細胞とDNA(遺伝情報)

細胞分裂、DNAの構造とタンパク質合成、減数分裂と遺伝の基本。

この単元の目標
  • 体細胞分裂と減数分裂の染色体数の変化を区別できる
  • DNA の相補性と転写・翻訳の役割を説明できる
  • 塩基の割合や染色体数について根拠を示して答えられる
📑 目次
  1. なぜ同じ DNA をもつ細胞が違う働きをするのか
  2. 分裂で追うのは細胞数・染色体数・DNA 量
  3. 細胞と細胞分裂
  4. DNAからタンパク質へ

なぜ同じ DNA をもつ細胞が違う働きをするのか

筋肉の細胞と神経の細胞では、形も仕事も違います。これは通常、持つ遺伝情報の大部分が違うからではなく、使う遺伝子の組み合わせや使う程度が違うためです。同じ料理本を持っていても、開くページが違えばできる料理が違う、という比喩で考えられます。DNA は情報の保存を担い、その情報をもとにつくられるタンパク質などが、細胞の構造や働きに関わります。

用語関係を整理する説明比喩の手がかり
DNA塩基配列として遺伝情報を保持する分子文字が並ぶ長い記録
遺伝子機能をもつ RNA やタンパク質の産生に関わる DNA の領域利用する情報のまとまり
染色体DNA とタンパク質からなる構造。分裂時に凝縮して見えやすくなる記録を整理したまとまり

遺伝子の情報が RNA やタンパク質として利用されることを遺伝子発現といいます。真核細胞では核が DNA の多くを保持し、リボソームが翻訳を担います。ミトコンドリアにも独自の DNA があり、植物などの葉緑体にもあります。原核細胞には膜で囲まれた核がありませんが DNA とリボソームはあります。「核がない」ことと「遺伝情報がない」ことは同じではありません。

分裂で追うのは細胞数・染色体数・DNA 量

資料を読むときは、まず「1 細胞あたり」か「全細胞の合計」かに線を引きましょう。DNA 量を C という相対単位で表し、複製していない半数体の核の量を 1C とします。通常の二倍体では複製前が 2C、複製後が 4C。体細胞分裂後の娘細胞は各 2C です。減数分裂では第 1 分裂で相同染色体が分かれて各 n・2C、第 2 分裂で姉妹染色分体が分かれて各 n・1C になります。ここでは核の DNA を数えます。

相同染色体は父由来と母由来が対になったもので、対応する遺伝子をもちますが、配列が完全に同じとは限りません。姉妹染色分体は 1 本の染色体を複製してできたものです。また「すべての細胞に核がある」は誤りで、成熟したヒトの赤血球には核がありません。料理本の比喩も、すべての遺伝子が必ずタンパク質になるという意味ではありません。
例題:減数分裂の資料を二つの量で読む

ある動物は 2n = 6。本例では DNA 複製前の二倍体の核 DNA 量を 2C とする。減数第 1 分裂が終わった各細胞、および第 2 分裂が終わった各細胞の染色体数と核 DNA 量を答えよ。

解答・解説

第 1 分裂後は相同染色体が分かれ、**3 本・2C**。各染色体はまだ姉妹染色分体 2 本からなる。第 2 分裂後は姉妹染色分体が分かれて各細胞へ渡り、**3 本・1C**。染色体数はどちらも n = 3 だが、1 細胞あたりの DNA 量は違う。

例題:遺伝子発現の架空データを読む

同じ個体の通常の体細胞 A と B を比較した。架空の測定表では、ある遺伝子 X の DNA は両者に存在し、対応する mRNA の相対量は A で 80、B で 2 だった。「B には遺伝子 X がない」といえるか。

解答・解説

**いえない**。DNA は両者に存在するという資料がある。mRNA の量は A が B の 80 ÷ 2 = **40 倍**で、この測定では RNA の蓄積量に違いがあると読める。転写量だけでなく RNA の分解にも影響されるため、mRNA 量だけからタンパク質量も必ず 40 倍とは断定できない。

