力学的エネルギー保存の応用——単振り子とばねの複合問題

単振り子・ばね振り子・複合系を力学的エネルギー保存で一気に解く。基準面のとり方と「保存区間」の切り分けが鍵。

この単元の目標
  • 単振り子の運動を力学的エネルギー保存で解析できる
  • ばねの伸びとつり合い位置からの変位を区別し、重力とばねの位置エネルギーの和を扱える
  • 複合問題を「エネルギーの出入り」で整理して解ける
📑 目次
  1. 単振り子のエネルギー収支
  2. ばね振り子:伸びと変位を区別する
  3. 複合問題への応用

単振り子のエネルギー収支

ここでは支点を固定し、質量も伸びも無視できる糸と小さなおもりを考え、空気抵抗や支点の摩擦を無視します。糸が張ったままなら張力は瞬間の運動方向と直交し、仕事をしません。重力だけが仕事をするため、この理想モデルで力学的エネルギーが保存します。静かに放して往復する運動では、最低点で速さ最大、折り返し点で一瞬停止します。エネルギー保存で速さを求め、円運動の運動方程式を併用すると張力も求められます。

以下の θ は、鉛直下向きから測った放す位置の角度(0° ≤ θ ≤ 90°)です。静かに放し、糸がたるまない範囲を扱います。このエネルギー計算に小角近似は不要です。一方、周期の公式 2πl/g2\pi\sqrt{l/g} は振れ角が小さい場合の近似であり、大振幅でも厳密に同じ周期になるわけではありません。
12mv2+mgh=一定\frac{1}{2}mv^2 + mgh = \text{一定}

理論上の周期 T = 2π√(L/g) ≈ 2.01 秒(再生は約 1/3 速度のスローモーション)

振り子の周期は長さだけで決まり、おもりの重さや振れの大きさ(小さいうち)によらない——ガリレオが見つけた等時性です。

プレイグラウンド: 長さと初期角を変えると周期と速さがどう変わるか観察しよう

🔍 最低点の速さ v = √(2gl(1 − cosθ)) の導出

  1. Step 1: 基準面を決めて位置エネルギーを書く
    h=l(1−cos⁡θ)h = l(1 - \cos\theta)

    最低点を基準にとると、振れ角 θ での高さは糸長 l を使って l − l·cosθ と幾何から出ます。

  2. Step 2: エネルギー保存を立てる
    12mv2=mg l(1−cos⁡θ)\frac{1}{2}mv^2 = mg\,l(1 - \cos\theta)

    最高点では静止しているので運動エネルギーは 0。落ちたぶんの位置エネルギーがすべて運動エネルギーへ移ります。

  3. Step 3: 解いて形を見る
    v=2gl(1−cos⁡θ)v = \sqrt{2gl(1 - \cos\theta)}

    質量 m が消える——落下と同じです。θ = 90° を入れると v = √(2gl) となり、高さ l の自由落下と一致する確認ができます。

  4. Step 4: 張力も出しておく
    T−mg=mv2l⇒T=mg(3−2cos⁡θ)T - mg = \frac{mv^2}{l} \quad\Rightarrow\quad T = mg(3 - 2\cos\theta)

    最低点では円運動の向心力の式も使う。θ = 60° で離せば T = 2mg、水平位置(θ = 90°)から離せば T = 3mg——静かに吊ったとき(T = mg)の 3 倍もの張力がかかります。ただし小振動(θ ≪ 1)では T ≈ mg に戻ることも確認しておきましょう。

ばね振り子:伸びと変位を区別する

上端を固定した質量の無視できるばねに、おもりを取り付けて鉛直方向だけに動かします。空気抵抗を無視し、運動範囲全体でフックの法則が成り立つとします。自然長から下向きの伸びを s、つり合いでの伸びを s0=mg/ks_0 = mg/k、つり合い位置から下向きの変位を x=s−s0x = s-s_0 とおきます。ばね自身の弾性エネルギーは常に $\tfrac{1}{2}ks^2$です。つり合い位置を使って簡単になるのは、重力とばねの位置エネルギーの「和」であり、重力そのものが消えるわけではありません。

座標ばねの弾性エネルギー重力の位置エネルギー両者の和
自然長から下向き s(重力の基準も自然長位置)12ks2\tfrac{1}{2}ks^2−mgs-mgs12ks2−mgs\tfrac{1}{2}ks^2-mgs
つり合いから下向き x(重力の基準もつり合い位置)12k(s0+x)2\tfrac{1}{2}k(s_0+x)^2−mgx-mgx12kx2+12ks02\tfrac{1}{2}kx^2+\tfrac{1}{2}ks_0^2
二つの行は重力の位置エネルギーのゼロ点が異なりますが、差は定数だけで運動には影響しません。つり合い座標では一次の項 (ks0−mg)x(ks_0-mg)x が消えます。定数を省けば 12mv2+12kx2\tfrac{1}{2}mv^2+\tfrac{1}{2}kx^2 が一定。自然長から放す問題では最初に x = −s₀ と読み替えるのがコツです。
例題

ばね定数 k のばねの下端に質量 m のおもりをつけてつり合わせた。おもりをさらに下方に d 離して静かに放したときの最大の速さを求めよ。ばねは全運動範囲でフックの法則に従うものとする。

解答・解説

放した瞬間は x = d、速さ 0。定数項を省いたエネルギー保存は 12mv2+12kx2=12kd2\tfrac{1}{2}mv^2+\tfrac{1}{2}kx^2=\tfrac{1}{2}kd^2。位置エネルギーの和が最小になる x = 0(つり合い位置)で速さ最大だから、12mvmax⁡2=12kd2\tfrac{1}{2}mv_{\max}^2=\tfrac{1}{2}kd^2 より **vmax⁡=dk/mv_{\max}=d\sqrt{k/m}**。自然長を通過するときではない点に注意。

