特殊相対性理論入門——時間の遅れ・ローレンツ収縮・E=mc²

光速不変の原理から、運動する時計が遅れ、物が縮み、質量がエネルギーに変わることを導く。

この単元の目標
  • 光速度不変の原理と相対性原理を説明できる
  • ローレンツ因子 γ をピタゴラスの定理的に導き、時間の遅れとローレンツ収縮を計算できる
  • E = mc² の意味を述べ、静止エネルギーを計算できる
📑 目次
  1. 2つの出発点——光速は誰にでも同じ速さ
  2. ローレンツ因子 γ とは
  3. E = mc² ——質量は凝り固まったエネルギー

2つの出発点——光速は誰にでも同じ速さ

アインシュタインの出発点はシンプルな光速度不変の原理です。「真空中の光の速さ cc は、光源や観測者がどう動いていても常に同じ値になる」というものです。これは日常の直感(電車の中で投げたボールは地面から見ると速くなる)と矛盾しますが、マイケルソン=モーリーの実験などがこの原理を支持しました。もう1つの柱は「すべての慣性系で物理法則は同じ形」という相対性原理です。この2つを受け入れると、時間と空間そのものの常識を作り替えざるを得なくなります。

  • 光速度不変の原理: 真空中の光速 c≈3×108 m/sc \approx 3 \times 10^8\ \mathrm{m/s} は慣性系によらない
  • 相対性原理: 物理法則の形はすべての慣性系で同じ
  • 同時性の相対性: 同時に起きた出来事という判断は観測者ごとに異なる

ローレンツ因子 γ とは

相対論の効果はすべて γ(ガンマ) という係数でまとめられます。速度 vv が光速に比べて小さいときは γ≈1\gamma \approx 1 なので日常では効果が見えませんが、vv が cc に近づくと γ\gamma は急激に大きくなります。

γ=11−v2/c2\gamma = \dfrac{1}{\sqrt{1 - v^2/c^2}}
以下では重力の影響を無視し、相対速度 ∣v∣<c|v|<c が一定の慣性系同士を比較します。固有時 Δt0\Delta t_0 は同じ時計の場所で起きる2事象の時間間隔です。固有長 L0L_0 は物体の静止系で測る長さで、動く物体の長さ LL は測定する慣性系で同時刻の両端位置の差として定義します。写真に写る長さとは区別します。

🔍 ローレンツ因子 γ = 1/√(1 − v²/c²) の導出——光の時計の思考実験

  1. Step 1: 光の時計をつくる
    Δt0=2Lc\Delta t_0 = \dfrac{2L}{c}

    距離 LL を往復する光を使った時計を考えます。時計と一緒に動いている人にとっての往復時間(固有時)Δt0Δt_0 はこれです。

  2. Step 2: 横方向に動かして見る
    c2(Δt2)2=L2+v2(Δt2)2c^2 \left(\dfrac{\Delta t}{2}\right)^2 = L^2 + v^2 \left(\dfrac{\Delta t}{2}\right)^2

    速度 vv で動く時計を地上から見ると、光は斜めに進みます。三平方の定理より「斜めの距離² = 高さ² + 横のずれ²」です。

  3. Step 3: 整理する
    (c2−v2)(Δt2)2=L2\left(c^2 - v^2\right)\left(\dfrac{\Delta t}{2}\right)^2 = L^2

    右辺の項を左へ移項してまとめます。

  4. Step 4: 往復時間 Δt を解く
    Δt=2L/c1−v2/c2=γ Δt0\Delta t = \dfrac{2L/c}{\sqrt{1 - v^2/c^2}} = \gamma\, \Delta t_0

    分母に現れたのがまさにローレンツ因子 γ です。

  5. Step 5: 結論——動く時計は遅れる
    ∴γ=11−v2/c2≥1\therefore \gamma = \dfrac{1}{\sqrt{1 - v^2/c^2}} \geq 1

    v>0v > 0 なら γ>1\gamma > 1 なので Δt>Δt0Δt > Δt_0。動いている時計の進みは、それを見る人の間で遅れて進みます(時間の遅れ)。

現象公式意味
時間の遅れΔt=γΔt0\Delta t = \gamma \Delta t_0動く時計は遅れて進む
ローレンツ収縮L=L0γL = \dfrac{L_0}{\gamma}進行方向の長さが縮んで見える
質量とエネルギーE=γmc2E = \gamma m c^2静止質量 mm もエネルギーをもつ
ニュートン極限v≪c⇒γ≈1v \ll c \Rightarrow \gamma \approx 1低速では古典力学に戻る

E = mc² ——質量は凝り固まったエネルギー

相対論では、静止した物体も mc2mc^2 という膨大な静止エネルギーを持つことが帰結します。太陽が輝くのは水素の核融合で質量の一部がエネルギーに変換されるためで、原子力発電も同じ式に従います。逆に言えば、エネルギーを持つ系はわずかに重くなります(バネ圧縮すると重くなる)。

E0=mc2,E=γmc2E_0 = mc^2, \qquad E = \gamma mc^2
例題

v=0.6cv = 0.6c で飛ぶ宇宙船がある。(1) ローレンツ因子 γ を求めよ。(2) 地上の人から見て宇宙船内の 1 秒(固有時)は何秒に見えるか。(3) 静止長 100 m の宇宙船の長さは何 m に見えるか。

解答・解説

(1) γ=1/1−0.36=1/0.64=\gamma = 1/\sqrt{1 - 0.36} = 1/\sqrt{0.64} = **1.251.25** (2) Δt=1.25×1=Δt = 1.25 \times 1 = **1.251.25 秒** (3) 100/1.25=100/1.25 = **8080 m**

収縮するのは進行方向だけです。横方向の長さは変わりません。また「見える」には光の伝播遅延(テレル回転)が加わるため、実際の写真では回転したように写ります。ここで扱うのは測定値としてのローレンツ収縮です。
練習問題
  1. v=0.8cv = 0.8c のときのローレンツ因子 γ を求めよ。

    ヒント

    1−0.82=0.361 - 0.8^2 = 0.36。

    解答・解説

    γ=1/0.36=\gamma = 1/\sqrt{0.36} = **5/3≈1.675/3 \approx 1.67**

  2. γ=2\gamma = 2 で飛ぶミューオンの固有寿命は 2.2 μs2.2\ \mathrm{\mu s}。地上から見た寿命を求めよ。

    解答・解説

    Δt=2×2.2=Δt = 2 \times 2.2 = **4.4 μs4.4\ \mathrm{\mu s}**

  3. 静止質量 1 kg1\ \mathrm{kg} の物体の静止エネルギーを求めよ。c=3×108 m/sc = 3 \times 10^8\ \mathrm{m/s}。

    ヒント

    E0=mc2E_0 = mc^2。

    解答・解説

    E0=1×(3×108)2=E_0 = 1 \times (3 \times 10^8)^2 = **9×1016 J9 \times 10^{16}\ \mathrm{J}**(約 25 TWh 分のエネルギー)

  4. v→cv \to c に近づけるとき、γ と必要なエネルギーはどうなるか述べよ。

    解答・解説

    γ→∞\gamma \to \infty となり、加速に必要なエネルギーも無限大になるため、**質量をもつ物体は光速に到達できない**

確認クイズ(相対論)

問1. 光速度不変の原理が主張することはどれか。

問2. 速度 v で動く物体の進行方向の長さはどう見えるか。

問3. v=0.6cv = 0.6c のとき γ の値はいくらか。

📝 メモこの端末のみに保存
メモ欄はページ読み込み後に使えるようになります。