自己誘導と磁場のエネルギー

電流そのものではなく電流の変化に注目し、誘導起電力の符号とコイルへのエネルギーの出入りを理解する。

この単元の目標
  • 電流の正方向と端子電圧の規約を定め、自己誘導起電力の符号を判断できる
  • 線形コイルに蓄えられる磁場エネルギーを仕事から導き、計算できる
  • 直流定常状態と過渡状態を区別し、発展として RL 回路の時定数を説明できる
📑 目次
  1. 自己誘導は「電流の変化」に応答する
  2. 起電力と端子電圧の符号を分ける
  3. 磁場に蓄えたエネルギーを回路へ返す
  4. 発展:RL 回路の過渡応答

自己誘導は「電流の変化」に応答する

コイルの電流が変わると、自分自身を貫く磁束も変わり、ファラデーの法則によって誘導起電力が生じます。これが自己誘導です。電流が大きいか小さいかではなく、単位時間あたりにどれだけ変化するかが起電力を決めます。交流のインピーダンスとは別に、ここでは時間変化とエネルギーの出入りを追います。

巻数 N の全巻線を鎖交する磁束の和を鎖交磁束 λ とします。各巻きの磁束が等しければ λ = NΦ。本記事では形状が固定され、磁気飽和・ヒステリシスがなく、λ = Li を満たす一定の L > 0 を扱います。コイル自体の巻線抵抗は無視し、必要な抵抗は別の R として表します。
λ=Li,[L]=H=V s/A\lambda=Li,\qquad [L]=\mathrm{H}=\mathrm{V\,s/A}

起電力と端子電圧の符号を分ける

コイルの端子を A、B とし、電流 i の正方向を A → B と定めます。磁束の正方向はこの電流がつくる向きに合わせます。誘導起電力 ε は A → B に電荷を押す向きを正、一方、端子電圧は v = V_A − V_B と定義します。電流が入る端子を電圧の正端子とするので、コイルが吸収する瞬時電力は p = vi です。

ε=−dλdt=−Ldidt,v=−ε=Ldidt\varepsilon=-\frac{d\lambda}{dt}=-L\frac{di}{dt},\qquad v=-\varepsilon=L\frac{di}{dt}
符号付き電流の変化誘導起電力 ε端子電圧 v
di/dt > 0(例:+1 A → +3 A)負:A → B と逆向き正:A の電位が高い
di/dt < 0(例:+3 A → +1 A)正:A → B 向き負:B の電位が高い
di/dt = 00:電流が流れていても誘導しない0:理想コイルの直流定常状態
「誘導起電力はいつも電流と逆向き」は誤りです。正の電流が減るときは、元の電流を保つ向きに働きます。また −3 A → −1 A は電流の大きさが減っていても di/dt > 0。必ず符号付きの変化を計算しましょう。有限の端子電圧のもとでは、理想コイルの電流は瞬間的に跳びません。
例題1:電流が減るコイルの極性

L = 0.40 H のコイルで、A → B の電流が 0.020 s の間に 3.0 A から 1.0 A まで一定の割合で減少した。ε と v を求め、どちらの端子の電位が高いか答えよ。

解答・解説

di/dt=(1.0−3.0)/0.020=−100 A/sdi/dt=(1.0-3.0)/0.020=-100\,\mathrm{A/s}。したがって ε=−0.40(−100)=+40 V\varepsilon=-0.40(-100)=+40\,\mathrm{V}、v=−40 Vv=-40\,\mathrm{V}。**B が A より 40 V 高い**。誘導起電力は A → B 向きで、正の電流の減少を妨げます。

磁場に蓄えたエネルギーを回路へ返す

コイルに電流を増やして流すには、誘導起電力に逆らって電源が仕事をする必要があります。理想コイルではその仕事は熱にならず、磁場のエネルギーになります。電流の大きさが減ると、そのエネルギーを外部回路へ返します。直流定常状態で v = 0 でも、電流があれば蓄えたエネルギーはゼロではありません。

