速度式とアレニウスの式
熱力学は「進むかどうか」、速度論は「どれだけ速いか」を扱う。実験データから次数と活性化エネルギーを読む。
- 初期速度の比から反応次数を決められる
- 一次反応の積分速度式と半減期を導き、濃度を計算できる
- アレニウスの式で活性化エネルギーを求められる
平衡と速度は別物
常圧・室温でダイヤモンドから黒鉛への変換は熱力学的には有利ですが、活性化障壁が高く、日常の時間尺度ではほぼ進みません。「永遠に起こらない」のではなく、速さが極端に小さいのです。熱力学は行き先、速度論は速さを扱います。
反応次数は実験で決める
温度を固定した初期速度法では、[B] を一定にして [A] を2倍にすると速度は 2ᵐ 倍になります。全反応次数は m+n。総括反応式の係数から次数は一般に決められません。ただし、素反応では質量作用則によって反応物の係数と対応します。濃度を mol/L、時間を s で表すと、全次数 r の k の単位は (mol/L)^(1−r) s⁻¹ です。
🔍 一次反応の積分速度式と半減期
- 微分速度式を変数分離
一定温度で k は一定、逆反応や競争反応は無視できるとする。
- 初期条件 [A](0) = [A]₀ を用いて積分
対数の中は同じ単位の濃度の比で、無次元になる。
- 濃度と半減期を求める
[A]t/[A]₀ = 1/2 を代入すると半減期が得られる。一次反応では初期濃度に依存しない。
アレニウス式:温度依存性の近似モデル
A は頻度因子(反応物 A の濃度 [A] とは別の記号)、Eₐ はモルあたりの活性化エネルギーです。高エネルギー状態ほど熱平衡での重みが小さいというボルツマン因子が、指数関数形の直感を与えます。ただし「障壁以上の運動エネルギーをもつ分子の割合 = exp(−Eₐ/RT)」という厳密な等式ではありません。分布の状態密度や衝突の向きも効き、測定される Eₐ が単純な運動エネルギーのしきい値とは限りません。
🔍 二つの温度から活性化エネルギーを求める
- 対数をとる
kref は同じ単位の一定の基準値。通常は単位を固定して単に ln k と略記する。ln k 対 1/T の傾きは −Eₐ/R。
- 同じ反応の二つの温度で差をとる
考える温度範囲で A と Eₐ が一定と近似できる場合。温度は K、Eₐ と R のエネルギー単位を揃える。
- Eₐ について解く
T₂ > T₁、k₂ > k₁ なら分子・分母とも正で Eₐ > 0。符号の確認になる。
同じ反応の速度定数が 300 K から 310 K への昇温で2倍になった。R = 8.314 J/(mol·K) として Eₐ を概算せよ。
解答・解説
1/300 − 1/310 = 1.0753×10⁻⁴ K⁻¹。Eₐ = 8.314×ln 2/(1.0753×10⁻⁴) = 5.36×10⁴ J/mol = **53.6 kJ/mol**。反応速度そのものを比較するなら濃度も同一にする必要がある。「10℃で2倍」は普遍則ではなく、反応と温度域に依存する経験的な目安。
一定温度で v = k[A]ᵐ[B]ⁿ とする。[B] 固定で [A] を2倍にすると速度は4倍、[A] 固定で [B] を3倍にすると速度は3倍になった。m、n、全次数と k の単位を求めよ。
解答・解説
2ᵐ = 4 より m = 2、3ⁿ = 3 より n = 1。全次数は3。v の単位が mol L⁻¹ s⁻¹ なら k の単位は (mol L⁻¹ s⁻¹)/(mol L⁻¹)³ = **L² mol⁻² s⁻¹**。
一次反応 A → 生成物の k = 0.0200 s⁻¹、[A]₀ = 0.100 mol/L。50.0 s 後の濃度と半減期を求めよ。
解答・解説
[A] = 0.100 exp(−0.0200×50.0) = **0.0368 mol/L**。半減期は ln 2/0.0200 = **34.7 s**。指数 kt は無次元になる。
一次反応で反応物の90%が消費される時間は半減期の何倍か。
ヒント
残存率は0.90ではなく0.10。
解答・解説
0.10 = exp(−kt) より t = ln 10/k。t/t₁/₂ = ln 10/ln 2 = **約3.32倍**。濃度は直線的には減らないため、半減期の1.8倍ではない。
300 K での k₁ に対して 330 K で k₂ = 4k₁ だった。A、Eₐ 一定として Eₐ を求めよ。R = 8.314 J/(mol·K)。
解答・解説
Eₐ = 8.314 ln 4/(1/300 − 1/330) = 3.80×10⁴ J/mol = **38.0 kJ/mol**。温度差30 Kそのものではなく、逆温度の差を使う。