キルヒホッフの法則:向きを決めて回路を解く

節点での電荷保存と閉路での電位差の和を使い、複数の枝の電流を符号付きで求める。

この単元の目標
  • 枝電流の正方向を仮定し、節点の電流保存式を立てられる
  • 閉路をたどる向きと電池の極性から電位変化の符号を決められる
  • 連立方程式を解き、負の電流が実際に流れる向きを説明できる

回路を読む準備:節点・枝・閉路

ここでは時間的に変化しない直流の定常状態を扱い、導線の抵抗と外部からの電磁誘導は無視します。同じ導線だけでつながる点は同電位の「節点」、節点間の一本道が「枝」です。まず各枝に電流の矢印を仮定します。これは未知量の正方向を定義するだけなので、最初から実際の向きを当てる必要はありません。電流は正電荷の移動方向を基準とし、電子の移動方向とは区別します。

二つの保存則と符号の規約

∑Iin=∑Iout,∑閉路ΔV=0\sum I_{\mathrm{in}}=\sum I_{\mathrm{out}}, \qquad \sum_{\text{閉路}}\Delta V=0

節点に電荷がたまり続けないため、流入電流の和と流出電流の和は等しくなります。また一周して同じ点に戻れば電位も元に戻るので、閉路の電位変化の総和は 0 です。閉路をたどる向きは、電流の仮定方向と独立に選べます。

通過する素子たどる向き電位変化
抵抗 R仮定した電流 I と同じ向き−RI-RI
抵抗 R仮定した電流 I と逆の向き+RI+RI
理想電池(起電力 E)負極から正極+E+E
理想電池(起電力 E)正極から負極−E-E

抵抗での符号は「仮定した電流」に対して決め、解く途中で変えません。電池の符号は極性だけで決まり、電流方向には依存しません。未知電流の数に見合う独立な式を選びます。同じ式を変形しただけの閉路を追加しても情報は増えません。

🔍 3本の枝から節点式1本・閉路式2本を作る

  1. 1.接続と未知電流を定義する
    I1:B→A,I2,I3:A→BI_1: B\to A, \qquad I_2,I_3: A\to B

    A・B 間に3枝だけを置く。枝1は B→理想電池(負極が B、正極が C)→C→抵抗 R₁→A。枝2は A→抵抗 R₂→B、枝3は A→抵抗 R₃→B。C は枝1の途中の接続点で、他の枝にはつながらない。

  2. 2.節点 A の電荷保存
    I1−I2−I3=0I_1-I_2-I_3=0

    A に入る枝1の電流が、枝2と枝3へ分かれる。節点 B の式はこれと同じ情報になる。

  3. 3.枝1を B→A、枝2を A→B とたどる
    E−R1I1−R2I2=0E-R_1I_1-R_2I_2=0

    電池で上昇し、二つの抵抗ではそれぞれ仮定電流と同方向に進むので下降する。

  4. 4.枝1を B→A、枝3を A→B とたどる
    E−R1I1−R3I3=0⇒R2I2=R3I3=VA−VBE-R_1I_1-R_3I_3=0 \quad\Rightarrow\quad R_2I_2=R_3I_3=V_A-V_B

    三つの式で三つの未知数を解く。枝2と枝3は両端が共通なので電圧が等しく、電流は抵抗に反比例することも確認できる。

例題1:電源のある枝と二つの抵抗枝

導出と同じ接続で E = 9 V、R₁ = 1 Ω、R₂ = 6 Ω、R₃ = 3 Ω とする。I₁ は枝1を B→A、I₂・I₃ はそれぞれ枝2・枝3を A→B とする。各電流と A の B に対する電位を求めよ。

解答・解説

節点式は I1=I2+I3I_1=I_2+I_3、閉路式は 9−I1−6I2=09-I_1-6I_2=0 と 9−I1−3I3=09-I_1-3I_3=0。後二式の差より 6I2=3I36I_2=3I_3、したがって I3=2I2I_3=2I_2、I1=3I2I_1=3I_2。代入すると 9−9I2=09-9I_2=0 なので **I₁ = 3 A、I₂ = 1 A、I₃ = 2 A**。すべて正なので仮定どおりの向き。VA−VB=6I2=6V_A-V_B=6I_2=6 V。検算すると節点で 3=1+23=1+2、両閉路で 9−3−6=09-3-6=0 となる。

