確率密度の変数変換:確率保存からヤコビアンへ

変換で保存されるのは密度の高さでなく区間の確率。分布関数法から単調変換を導き、非単調な二乗変換の枝と台、二変数のヤコビアンまでつなぐ。

この単元の目標
  • 区間の確率保存から逆関数の微分の絶対値が必要な理由を説明できる
  • 増加・減少変換の分布関数を元の確率変数の不等式に戻して求められる
  • 非単調変換で有効な逆像をすべて数え、区間ごとに密度と台を定められる
  • 二変数の密度変換で逆変換のヤコビアンと変換後の領域を確認できる
📑 目次
  1. 1.目盛りを変えても、入っている確率は変わらない
  2. 2.単調な変換:密度は逆関数の傾きで調整する
  3. 3.台を先に描く:二乗では二つの道から確率が集まる
  4. 4.二変数では区間の伸びが面積の伸びになる
  5. 5.解く順番を固定する

1.目盛りを変えても、入っている確率は変わらない

同じ棒の長さをメートルからセンチメートルに直すと、数値の区間幅は100倍になります。しかし「その長さがある範囲に入る確率」まで100倍にはなりません。同じ確率を広い横幅に配るため、密度の高さは100分の1になります。この面積の保存が変数変換の出発点です。

連続確率変数 XX が密度 fXf_X をもつとは、区間の確率が P(a<X<b)=∫abfX(x) dxP(a<X<b)=\int_a^b f_X(x)\,dx で表せることです。密度そのものは確率ではありません。XX の単位がメートルなら密度の単位は毎メートルで、密度と区間幅の積は無次元です。以下の計算例の変数は特記しない限り無次元とします。

Y=g(X),P(Y∈A)=P(X∈g−1(A))=∫{x:g(x)∈A}fX(x) dxY=g(X),\qquad P(Y\in A)=P(X\in g^{-1}(A))=\int_{\{x:g(x)\in A\}}f_X(x)\,dx
ここで g−1(A)g^{-1}(A) は集合 AA に移る元の点すべて(逆像)です。gg が一対一でなくても定義できます。まず「どの xx がその yy の範囲に来るか」を考えれば、公式を暗記せずに確率を求められます。

2.単調な変換:密度は逆関数の傾きで調整する

XX の値域の区間で gg が連続微分可能かつ狭義単調、内部で g′(x)≠0g'(x)\ne0 とします。逆関数を x=h(y)x=h(y) とおくと、幅 Δy\Delta y の小区間の元の幅は約 ∣h′(y)∣Δy|h'(y)|\Delta y です。小区間では密度をほぼ一定とみなせるので、fY(y)Δy≈fX(h(y))∣h′(y)∣Δyf_Y(y)\Delta y\approx f_X(h(y))|h'(y)|\Delta y。これは微小幅の直感であり、次の分布関数の微分で厳密な式を得ます。

🔍 分布関数を先に書き、不等号の向きを追う

  1. 増加する場合
    FY(y)=P(g(X)≤y)=P(X≤h(y))=FX(h(y))F_Y(y)=P(g(X)\le y)=P(X\le h(y))=F_X(h(y))

    変換後の区間の内部で考える。

  2. 減少する場合
    FY(y)=P(X≥h(y))=1−FX(h(y))F_Y(y)=P(X\ge h(y))=1-F_X(h(y))

    X は密度をもつため一点の確率は0。不等号が反転する。

  3. 微分すると共通の形になる
    fY(y)=fX(h(y))∣h′(y)∣=fX(h(y))∣g′(h(y))∣f_Y(y)=f_X(h(y))|h'(y)|=\frac{f_X(h(y))}{|g'(h(y))|}

