相対論的力学——運動量・エネルギー・速度の加法定理

運動量の保存則を守り抜くために p = γmv と E = γmc² を導き、速度の加法定理と E² = (pc)² + (mc²)² を手に入れる。陽電子消滅で質量とエネルギーの等価性を定量的に確認する。

この単元の目標
  • 相対論的運動量 p = γmv と全エネルギー E = γmc² を使って高速粒子の運動を計算できる
  • ローレンツ変換から速度の加法定理を導出し、いかなる慣性系でも速さが c を超えないことを説明できる
  • E² = (pc)² + (mc²)² を用いて、光子を含むエネルギーと運動量の換算ができる
  • 陽電子消滅を例に、質量とエネルギーの等価性を数値で扱える
📑 目次
  1. ニュートン力学はどこで破綻するか
  2. 相対論的運動量とエネルギー
  3. E² = (pc)² + (mc²)² ——エネルギーと運動量の「三平方」
  4. 速度の加法定理——慣性系を変えても光速は不変
  5. 質量とエネルギーの等価性——陽電子消滅

ニュートン力学はどこで破綻するか

ニュートン力学では運動量 p=mvp = mv があらゆる衝突で保存すると信じてきました。ところが加速器で電子を v=0.9999999cv = 0.9999999c 付近まで加速しても、その速さは光速 cc を一切超えません。F=maF = ma が文字通り成立するなら、力をかけ続けるだけで cc を突破できるはずであり、これは実験事実と明確に矛盾します。相対論の選択は「保存則として運動量の保存を守り、式のほうを作り直す」ことでした。すべての慣性系で運動量保存が成立し続けるように mvmv の係数を作り直すと、そのとき現れる補正係数こそ、時間の遅れでも登場したローレンツ因子 γ\gamma です。

相対論的運動量とエネルギー

相対論では運動量とエネルギーは次のように再定義されます。ここで mm は静止質量(その粒子が持つ固有の質量)、vv は観測者から見た速さです。速い粒子ほど γ\gamma が大きくなり、エネルギーは際限なく増やせますが、速度だけは cc に漸近して止まります。

p=γmv,E=γmc2=p2c2+m2c4p = \gamma m v, \qquad E = \gamma m c^2 = \sqrt{p^2 c^2 + m^2 c^4}

🔍 自由粒子の相対論的作用から運動量を導く

  1. Step 1: 固有時を使って作用を組み立てる
    S=−mc2∫dτ,dτ=dt1−v2/c2S=-mc^2\int d\tau,\qquad d\tau=dt\sqrt{1-v^2/c^2}

    質量 m > 0 の自由粒子を考えます。固有時はローレンツ不変です。係数 −mc² は低速で通常の運動エネルギーの項が得られるよう選びます。保存則だけから係数を推測するのではありません。

  2. Step 2: 座標時刻に対するラグランジアン
    L=−mc21−v2/c2L=-mc^2\sqrt{1-v^2/c^2}

    位置に陽に依存しないので、解析力学で学んだ並進対称性から正準運動量が保存します。

  3. Step 3: 速度で微分して運動量を得る
    pi=∂L∂vi=mvi1−v2/c2=γmvi,E=p⃗⋅v⃗−L=γmc2p_i=\frac{\partial L}{\partial v_i}=\frac{mv_i}{\sqrt{1-v^2/c^2}}=\gamma mv_i,\qquad E=\vec p\cdot\vec v-L=\gamma mc^2

    これで運動量と全エネルギーが同じ L から得られます。相互作用があれば場も含めた孤立系全体のエネルギー・運動量を保存量として扱います。

  4. Step 4: 低速極限でニュートン力学に戻ることを確認
    v≪c  ⇒  γ≈1+v22c2≈1  ⇒  p≈mvv \ll c \; \Rightarrow \; \gamma \approx 1 + \frac{v^2}{2c^2} \approx 1 \; \Rightarrow \; p \approx mv

    日常の速度では γ≈1\gamma \approx 1 なので古典式に一致します。良い理論は旧理論を含んでいなければなりません。

  5. Step 5: 運動量保存が破れない限り、速度は c で頭打ち
    v=pcp2+m2c2<cv = \dfrac{pc}{\sqrt{p^2 + m^2 c^2}} < c

    pp をどれだけ大きく(=エネルギーを注ぎ込み)ても vv は cc に漸近するだけで超えられません。加速器の実験事実と完全に合致します。

E² = (pc)² + (mc²)² ——エネルギーと運動量の「三平方」

運動量とエネルギーの間には、ピタゴラスの定理のような関係が成り立ちます。この式の最大の魅力は光子の扱いです。光子は静止質量 m=0m = 0 ながらエネルギーと運動量を持ち、m=0m = 0 を代入すると E=pcE = pc が直ちに出ます。質量のある粒子が静止している場合(p=0p = 0)は E=mc2E = mc^2 というおなじみの式になります。