🔍 吸収電力から U = Li²/2 を導く

  1. 端子から入る瞬時電力
    p=vi=Lididtp=vi=Li\frac{di}{dt}

    p > 0 なら蓄積、p < 0 なら外部へ放出。巻線抵抗による発熱は含めません。

  2. 微小時間の仕事
    dU=p dt=Li didU=p\,dt=Li\,di

    一定の L を仮定して積分します。

  3. 電流 0 をエネルギーの基準にする
    U(i)−U(0)=∫0iLi di=12Li2U(i)-U(0)=\int_0^i Li\,di=\frac12 Li^2

    電流が負でもエネルギーは非負。単位は H·A² = J です。

例題2:放出される磁場エネルギー

L = 0.50 H の理想コイルの電流が 4.0 A から 2.0 A に減った。この間にコイルから放出されるエネルギーを求めよ。

解答・解説

初めは U1=12×0.50×4.02=4.0 JU_1=\frac12\times0.50\times4.0^2=4.0\,\mathrm{J}、後は U2=12×0.50×2.02=1.0 JU_2=\frac12\times0.50\times2.0^2=1.0\,\mathrm{J}。放出量は **3.0 J**。電流は半分でも、エネルギーは 1/4 になります。コイルのエネルギー変化自体は ΔU=−3.0 J\Delta U=-3.0\,\mathrm{J} です。

発展:RL 回路の過渡応答

起電力 E の一定電圧源、抵抗 R > 0、理想コイル L を直列接続し、時刻 t = 0 に電流ゼロから通電します。電流の向きに一周すると E − Ri − v = 0。通電直後はコイルに電圧がかかり、その後、電流の増加率が小さくなるにつれて抵抗の電圧降下が増えます。

Ldidt+Ri=E,i(t)=ER(1−e−t/τ),τ=LRL\frac{di}{dt}+Ri=E,\qquad i(t)=\frac ER\left(1-e^{-t/\tau}\right),\qquad \tau=\frac LR

時定数 τ は変化の速さを表す時間です。t = τ で電流は最終値 E/R の約 63%、十分時間がたつと i = E/R、v = 0 に近づきます。これは過渡現象で、正弦波定常交流の位相や実効値だけでは表せません。

電源を外しても、コイルと抵抗で閉回路を保てば i(t) = I₀ exp(−t/τ) と減衰し、磁場エネルギーが抵抗の熱になります。単に回路を開く場合はこの式を使えません。急な遮断では高電圧や火花が生じることがあり、実際には寄生容量なども関わります。
練習問題:符号・エネルギー・時定数
  1. L = 0.20 H。符号付き電流が 0.010 s で −3.0 A から −1.0 A へ直線的に変化した。ε と v の符号・値を求めよ。規約は本文と同じとする。

    ヒント

    電流の大きさではなく、終値から初値を引きます。

    解答・解説

    di/dt=[−1.0−(−3.0)]/0.010=+200 A/sdi/dt=[-1.0-(-3.0)]/0.010=+200\,\mathrm{A/s} より、ε=−40 V\varepsilon=-40\,\mathrm{V}、v=+40 Vv=+40\,\mathrm{V}。i < 0、v > 0 なので吸収電力は負で、磁場エネルギーを放出しています。

  2. L = 0.080 H のコイルに蓄えられたエネルギーが 0.36 J だった。電流の大きさを求めよ。

    ヒント

    U=Li2/2U=Li^2/2 を ∣i∣|i| について解きます。

    解答・解説

    ∣i∣=2U/L=0.72/0.080=3.0 A|i|=\sqrt{2U/L}=\sqrt{0.72/0.080}=3.0\,\mathrm{A}。エネルギーだけから電流の向きは決まりません。

  3. 【発展】E = 12 V、R = 6.0 Ω、L = 0.30 H の直列 RL 回路を電流ゼロから通電する。τ と t = τ の電流を求めよ。e⁻¹ = 0.368 とする。

    ヒント

    最終電流 E/R と時定数 L/R を先に求めます。

    解答・解説

    τ=0.30/6.0=0.050 s\tau=0.30/6.0=0.050\,\mathrm{s}。最終電流は 2.0 A なので、i(τ)=2.0(1−0.368)=1.264 A≈1.3 Ai(\tau)=2.0(1-0.368)=1.264\,\mathrm{A}\approx1.3\,\mathrm{A}。

確認クイズ

問1. 理想コイルに正の一定電流が流れる直流定常状態で正しいのは?

問2. 本文の符号規約で i > 0、di/dt < 0 のとき、コイルの吸収電力 p は?

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