    減少の場合は −h′(y)>0。微分が成立する点、一般にはほとんど至る所での密度の式。

fY(y)=fX(y)f_Y(y)=f_X(y) と置いたり、順方向の ∣g′(x)∣|g'(x)| を掛けたりしないこと。横幅が伸びるほど密度は薄くなります。逆関数の傾きの単位は「Xの単位/Yの単位」なので、fX×∣h′∣f_X\times|h'| は正しく「Yの単位の逆数」になります。
例題1:一様な目盛りを3倍に伸ばす

XX は区間 [0,2][0,2] の一様分布。Y=3X+1Y=3X+1 の密度と P(2<Y<5)P(2<Y<5) を求めよう。

解答・解説

まず値域は [1,7][1,7]。逆変換は x=(y−1)/3x=(y-1)/3、その微分は 1/31/3。元の密度は 1/21/2 だから、1<y<71<y<7 で fY(y)=1/6f_Y(y)=1/6、その外で0とできる。確率は (5−2)/6=1/2(5-2)/6=1/2。元に戻しても 2<3X+1<52<3X+1<5 は 1/3<X<4/31/3<X<4/3 であり、区間長1を全長2で割って 1/21/2。全確率も (7−1)/6=1(7-1)/6=1 になる。

例題2:減少する非線形変換を分布関数で解く

fX(x)=2xf_X(x)=2x(0<x<10<x<1、その外で0)とする。Y=1−X2Y=1-X^2 の分布関数と密度を求めよう。

解答・解説

値域は 0<Y<10<Y<1。0<y<10<y<1 なら 1−X2≤y1-X^2\le y は X≥1−yX\ge\sqrt{1-y}。よって FY(y)=∫1−y12x dx=yF_Y(y)=\int_{\sqrt{1-y}}^1 2x\,dx=y。y≤0y\le0 では0、y≥1y\ge1 では1なので、YY は [0,1][0,1] の一様分布。逆関数法でも 21−y×1/(21−y)=12\sqrt{1-y}\times 1/(2\sqrt{1-y})=1。端点で逆関数の微分が発散しても、内部で求めた密度で全確率を表せる。

3.台を先に描く:二乗では二つの道から確率が集まる

この授業でいう台は、確率が分布している範囲を端まで含めたものです。厳密には、その点のどんな小さな近傍にも正の確率がある点の集合です。密度の式と台はセットで書きます。Y=X2Y=X^2 なら y<0y<0 には何も来ず、正の yy には x=yx=\sqrt y と x=−yx=-\sqrt y の二つの候補があります。ただし元の台にない候補は足してはいけません。

有限個の区間に分けると gg がそれぞれ単調で、各枝の内部で g′g' が0でなく、枝の境界に確率が集中しない場合を考えます。異なる枝の元の小区間は重ならないため、それぞれから来る確率を足せます。これが非単調変換の密度の和です。

fY(y)=∑i: xi(y) が有効な枝上fX(xi(y))∣g′(xi(y))∣,g(xi(y))=yf_Y(y)=\sum_{i:\,x_i(y)\text{ が有効な枝上}}\frac{f_X(x_i(y))}{|g'(x_i(y))|},\qquad g(x_i(y))=y
この式は枝の内部の通常の点で使います。折り返し点で g′=0g'=0 なら分布関数に戻って端の挙動を確認します。また、正の確率をもつ区間全体を一つの値に潰す変換では、その値に点の確率が生まれ、通常の密度だけでは表せません。例えば一様な X∈[−1,1]X\in[-1,1] を Y=max⁡(X,0)Y=\max(X,0) とすると P(Y=0)=1/2P(Y=0)=1/2 です。
例題3:左右非対称な一様分布を二乗する

XX は [−1,2][-1,2] の一様分布、つまり元の密度は 1/31/3。Y=X2Y=X^2 の分布関数・密度と P(Y≤1)P(Y\le1) を求めよう。まず y=1/4y=1/4 と y=9/4y=9/4 に来る元の点を挙げてみよう。