🔍 E² = (pc)² + (mc²)² の導出——γ の定義から3行で

  1. Step 1: γ² に現れる共通分母を用意する
    γ2=11−v2/c2,γ2v2=v21−v2/c2\gamma^2 = \dfrac{1}{1 - v^2/c^2}, \qquad \gamma^2 v^2 = \dfrac{v^2}{1 - v^2/c^2}

    まず γ\gamma の2乗の式をそのまま書き、両辺に v2v^2 を掛けた形も作っておきます。

  2. Step 2: 恒等式 γ²(1 − v²/c²) = 1 を変形する
    γ2−γ2v2c2=1  ⟹  γ2m2c4−γ2m2v2c2=m2c4\gamma^2 - \gamma^2 \dfrac{v^2}{c^2} = 1 \; \Longrightarrow \; \gamma^2 m^2 c^4 - \gamma^2 m^2 v^2 c^2 = m^2 c^4

    両辺に m2c4m^2 c^4 を掛けました。左辺第1項は (γmc2)2=E2(\gamma mc^2)^2 = E^2 です。

  3. Step 3: 左辺第2項を読み替える
    γ2m2v2c2=p2c2\gamma^2 m^2 v^2 c^2 = p^2 c^2

    p=γmvp = \gamma mv の定義を代入するだけです。

  4. Step 4: 結論
    E2=p2c2+m2c4E^2 = p^2 c^2 + m^2 c^4

    エネルギーの「直角部分」が運動量成分、もう一方が質量成分というきれいな構造。静止(p=0p=0)なら E=mc2E = mc^2、光子(m=0m=0)なら E=pcE = pc が即座に出ます。

速度の加法定理——慣性系を変えても光速は不変

ニュートン力学では、時速 100 km の電車から時速 100 km のボールを投げれば地面からは 200 km/h に見えます。ところが光速不変の原理では同じ操作が許されません。相対論では速度の足し算が次の式に置き換わり、どんなに速い速度同士を「足しても」決して cc を超えません。

u′=u−v1−uv/c2u' = \dfrac{u - v}{1 - uv/c^2}

🔍 加法定理の導出——ローレンツ変換の微分比

  1. Step 1: ローレンツ変換を書く
    x′=γ(x−vt),t′=γ(t−vxc2)x' = \gamma (x - vt), \qquad t' = \gamma\left(t - \dfrac{vx}{c^2}\right)

    速度 vv で動く慣性系への変換式。時間も座標と一緒に混ざるのが相対論の肝です。

  2. Step 2: 微分して速度の定義に持ち込む
    dx′=γ(dx−v dt),dt′=γ(dt−v dxc2)dx' = \gamma(dx - v\,dt), \qquad dt' = \gamma\left(dt - \dfrac{v\,dx}{c^2}\right)

    微小変化に対しては γ は定数扱いできます(系の相対速度は変わらないため)。

  3. Step 3: 割り算して速度にする
    u′=dx′dt′=dx−v dtdt−v dxc2=dxdt−v1−vc2dxdtu' = \dfrac{dx'}{dt'} = \dfrac{dx - v\,dt}{dt - \dfrac{v\,dx}{c^2}} = \dfrac{\dfrac{dx}{dt} - v}{1 - \dfrac{v}{c^2}\dfrac{dx}{dt}}

    分子・分母を dtdt で割ると dx/dt=udx/dt = u が現れ、目的の形が出ます。

  4. Step 4: 光速を代入してみる
    u=c  ⟹  u′=c−v1−vc/c2=c−v1−v/c=cu = c \; \Longrightarrow \; u' = \dfrac{c - v}{1 - vc/c^2} = \dfrac{c-v}{1 - v/c} = c

    光に対してはどの慣性系でも同じ cc——光速度不変の原理が自動的に成立します。

  5. Step 5: c を超えられないことの確認
    1−u′2c2=(1−u2/c2)(1−v2/c2)(1−uv/c2)2>0(∣u∣<c, ∣v∣<c)1-\frac{u^{\prime 2}}{c^2}=\frac{(1-u^2/c^2)(1-v^2/c^2)}{(1-uv/c^2)^2}>0\qquad (|u|<c,\ |v|<c)

    符号つきの1次元速度なので絶対値で条件を課します。この恒等式の右辺が正であることから |u′| < c が従います。分母が正というだけでは上限速度の証明になりません。

量古典相対論備考
運動量p=mvp = mvp=γmvp = \gamma m v低速で一致
自由粒子のエネルギーE=K=p2/(2m)E=K=p^2/(2m)(ゼロ点を選択)E=γmc2E = \gamma m c^2相対論では静止エネルギーを含む
運動エネルギーK=12mv2K = \frac{1}{2}mv^2K=(γ−1)mc2K = (\gamma - 1)mc^2展開すると 12mv2\frac{1}{2}mv^2 が復活
エネルギー・運動量関係K=p2/(2m)K=p^2/(2m)E2=p2c2+m2c4E^2 = p^2c^2 + m^2c^4光子では E=pcE = pc
速度の座標変換u′=u−vu'=u-vu′=u−v1−uv/c2u' = \dfrac{u-v}{1 - uv/c^2}∣u∣<c,∣v∣<c|u|<c, |v|<c なら ∣u′∣<c|u^{\prime}|<c