複合問題への応用

複合問題では、どこからどこまでがエネルギー保存区間かを分けます。衝突中に系全体へはたらく外力の力積が無視できる方向では、運動量が保存します。これは「衝突なら無条件に保存」という意味ではありません。衝突後の速度を決めるには、反発係数や「一体になる」などの条件も必要です。完全弾性衝突なら運動エネルギーも保存しますが、非弾性衝突では一般に保存しません。

  • 手順①: 対象とする系・座標・位置エネルギーの基準を決める
  • 手順②: 衝突では外力の力積を確認し、運動量保存と衝突条件を使う
  • 手順③: 抵抗などが仕事をしない区間は K1+U1=K2+U2K_1+U_1=K_2+U_2、抵抗がある区間はその仕事を収支に入れる
  • 手順④: 答えの極限ケース(d → 0 など)で妥当かチェックする
例題:斜面から水平なばねへ

質量 0.50 kg の小物体を、水平面から高さ 0.40 m の滑らかな斜面上で静かに放した。滑らかにつながる水平面で、一端を壁に固定した自然長の軽いばね(k = 100 N/m)を押し縮める。最大縮み量を求めよ(g = 10 m/s²)。摩擦・衝突損失・回転はなく、ばねはフックの法則に従う。

解答・解説

初めと最大圧縮時はともに速さ 0。水平面を高さの基準にすると mgh=12ka2mgh=\tfrac{1}{2}ka^2。したがって a=2mgh/k=0.040=a=\sqrt{2mgh/k}=\sqrt{0.040}= **0.20 m**。途中での速さや時間は求めなくてもよい。斜面上でばねを縮める場合には圧縮中も高さが変わるため、その分の重力の位置エネルギーも含めます。

練習問題
  1. 長さ 0.80 m の単振り子を振れ角 30° まで引き上げて静かに放した。最低点の通過時の速さを求めよ(g = 9.8 m/s²)。

    ヒント

    v=2gl(1−cos⁡θ)v = \sqrt{2gl(1-\cos\theta)}、cos 30° ≈ 0.866

    解答・解説

    v=2×9.8×0.80×(1−0.866)=2.10≈v = \sqrt{2 \times 9.8 \times 0.80 \times (1 - 0.866)} = \sqrt{2.10} \approx **1.45 m/s**。

  2. 長さ l の単振り子のおもりを振れ角 60° まで引き上げて静かに放した。最低点における糸の張力は、おもりを鉛直方向に静止して吊ったときの何倍か。

    ヒント

    最低点の張力は T=mg(3−2cos⁡θ)T = mg(3 - 2\cos\theta)、静止して吊ったときは T0=mgT_0 = mg

    解答・解説

    cos⁡60°=0.5\cos 60° = 0.5 より T=mg(3−1)=2mgT = mg(3 - 1) = 2mg。静止時 T0=mgT_0 = mg との比は **2 倍**(水平位置から離すと T=3mgT = 3mg で 3 倍になる)。

  3. ばね定数 200 N/m のばねの下端に質量 0.50 kg のおもりをつけ、つり合い位置からさらに 0.010 m 下げて静かに放した。おもりの最大の速さを求めよ(g = 10 m/s²)。

    ヒント

    最大速度はつり合い位置。ω=k/m\omega = \sqrt{k/m}

    解答・解説

    vmax⁡=dk/m=0.010×200/0.50=0.010×20=v_{\max} = d\sqrt{k/m} = 0.010 \times \sqrt{200/0.50} = 0.010 \times 20 = **0.20 m/s**。つり合いの伸びは s0=mg/k=0.025s_0=mg/k=0.025 m なので、最も上でも伸びは 0.025−0.010=0.0150.025-0.010=0.015 m。運動中ずっと伸びた状態であり、引く力だけを出すばねとしても扱えます。

  4. 下端を固定し、鉛直方向にだけ縮むよう案内した軽いばね(k = 100 N/m)が自然長にある。質量 0.10 kg の球を、その上端の真上 0.20 m から静かに落とした。最大縮み量を求めよ(g = 10 m/s²)。空気抵抗・摩擦・接触時のエネルギー損失はなく、球は圧縮中ばねから離れず、ばねはフックの法則に従う。

    ヒント

    いちばん下まで沈んだ瞬間は速さ 0。初めと最後の 2 状態だけでエネルギー保存を立てる

    解答・解説

    縮み量を x とすると、球は 0.20+x0.20 + x だけ降りるので mg(0.20+x)=12kx2mg(0.20 + x) = \tfrac{1}{2}kx^2。1.0(0.20+x)=50x21.0(0.20 + x) = 50x^2 より 50x2−x−0.2=050x^2 - x - 0.2 = 0、解の公式から x=1+41100≈x = \dfrac{1 + \sqrt{41}}{100} \approx **0.074 m(約 7.4 cm)**(負の解は棄却)。

確認クイズ(エネルギー保存の応用)

問1. 単振り子の糸の張力が仕事をしない理由は?

問2. ばねにおもりをつる系の振動を扱うとき、位置エネルギーの基準はどこが便利か。

問3. 最下点の振り子のおもりが別の小球と水平に正面衝突する。衝突中の外力の水平力積が無視でき、完全弾性衝突のとき、両者の衝突後の水平速度を求めるために使う組合せは?

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