例題2:負の電流を読み取る

A・B 間に次の3枝だけがある。枝1は B→理想電池10 V(負極 B、正極 C₁)→C₁→2 Ω→A。枝2は B→理想電池2 V(負極 B、正極 C₂)→C₂→2 Ω→A。枝3は A→2 Ω→B。C₁・C₂ は各枝の途中だけの接続点で互いに接続しない。I₁・I₂ を各電源枝の B→A、I₃ を枝3の A→B と仮定して解け。

解答・解説

節点 A で I1+I2=I3I_1+I_2=I_3。枝1で B→A、枝3で A→B と一周すると 10−2I1−2I3=010-2I_1-2I_3=0。枝2と枝3の一周では 2−2I2−2I3=02-2I_2-2I_3=0。よって I1=5−I3I_1=5-I_3、I2=1−I3I_2=1-I_3、節点式へ代入して 6−2I3=I36-2I_3=I_3。したがって **I₁ = 3 A、I₂ = −1 A、I₃ = 2 A**。枝2では実際には **A→B に 1 A** 流れる。VA−VB=4V_A-V_B=4 V で、枝2でも 2−2(−1)=42-2(-1)=4 V と一致する。10 V の電源が供給する 30 W は、抵抗での 2(32+12+22)=282(3^2+1^2+2^2)=28 W と、2 V の理想電源が吸収する 2 W に分かれる。これは理想回路の計算であり、実物の電池をこのように接続する指示ではない。

負の解は「電流が存在しない」「抵抗が負」という意味ではなく、実際の向きが定義した正方向と逆という意味です。負の値のまま元の式に代入して検算してください。向きだけ反転して数値にも負号を付けると二重に反転します。抵抗の発熱 I2RI^2R は、電流が負でも正です。
練習:向きの定義から答えまで
  1. 節点 A に、枝 p から 2.0 A が入り、枝 q へ 0.5 A が出る。残りの枝 s の電流 I を「A へ入る向き」を正として定義する。I と実際の流れる向きを求めよ。

    ヒント

    流入を正、流出を負として 2.0+I−0.5=02.0+I-0.5=0 と置く。

    解答・解説

    I=0.5−2.0=−1.5I=0.5-2.0=-1.5 A。したがって枝 s では **A から出る向きに 1.5 A**。実際の流入 2.0 A と流出 0.5+1.5=2.00.5+1.5=2.0 A が一致する。

  2. 分岐のない一周を、A→理想電池8 V(負極 A、正極 B)→B→3 Ω→C→1 Ω→A の順に接続する。電流 I は A→電池→B→C→A を正とする。閉路式から I と VB−VCV_B-V_C を求めよ。

    ヒント

    A から電流の正方向へ一周し、電池での上昇と抵抗での下降を足す。

    解答・解説

    8−3I−I=08-3I-I=0 より **I = 2 A**。B→C は電流と同方向なので VC−VB=−3I=−6V_C-V_B=-3I=-6 V、よって **VB−VC=6V_B-V_C=6 V**。残りの 1 Ω での降下 2 V と合わせて 8 V になる。

  3. A・B 間に3枝だけを置く。枝1は B→理想電池8 V(負極 B、正極 C₁)→C₁→2 Ω→A、枝2は B→理想電池4 V(負極 B、正極 C₂)→C₂→2 Ω→A、枝3は A→2 Ω→B。C₁・C₂ に他の接続はない。I₁・I₂ は B→A、I₃ は A→B を正とする。全電流を求めよ。

    ヒント

    I1+I2=I3I_1+I_2=I_3、8−2I1−2I3=08-2I_1-2I_3=0、4−2I2−2I3=04-2I_2-2I_3=0。

    解答・解説

    I1=4−I3I_1=4-I_3、I2=2−I3I_2=2-I_3 より 6−2I3=I36-2I_3=I_3。**I₁ = 2 A、I₂ = 0 A、I₃ = 2 A**。A・B 間は 4 V で枝2の起電力と等しく、その枝の抵抗には電位差がない。電池があっても、その枝の電流が必ず非零になるわけではない。

確認クイズ:符号を説明できるか

問1. I を A→B と定義して I = −0.40 A を得た。正しい解釈は?

問2. 電流 I の正方向と逆に抵抗 R を通過して閉路式を書くとき、電位変化は?

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