1. 原理:自由電子は電場を打ち消すまで再配置される
  2. 導出:内部 E=0 から等電位へ
  3. 静電誘導:全体が中性でも、局所には電荷が現れる
  4. 接地:総電荷でなく、電位を固定する

原理:自由電子は電場を打ち消すまで再配置される

金属中では正のイオンはほぼ固定され、自由電子が移動できます。静止した外部電荷のもとで、電子の再配置が終わり、電荷の正味の流れがなくなった状態が静電平衡です。電子の熱運動まで止まるという意味ではありません。電流が流れる抵抗器や、変化する磁場がある場合はここで扱いません。

E⃗導体材料内部=0⃗,V同一導体=一定\vec E_{\text{導体材料内部}}=\vec0,\qquad V_{\text{同一導体}}=\text{一定}

「内部」とは導体を構成する金属材料の内部です。空洞がある場合、空洞まで自動的に電場ゼロとはいえません。静電平衡では巨視的な過剰電荷は導体表面に分布し、表面も内部と同じ電位です。複数の導体が電気的につながっていなければ、導体ごとの電位は異なっていて構いません。

導出:内部 E=0 から等電位へ

🔍 電子への力と、2点間の電位差をつなぐ

  1. 1:内部に電場が残ると仮定
    F⃗=−eE⃗,e>0\vec F=-e\vec E,\qquad e>0

    自由電子の電荷は −e。内部に巨視的な電場が残れば電子の移動が起こるため、静電平衡ではありません。

  2. 2:再配置後の全電場
    E⃗外部電荷+E⃗再配置された電荷=0⃗\vec E_{\text{外部電荷}}+\vec E_{\text{再配置された電荷}}=\vec0

    導体材料の内部で成立するベクトルの等式です。外部電荷の電場だけが消えるのではなく、合成電場がゼロになります。

  3. 3:導体内の P から Q への経路を選ぶ
    VQ−VP=−∫PQE⃗⋅dℓ⃗=0V_Q-V_P=-\int_P^Q\vec E\cdot d\vec\ell=0

    積分は「電場の経路方向成分×微小距離」を足したもの。導体内を通る経路では各部分がゼロなので、任意の2点の電位差がゼロです。

  4. 4:値ゼロでなく、差ゼロ
    VP=VQ=Vc,Vc は一般に 0 ではないV_P=V_Q=V_c,\qquad V_c\text{ は一般に }0\text{ ではない}

    電位の単位は V、電場は N/C=V/m。E=0 だけから電位の定数 Vc の値は決まりません。

表面に沿う電場成分が残れば電子が表面を移動するので、静電平衡で表面直外の電場は表面に垂直です。真空に接する滑らかな表面では、外向きを正とした法線成分は En=σ/ε0E_n=\sigma/\varepsilon_0(σ\sigma は局所の面電荷密度、単位 C/m2\mathrm{C/m^2})。一般に電荷分布は一様ではありません。これは孤立した無限一様電荷面の片側の電場 σ/(2ε0)\sigma/(2\varepsilon_0) とは別の境界条件です。

静電誘導:全体が中性でも、局所には電荷が現れる

絶縁台上の中性金属球に正の帯電体を、触れずに近づけます。電子が帯電体に近い側へ移動し、近い側は負、遠い側は電子不足で正になります。これが静電誘導です。球と外部の間に電荷の出入りがなければ、総電荷はゼロのまま。正負の電荷が新たに作られたわけではありません。

接地:総電荷でなく、電位を固定する

大地を十分大きな電荷の供給源・吸収先とみなし、その電位を 0 V0\,\mathrm V と定めます。導体を導線で大地につなぐ接地では、電子が出入りして導体も 0 V0\,\mathrm V になります。正の帯電体を近づけた金属球を接地すると、電子が大地から球へ流入し、球は正味で負に帯電します。その量は距離や形状で決まり、帯電体の電荷と同じ絶対値とは限りません。

正の帯電体を用いる操作球の総電荷・電位の条件
中性球に近づける(非接触・絶縁)総電荷ゼロ。近い側が負、遠い側が正
帯電体を置いたまま接地電子が流入。総電荷は負、電位は大地と同じ
接地を先に外す以後、漏れがなければ負の総電荷が保存される
最後に帯電体を遠ざける負の電荷が再分布。球の電位は一般にゼロでなくなる
例題1:操作の順序を逆にすると?

