多数決の不思議——投票方式で勝者が逆転する理由
架空候補A・B・Cへの順位を使い、最多得票、二者間多数決、順位点、脱落式の違いを計算します。多数派の循環と集計による逆転を通して、「公平」の基準を分けて考えます。
- 最多得票と過半数を区別し、順位表から二者間の支持人数を数える。
- 個人の順位が矛盾しなくても、多数決の比較が循環する例を説明する。
- 同じ順位表に異なる集計方式を適用して勝者を比較する。
- 数学的反例で示せることと、現実の制度の評価に必要な情報を区別する。
1.「いちばん人気」の意味を決める
サークルで三つの架空企画A・B・Cから一つを選ぶとします。「1位に挙げた人が多い企画」「一対一で比べると強い企画」「全員の順位点の合計が高い企画」は同じとは限りません。本記事の候補、人数、順位はすべて説明用の自作データです。実在の選挙結果や政治的立場についての主張ではありません。
| 方式・用語 | ここで使う定義 |
|---|---|
| 最多得票方式(単純相対多数) | 各人の1位だけを1票として数え、最大の候補を選ぶ。 |
| 過半数 | 対象となる票数の半分を厳密に超えること。ちょうど半分は含まない。 |
| 二者間多数決 | 二つの候補のうち順位が高い方へ各人1票を入れる。 |
| ボルダ得点(3候補版) | 1位2点、2位1点、3位0点の合計を比べる。 |
| 順位による脱落式 | 残る候補中の最上位を集計。過半数がなければ最少票の候補を除き、繰り返す。 |
Nは正の整数の有効票総数、vは整数の得票数です。床記号は小数部分を切り捨てる操作です。たとえば100票なら過半数は51票以上ですが、三候補の最多得票は35票でもあり得ます。人数の単位は人、得票の単位は票、順位点の単位は点であり、点数をそのまま支持人数とは読めません。以下の計算はすべて厳密値です。
2.多数派がぐるりと循環する
| グループ | 人数 | 順位 |
|---|---|---|
| 甲 | 1人 | A > B > C |
| 乙 | 1人 | B > C > A |
| 丙 | 1人 | C > A > B |
上の3人についてA対B、B対C、C対Aを集計しましょう。すべての相手に勝つ候補はいますか。
解答・解説
A対Bは甲・丙がA、乙がBなのでAが2対1で勝ちます。B対Cは甲・乙がB、丙がCなのでBが2対1で勝ちます。C対Aは乙・丙がC、甲がAなのでCが2対1で勝ちます。AがBに勝ち、BがCに勝ち、CがAに勝つ循環があり、全員に勝つ候補はいません。各比較の合計が3票であることも検算できます。
このような循環を多数決のパラドックス(コンドルセのパラドックス)と呼びます。個人の順位はどれも一貫していますが、比較ごとの「多数派」の顔ぶれは同じではありません。だから個人の順位の推移性を、そのまま集団の多数決関係へ移せないのです。全候補との二者間比較で厳密に勝つ候補をコンドルセ勝者と呼びますが、この例では存在しません。
まず二候補を比べ、勝った候補と残りの候補を比べて最終勝者を決めます。最初がA対Bの場合と、B対Cの場合でどう変わりますか。
解答・解説
A対Bを先にするとAが勝ち、最後にCがAに勝つので最終勝者はCです。B対Cを先にするとBが勝ち、最後にAがBに勝つので最終勝者はAです。順位も人数も変わっていません。逐次的な比較は、順序まで含めて規則を明示しないと結果が定まりません。これは前節の「最少票を除く脱落式」とは別の方式です。
3.同じ100人でも集計方法で勝者が違う
| 人数 | 1位 | 2位 | 3位 |
|---|---|---|---|
| 35人 | A | B | C |
| 33人 | B | C | A |
| 32人 | C | B | A |
この100人の最多得票の勝者とコンドルセ勝者を求めましょう。
解答・解説
1位票はAが35、Bが33、Cが32なので最多得票ではAです。ただし過半数ではありません。B対Aでは33+32=65人がBを上に置き、Bが65対35で勝ちます。B対Cでは35+33=68人がBを上に置き、Bが68対32で勝ちます。したがってコンドルセ勝者はBです。なおCもAに65対35で勝つので、最多得票のAは一対一ではどちらにも負けます。
