相対論的力学——運動量・エネルギー・速度の加法定理
運動量の保存則を守り抜くために p = γmv と E = γmc² を導き、速度の加法定理と E² = (pc)² + (mc²)² を手に入れる。陽電子消滅で質量とエネルギーの等価性を定量的に確認する。
- 相対論的運動量 p = γmv と全エネルギー E = γmc² を使って高速粒子の運動を計算できる
- ローレンツ変換から速度の加法定理を導出し、いかなる慣性系でも速さが c を超えないことを説明できる
- E² = (pc)² + (mc²)² を用いて、光子を含むエネルギーと運動量の換算ができる
- 陽電子消滅を例に、質量とエネルギーの等価性を数値で扱える
📑 目次
ニュートン力学はどこで破綻するか
ニュートン力学では運動量 があらゆる衝突で保存すると信じてきました。ところが加速器で電子を 付近まで加速しても、その速さは光速 を一切超えません。 が文字通り成立するなら、力をかけ続けるだけで を突破できるはずであり、これは実験事実と明確に矛盾します。相対論の選択は「保存則として運動量の保存を守り、式のほうを作り直す」ことでした。すべての慣性系で運動量保存が成立し続けるように の係数を作り直すと、そのとき現れる補正係数こそ、時間の遅れでも登場したローレンツ因子 です。
相対論的運動量とエネルギー
相対論では運動量とエネルギーは次のように再定義されます。ここで は静止質量(その粒子が持つ固有の質量)、 は観測者から見た速さです。速い粒子ほど が大きくなり、エネルギーは際限なく増やせますが、速度だけは に漸近して止まります。
🔍 自由粒子の相対論的作用から運動量を導く
- Step 1: 固有時を使って作用を組み立てる
質量 m > 0 の自由粒子を考えます。固有時はローレンツ不変です。係数 −mc² は低速で通常の運動エネルギーの項が得られるよう選びます。保存則だけから係数を推測するのではありません。
- Step 2: 座標時刻に対するラグランジアン
位置に陽に依存しないので、解析力学で学んだ並進対称性から正準運動量が保存します。
- Step 3: 速度で微分して運動量を得る
これで運動量と全エネルギーが同じ L から得られます。相互作用があれば場も含めた孤立系全体のエネルギー・運動量を保存量として扱います。
- Step 4: 低速極限でニュートン力学に戻ることを確認
日常の速度では なので古典式に一致します。良い理論は旧理論を含んでいなければなりません。
- Step 5: 運動量保存が破れない限り、速度は c で頭打ち
をどれだけ大きく(=エネルギーを注ぎ込み)ても は に漸近するだけで超えられません。加速器の実験事実と完全に合致します。
E² = (pc)² + (mc²)² ——エネルギーと運動量の「三平方」
運動量とエネルギーの間には、ピタゴラスの定理のような関係が成り立ちます。この式の最大の魅力は光子の扱いです。光子は静止質量 ながらエネルギーと運動量を持ち、 を代入すると が直ちに出ます。質量のある粒子が静止している場合()は というおなじみの式になります。
🔍 E² = (pc)² + (mc²)² の導出——γ の定義から3行で
- Step 1: γ² に現れる共通分母を用意する
まず の2乗の式をそのまま書き、両辺に を掛けた形も作っておきます。
- Step 2: 恒等式 γ²(1 − v²/c²) = 1 を変形する
両辺に を掛けました。左辺第1項は です。
- Step 3: 左辺第2項を読み替える
の定義を代入するだけです。
- Step 4: 結論
エネルギーの「直角部分」が運動量成分、もう一方が質量成分というきれいな構造。静止()なら 、光子()なら が即座に出ます。
速度の加法定理——慣性系を変えても光速は不変
ニュートン力学では、時速 100 km の電車から時速 100 km のボールを投げれば地面からは 200 km/h に見えます。ところが光速不変の原理では同じ操作が許されません。相対論では速度の足し算が次の式に置き換わり、どんなに速い速度同士を「足しても」決して を超えません。