解答・解説

y=1/4y=1/4 には x=±1/2x=\pm1/2 の両方が来るが、y=9/4y=9/4 には x=3/2x=3/2 しか来ない(−3/2-3/2 は台の外)。0<y<10<y<1 なら −y≤X≤y-\sqrt y\le X\le\sqrt y の長さは 2y2\sqrt y。1≤y<41\le y<4 なら元の区間は [−1,y][-1,\sqrt y] で長さ 1+y1+\sqrt y。これらを全長3で割ると下の分布関数になる。したがって P(Y≤1)=2/3P(Y\le1)=2/3。

FY(y)={0y≤0,2y30<y<1,1+y31≤y<4,1y≥4,fY(y)={13y0<y<1,16y1<y<4,0それ以外.F_Y(y)=\begin{cases}0&y\le0,\\ \dfrac{2\sqrt y}{3}&0<y<1,\\ \dfrac{1+\sqrt y}{3}&1\le y<4,\\ 1&y\ge4,\end{cases}\qquad f_Y(y)=\begin{cases}\dfrac{1}{3\sqrt y}&0<y<1,\\ \dfrac{1}{6\sqrt y}&1<y<4,\\ 0&\text{それ以外}.\end{cases}

🔍 密度を枝の和と面積で検算する

  1. 0と1の間は二つの枝
    1/32y+1/32y=13y\frac{1/3}{2\sqrt y}+\frac{1/3}{2\sqrt y}=\frac{1}{3\sqrt y}
  2. 1と4の間は正の枝だけ
    1/32y=16y\frac{1/3}{2\sqrt y}=\frac{1}{6\sqrt y}
  3. 合計の確率は1
    ∫01dy3y+∫14dy6y=23+13=1\int_0^1\frac{dy}{3\sqrt y}+\int_1^4\frac{dy}{6\sqrt y}=\frac23+\frac13=1

    0での積分は広義積分として極限を取る。

密度が y→0+y\to0+ で無限に高くなっても、P(Y=0)P(Y=0) が正になるわけではありません。この例では P(Y≤ε)=2ε/3→0P(Y\le\varepsilon)=2\sqrt\varepsilon/3\to0 です。また y=0,1,4y=0,1,4 という有限個の点で密度にどんな非負の値を指定しても積分は変わらないので、上では便宜上0としました。台はそのまま [0,4][0,4] です。

4.二変数では区間の伸びが面積の伸びになる

紙の小さな四角を引き伸ばすと、同じ確率が別の面積に広がります。二次元ではその面積倍率を行列式で表します。一対一の連続微分可能な変換 (u,v)=T(x,z)(u,v)=T(x,z) に、連続微分可能な逆変換 (x,z)=H(u,v)(x,z)=H(u,v) があり、内部で行列式が0でないなら、密度には逆変換の面積倍率を掛けます。これが一次元の ∣dx/dy∣|dx/dy| の拡張です。

fU,V(u,v)=fX,Z(H(u,v))∣det⁡∂(x,z)∂(u,v)∣f_{U,V}(u,v)=f_{X,Z}(H(u,v))\left|\det\frac{\partial(x,z)}{\partial(u,v)}\right|
例題4:足し算と引き算で正方形はどこへ行くか

X,ZX,Z は独立に [0,1][0,1] の一様分布とする。U=X+Z, V=X−ZU=X+Z,\ V=X-Z の同時密度を求めよう。

解答・解説

元の単位正方形内の同時密度は1。逆変換は x=(u+v)/2, z=(u−v)/2x=(u+v)/2,\ z=(u-v)/2 なので逆ヤコビアンの絶対値は ∣(−1/4)−(1/4)∣=1/2|(-1/4)-(1/4)|=1/2。ただし領域は 0<u+v<20<u+v<2 かつ 0<u−v<20<u-v<2 のひし形の内部であり、そこで密度 1/21/2、外では0とする。ひし形の頂点は (0,0),(1,1),(2,0),(1,−1)(0,0),(1,1),(2,0),(1,-1)、面積は 2×2/2=22\times2/2=2。密度と面積の積は1。0<u<2,−1<v<10<u<2,-1<v<1 の長方形全体に広げてはいけない。