🔍 同じ順位表をボルダ得点で集計
- Aの得点
Aは35人の1位で、残りの65人の3位です。
- Bの得点
Bは1位だけでなく2位にも多く入っています。
- Cの得点と総点検算
最大得点はB。全員が合計3点を配るので、総点は300点です。
脱落式でも計算してみましょう。最初はどの候補にも過半数がなく、32票で最少のCを除きます。Cを1位とした32人の残る最上位はBなので、Aは35票、Bは33+32=65票となりBが勝ちます。ここでは順位を固定したまま再集計しており、改めて投票を行い意見が変わる状況とは区別しています。
4.順位点も万能ではない
別の5人を考えます。3人がA > B > C、2人がB > C > Aです。最多得票、二者間比較、ボルダ得点を調べましょう。
解答・解説
Aは1位票3で5票の過半数です。A対BもA対Cも3対2でAが勝つため、コンドルセ勝者もAです。一方、ボルダ得点はAが3×2=6点、Bが3×1+2×2=7点、Cが2×1=2点なのでBが勝ちます。総点6+7+2=15は5×3と一致します。順位点は2位の評価も加えるため、過半数が1位とした候補を必ず選ぶとは限りません。
2点・1点・0点という配点は集計上の約束です。順位だけから「1位と2位の好みの差が、2位と3位の差と等しい」と測定できたわけではありません。最多得票は1位の支持を簡単に数えられる一方で下位順位を使わず、順位点は全順位を使う一方で配点の影響を受けます。何を重視するかを示してから比較するのが公平です。
5.反例をどこまで読めるか
- 例題1は「各人の順位が一貫していれば、多数決にも必ず循環のない順位ができる」という主張への反例です。循環がいつでも起こるという意味ではありません。
- 例題2・3は方式間の不一致を示します。不一致が起こる頻度や、どの方式が社会に最適かは、この架空データだけでは分かりません。
- 現実の制度には代表性、少数意見の扱い、説明の容易さ、同票や棄権への対応など、ここで測っていない論点があります。数学の一例で制度全体の優劣は決められません。
- 集計の前に候補、投票資格、順位の記入規則、配点、脱落条件、同票処理を公開しておくと、結果の意味を確かめやすくなります。
7票の過半数は何票以上ですか。得票がA=3、B=2、C=2なら、Aについて何がいえますか。
解答・解説
過半数は7÷2=3.5を超える4票以上。Aは単独の最多得票ですが、3票なので過半数ではありません。
2人がA > B > C、2人がB > C > A、1人がC > A > Bです。A対B、B対C、C対Aの票数を求めましょう。
解答・解説
A対BはAが2+1=3票、Bが2票。B対CはBが2+2=4票、Cが1票。C対AはCが2+1=3票、Aが2票。A→B→C→Aと勝敗が循環します。どの比較も計5票です。
例題3のボルダ得点を、全順位に1点ずつ足した3点・2点・1点で集計するとどうなりますか。
解答・解説
Aは3×3+2×1=11点、Bは3×2+2×3=12点、Cは3×1+2×2=7点。勝者は引き続きBです。全員が全候補を順位付けしているので、各候補に5点ずつ同じだけ加わり、順位は変わりません。
6人がA > B > C、5人がB > A > C、2人がC > B > Aです。最多得票の勝者は誰ですか。Cを候補から外し、全13人の残る順位で再集計するとどうなりますか。
解答・解説
三候補ではA=6、B=5、C=2なのでAです。Cを外すと最後の2人はBを選び、A=6、B=7でBに変わります。AとBの相対順位を誰も変えなくても、1位票の集計結果は候補集合によって変わり得ます。C支持の2人を集計から除外してはいけません。
問1. 100票でA=40、B=35、C=25のとき、Aについて正しい説明は?
問2. AがBに、BがCに、それぞれ二者間多数決で勝ったとき、必ずいえることは?
問3. 3候補に全10人が2点・1点・0点を配るとき、全候補の得点合計は?
問4. 例題2で最多得票と脱落式の勝者が異なることから、直接分かるのは?