🔍 加法定理の導出——ローレンツ変換の微分比
- Step 1: ローレンツ変換を書く
速度 で動く慣性系への変換式。時間も座標と一緒に混ざるのが相対論の肝です。
- Step 2: 微分して速度の定義に持ち込む
微小変化に対しては γ は定数扱いできます(系の相対速度は変わらないため)。
- Step 3: 割り算して速度にする
分子・分母を で割ると が現れ、目的の形が出ます。
- Step 4: 光速を代入してみる
光に対してはどの慣性系でも同じ ——光速度不変の原理が自動的に成立します。
- Step 5: c を超えられないことの確認
符号つきの1次元速度なので絶対値で条件を課します。この恒等式の右辺が正であることから |u′| < c が従います。分母が正というだけでは上限速度の証明になりません。
| 量 | 古典 | 相対論 | 備考 |
|---|---|---|---|
| 運動量 | 低速で一致 | ||
| 自由粒子のエネルギー | (ゼロ点を選択) | 相対論では静止エネルギーを含む | |
| 運動エネルギー | 展開すると が復活 | ||
| エネルギー・運動量関係 | 光子では | ||
| 速度の座標変換 | なら |
質量とエネルギーの等価性——陽電子消滅
質量とエネルギーの等価性を示す現象に電子と陽電子の対消滅があります。電子の質量は 。ここでは両粒子の初期運動エネルギーと結合エネルギーを無視し、代表的な2光子消滅を扱います。静止エネルギー が2個の光子に分配されます。逆の対生成も起こりますが、真空中の単独光子から電子・陽電子対だけを作ることはエネルギー・運動量保存に反します。原子核などの反跳相手、またはもう一つの光子が必要です。PET 検査は2光子消滅による γ 線の同時計測を利用します。
🔍 消滅エネルギーと光子の波長を計算する
- Step 1: 静止エネルギー1個分
電子1個分の「値段」です。単位を eV に換算すると約 0.511 MeV になります。
- Step 2: 2光子消滅を選び運動量を保存
2光子チャネルでは同じエネルギーで逆向きになります。1光子だけへの消滅は禁止されますが、運動量保存だけで必ず2個と決まるわけではなく、3個以上の光子への消滅もあります。
- Step 3: エネルギー分配
各光子がちょうど電子1個分の静止エネルギーを受け取ります。
- Step 4: 波長に換算
約 2.4 pm のガンマ線。PET 検出器はこの2本のγ線を同時に捉えて消滅地点を特定します。
太陽の放射パワーは約 である。(1) 1秒あたりに失われる質量を求めよ。(2) 年間では何 kg か概算せよ。
解答・解説
(1) より ****(毎秒約430万トン) (2) これに1年 ≈ s を掛けて約 ** kg**。それでも太陽の総質量 kg に対しては無視できるほど小さい
電子を で加速したときの運動エネルギー を MeV 単位で求めよ。ただし 。
ヒント
なら 。
解答・解説
なので ****
で飛ぶ宇宙船が、前方向に の速さでミサイルを発射した。地上から見たミサイルの速さを求めよ。
ヒント
同じ向きの速度の合成は を使う。
解答・解説
****(単純和の 1.2c にならず、必ず 未満に収まる)
初め静止していた電子・陽電子対が2光子に消滅した。結合エネルギーを無視し、光子の運動量の向きと大きさを保存則から説明せよ。
ヒント
初期の全運動量は 0。
解答・解説
消滅前の全運動量が 0 なので、2個の光子は**同じ大きさ・逆向き**で飛ぶ。各光子の運動量は
静止質量 の粒子を まで加速するにはどれだけのエネルギーが必要か述べよ。
解答・解説
なので 。**有限のエネルギーでは到達不能**
問1. 相対論における運動量の正しい表式はどれか。
問2. 静止質量をもたない光子のエネルギー E と運動量 p の関係はどれか。
問3. 真空中で静止した電子・陽電子の対が光子1個だけに消滅できない理由はどれか。
問4. と を同じ向きに合成した速さはいくらか。