追加練習:細胞の情報と量の区別
  1. 2n = 10 の細胞で、DNA 複製直後・体細胞分裂前の染色体数と DNA 量を答えよ。複製前は 2C とする。

    解答・解説

    **10 本・4C**。姉妹染色分体は増えるが、分離前の各組を 1 本の染色体と数える。

  2. 1 個の細胞が体細胞分裂を 3 回繰り返し、毎回すべての娘細胞が分裂し、死ぬ細胞がないとする。細胞数と、各娘細胞の染色体数はどうなるか。

    解答・解説

    細胞数は 1 → 2 → 4 → **8 個**。正常な分裂では各娘細胞の染色体数は元と同じ。細胞数の増加と染色体数の増加を混同しない。

  3. 「膜で囲まれた核がない細胞には DNA もリボソームもない」は正しいか。

    解答・解説

    **誤り**。原核細胞は核膜で囲まれた核をもたないが、DNA をもち、リボソームでタンパク質を合成する。核の有無だけでこれらの有無を判断できない。

確認クイズ:遺伝情報を保存し使う

問1. 通常の筋細胞と神経細胞の働きが違う主な説明はどれか。

問2. 減数第 1 分裂で主に分かれるのはどれか。

問3. mRNA の量だけから必ず断定できるのはどれか。

細胞と細胞分裂

  • 体細胞分裂: 分裂前に DNA を複製し、それを 2 個の娘細胞へ等しく分配する。通常は染色体数と遺伝情報が保たれ、成長・修復に役立つ
  • 減数分裂: DNA を 1 回複製した後に 2 回分裂し、染色体の組数を半分にする。ヒトでは配偶子形成につながる
  • ヒトの核のある通常の体細胞は 2n = 46 本(23 対)、配偶子は n = 23 本。受精によって 23 + 23 = 46 本に戻る

真核細胞では DNA の多くが核内の染色体に含まれます。DNA 量と染色体数は別の量です。DNA 複製後の染色体は同じ情報をもつ 2 本の姉妹染色分体からなりますが、分かれる前はまとめて 1 本と数えます。そのため、複製によって DNA 量は 2 倍になっても、染色体数が直ちに 2 倍になるわけではありません。

DNAからタンパク質へ

DNA→転写mRNA→翻訳タンパク質\text{DNA} \xrightarrow{\text{転写}} \text{mRNA} \xrightarrow{\text{翻訳}} \text{タンパク質}

DNA は A・T・G・C の塩基をもつ 2 本の鎖が相補的に結びついた二重らせんです。タンパク質をつくる遺伝子では、一方の鎖を鋳型に mRNA が合成されます(転写)。mRNA では T の代わりに U を使い、リボソームが 3 塩基ずつのコドンを読み取ってアミノ酸をつなぎます(翻訳)。ただし終止コドンはアミノ酸を指定せず、翻訳の終了を示します。DNA のすべての領域がタンパク質の情報をもつわけではありません。

DNA 二重鎖内では A–T、G–C が対になります。転写では鋳型 DNA の A・T・G・C に対して RNA の U・A・C・G が対応します。配列問題では鋳型鎖かどうかと鎖の向きを必ず確認しましょう。RNA は通常 1 本鎖で、全体で必ず A と U が同数になるわけではありません。
例題

DNA の鋳型鎖の一部分を、転写で読み取る向き(3′→5′)に「ATG CCT」と示した。対応する mRNA を 5′→3′ の向きで答えよ。

解答・解説

鋳型 DNA の A→U、T→A、G→C、C→G と対応させ、**5′-UAC GGA-3′**。もし示されたのが非鋳型鎖の 5′-ATG CCT-3′ なら答えは 5′-AUG CCU-3′ となるため、鎖の指定が不可欠。ここでは短い配列の相補性だけを扱う。

例題:二重鎖 DNA の塩基の割合

二重鎖 DNA 全体で A が全塩基の 20 % を占める。T、G、C の割合をそれぞれ求めよ。

解答・解説

相補性から A と T は同数なので T は 20 %。残る 60 % を G と C が等しく分けるため、G と C はそれぞれ 30 %。この関係は 2 本の鎖を合わせた全体について成り立ち、片方の鎖だけには一般に成り立たない。

練習問題:遺伝情報と分裂
  1. 核のあるヒトの体細胞が DNA を複製し終え、まだ分裂していない。染色体数と DNA 量は、複製前と比べてどうなっているか。

    解答・解説

    染色体数は 46 本のまま、DNA 量は 2 倍。姉妹染色分体が分かれる前なので、各組を 1 本の染色体と数える。分裂後は通常、それぞれの娘細胞に 46 本ずつ分配される。

  2. ある動物の体細胞の染色体数は 2n = 8 本である。正常な配偶子と受精卵の染色体数を答えよ。

    解答・解説

    配偶子は減数分裂により n = 4 本。受精卵は 4 + 4 = 8 本。受精のたびに染色体数が増え続けないのは、配偶子形成時に半減するため。

  3. 二重鎖 DNA 全体で G が 28 % のとき、A は何 % か。また「すべてのコドンがアミノ酸を指定する」は正しいか。

    解答・解説

    C も 28 % なので、A は (100 − 28 − 28) ÷ 2 = 22 %。後半は誤り。終止コドンはアミノ酸を指定せず、翻訳を終了させる。

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