5.解く順番を固定する

  1. 元の密度が0でない範囲と、変換後の台を先に描く。
  2. 単調か、折り返しがあるかを調べる。枝の数は途中で変わり得る。
  3. 迷ったら FY(y)=P(g(X)≤y)F_Y(y)=P(g(X)\le y) を元の不等式へ戻す。範囲ごとの分布関数を作ってから微分する。
  4. 密度が非負か、全積分が1か、特定の区間確率が元の変数でも一致するかを確認する。
練習:答えだけでなく元の区間へ戻して確認
  1. XX は [0,1][0,1] の一様分布。Y=−log⁡XY=-\log X の台、分布関数、密度を求めよ。log⁡\log は自然対数とする。

    ヒント

    変換は減少。X=0は確率0なので定義域から除いてよい。

    解答・解説

    台は [0,∞)[0,\infty)。y≥0y\ge0 なら −log⁡X≤y-\log X\le y は X≥e−yX\ge e^{-y} なので FY(y)=1−e−yF_Y(y)=1-e^{-y}。y<0y<0 では0。密度は y>0y>0 で e−ye^{-y}、外で0とでき、∫0∞e−y dy=1\int_0^\infty e^{-y}\,dy=1。

  2. XX は [−2,1][-2,1] の一様分布。Y=∣X∣Y=|X| の密度と P(Y>1)P(Y>1) を求めよ。

    ヒント

    0<y<1と1<y<2で、有効な元の点の数が違う。

    解答・解説

    台は [0,2][0,2]。0<y<10<y<1 では x=±yx=\pm y の二枝が寄与して密度 2/32/3。1<y<21<y<2 では負の枝だけなので 1/31/3。外で0。P(Y>1)=1/3P(Y>1)=1/3 で、元の事象 X<−1X<-1 の区間長1を全長3で割っても一致する。

  3. XX の密度は 3x23x^2(0<x<10<x<1、外で0)。Y=X3Y=X^3 の密度と P(Y<1/8)P(Y<1/8) を求めよ。

    解答・解説

    0<y<10<y<1 で FY(y)=∫0y1/33x2 dx=yF_Y(y)=\int_0^{y^{1/3}}3x^2\,dx=y。ゆえに密度はこの区間で1、外で0で、台は [0,1][0,1]。P(Y<1/8)=1/8P(Y<1/8)=1/8。元の条件 X<1/2X<1/2 からも (1/2)3=1/8(1/2)^3=1/8。

  4. 例題4で U=X+ZU=X+Z だけの密度を求めよ。

    ヒント

    固定したuに対し、ひし形の縦の切り口の長さを求めて密度1/2を掛ける。

    解答・解説

    0<u<10<u<1 では −u<v<u-u<v<u より fU(u)=uf_U(u)=u。1<u<21<u<2 では u−2<v<2−uu-2<v<2-u より fU(u)=2−uf_U(u)=2-u。外で0とでき、台は [0,2][0,2]。各三角形の面積は 1/21/2、合計1。点 u=1u=1 の値は任意に定めてよい。

確認クイズ:公式を使う前の判断

問1. 単調変換で密度に掛けるものはどれか(逆関数が微分可能な内部で考える)?

問2. XX が [−1,2][-1,2] の一様分布、Y=X2Y=X^2 のとき、y=9/4y=9/4 に寄与する元の点は?

問3. 密度が一点の近くで無限に高くなる場合、必ず正しい説明はどれか?

問4. 例題4の同時密度を1/2にした後、なお必要なことは?

根拠と範囲:ここでの公式は、区間・領域の確率保存、微積分の連鎖律、積分の変数変換から本文中で導いたものです。例題の分布は学習用に設定した厳密な数学モデルで、実測統計ではありません。有限個の単調な枝または滑らかな一対一の二変数変換を扱い、一般の特異な変換まで公式だけで処理することは想定していません。
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