中性の金属球に正の帯電体を近づけ、球を接地した。(A) 接地を外してから帯電体を十分遠ざける、(B) 接地したまま帯電体を十分遠ざけてから接地を外す。それぞれ球の最終的な電荷の符号を答えよ。他の外部電場、接触帯電、電荷の漏れはないものとする。

解答・解説

(A) 負。接地中に大地から入った電子の余分が、接地を外した後も残ります。(B) 中性。帯電体を遠ざける間も大地と電荷を交換できるため、余分な電子は大地に戻ります。外部の帯電体の影響がなくなった接地球には余分な電荷が残りません。「接地を外す」が電荷保存を開始する操作です。

例題2:電位がゼロでない導体球の内部

真空中の孤立した半径 R=0.10 mR=0.10\,\mathrm m の金属球に Q=+2.0 nCQ=+2.0\,\mathrm{nC} を与えた。他の電荷はなく、無限遠で V=0V=0、k=9.0×109 N m2/C2k=9.0\times10^9\,\mathrm{N\,m^2/C^2} とする。中心の電場と電位、表面直外の電場の大きさを求めよ。

解答・解説

球対称なので外部の電位は V(r)=kQ/rV(r)=kQ/r、電場の大きさは E(r)=kQ/r2E(r)=kQ/r^2(r>Rr>R)。表面と内部の電位は kQ/R=180 VkQ/R=180\,\mathrm V で一定。中心の電場は 0 N/C0\,\mathrm{N/C}。表面直外は kQ/R2=1.8×103 N/CkQ/R^2=1.8\times10^3\,\mathrm{N/C}、外向きです。中心に外部用の式を代入して発散させてはいけません。

誤解注意:接地=電荷ゼロではなく、導体内 E=0 =電位ゼロでもありません。 また「電荷は表面」とは巨視的な過剰電荷の話で、内部から電子とイオンが消えるわけではありません。閉じた空洞内に電荷がなければ静電遮蔽により空洞も E=0 ですが、空洞に電荷を置くと空洞の電場は一般にゼロではありません。それでも金属材料内部は E=0、導体は等電位です。
練習:何が保存され、何が固定されるか
  1. 中性の絶縁された金属球に負の帯電体を非接触で近づける。近い側・遠い側の電荷の符号と、球全体の電荷を答えよ。

    ヒント

    動くのは電子です。負の帯電体から電子が反発される方向を考えます。

    解答・解説

    近い側は電子が不足して正、遠い側は電子が増えて負。電荷が球の外へ出入りしていないため、球全体の電荷はゼロのままです。

  2. 負の帯電体を近くに置いたまま中性金属球を接地し、接地を外してから帯電体を遠ざけた。接地時に移動した電子の向きと、最終的な球の電荷の符号を答えよ。

    ヒント

    正の帯電体で行う場合の、電子の移動方向を逆にします。

    解答・解説

    電子は球から大地へ移動します。接地を外した時点で電子不足が固定され、帯電体を遠ざけた後も球には正の総電荷が残ります。帯電量は形状・距離に依存します。

  3. 他の電荷の影響がない、真空中の半径 0.20 m0.20\,\mathrm m の孤立金属球が Q=−4.0 nCQ=-4.0\,\mathrm{nC} を持つ。無限遠基準の内部電位と、中心・表面間の電位差を求めよ。k=9.0×109 N m2/C2k=9.0\times10^9\,\mathrm{N\,m^2/C^2}。

    ヒント

    内部は表面と等電位。V=kQ/RV=kQ/R には Q の負号を残します。

    解答・解説

    V=9.0×109×(−4.0×10−9)/0.20=−180 VV=9.0\times10^9\times(-4.0\times10^{-9})/0.20=-180\,\mathrm V。中心も表面も −180 V なので電位差は 0 V0\,\mathrm V。内部電場はゼロです。

確認クイズ:静電平衡の条件

問1. 接地されていない1つの導体が静電平衡にある。必ず正しいのはどれか。

問2. 外部に正の帯電体がある状態で中性金属球を接地した。大地を 0 V としたとき、正しい説明は?

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