質量とエネルギーの等価性——陽電子消滅

質量とエネルギーの等価性を示す現象に電子と陽電子の対消滅があります。電子の質量は me=9.109×10−31 kgm_e=9.109\times10^{-31}\,\mathrm{kg}。ここでは両粒子の初期運動エネルギーと結合エネルギーを無視し、代表的な2光子消滅を扱います。静止エネルギー 2mec22m_ec^2 が2個の光子に分配されます。逆の対生成も起こりますが、真空中の単独光子から電子・陽電子対だけを作ることはエネルギー・運動量保存に反します。原子核などの反跳相手、またはもう一つの光子が必要です。PET 検査は2光子消滅による γ 線の同時計測を利用します。

e−+e+→2γ,Eγ=mec2=8.187×10−14 J≈0.511 MeV\mathrm{e}^- + \mathrm{e}^+ \rightarrow 2\gamma, \qquad E_\gamma = m_e c^2 = 8.187 \times 10^{-14}\ \mathrm{J} \approx 0.511\ \mathrm{MeV}

🔍 消滅エネルギーと光子の波長を計算する

  1. Step 1: 静止エネルギー1個分
    E0=mec2=9.109×10−31×(2.998×108)2=8.19×10−14 JE_0 = m_e c^2 = 9.109 \times 10^{-31} \times (2.998 \times 10^8)^2 = 8.19 \times 10^{-14}\ \mathrm{J}

    電子1個分の「値段」です。単位を eV に換算すると約 0.511 MeV になります。

  2. Step 2: 2光子消滅を選び運動量を保存
    P⃗initial=0⇒p⃗γ1+p⃗γ2=0\vec P_{\mathrm{initial}}=0\quad\Rightarrow\quad\vec p_{\gamma1}+\vec p_{\gamma2}=0

    2光子チャネルでは同じエネルギーで逆向きになります。1光子だけへの消滅は禁止されますが、運動量保存だけで必ず2個と決まるわけではなく、3個以上の光子への消滅もあります。

  3. Step 3: エネルギー分配
    2Eγ=2mec2  ⇒  Eγ=mec2=0.511 MeV2 E_\gamma = 2 m_e c^2 \; \Rightarrow \; E_\gamma = m_e c^2 = 0.511\ \mathrm{MeV}

    各光子がちょうど電子1個分の静止エネルギーを受け取ります。

  4. Step 4: 波長に換算
    λ=hcEγ=6.626×10−34×2.998×1088.19×10−14=2.43×10−12 m\lambda = \dfrac{hc}{E_\gamma} = \dfrac{6.626 \times 10^{-34} \times 2.998 \times 10^8}{8.19 \times 10^{-14}} = 2.43 \times 10^{-12}\ \mathrm{m}

    約 2.4 pm のガンマ線。PET 検出器はこの2本のγ線を同時に捉えて消滅地点を特定します。

例題——太陽は毎秒どれだけの質量を失っているか

太陽の放射パワーは約 3.85×1026 W3.85 \times 10^{26}\ \mathrm{W} である。(1) 1秒あたりに失われる質量を求めよ。(2) 年間では何 kg か概算せよ。

解答・解説

(1) E=mc2E = mc^2 より m=E/c2=3.85×1026/(3×108)2≈m = E/c^2 = 3.85 \times 10^{26} / (3 \times 10^8)^2 \approx **4.3×109 kg4.3 \times 10^9\ \mathrm{kg}**(毎秒約430万トン) (2) これに1年 ≈ 3.15×1073.15 \times 10^7 s を掛けて約 **1.35×10171.35 \times 10^{17} kg**。それでも太陽の総質量 2×10302 \times 10^{30} kg に対しては無視できるほど小さい

相対論的エネルギー E=γmc2E = \gamma mc^2 には静止エネルギーが含まれます。運動エネルギーは差し引き分 K=(γ−1)mc2K = (\gamma - 1)mc^2 とするのが正しく、K=12mv2K = \tfrac{1}{2}mv^2 と書くのが典型的な誤りです。
練習問題
  1. 電子を v=0.8cv = 0.8c で加速したときの運動エネルギー K=(γ−1)mec2K = (\gamma - 1)m_ec^2 を MeV 単位で求めよ。ただし mec2=0.511 MeVm_ec^2 = 0.511\ \mathrm{MeV}。

    ヒント

    v=0.8cv = 0.8c なら γ=5/3\gamma = 5/3。

    解答・解説

    γ−1=5/3−1=2/3\gamma - 1 = 5/3 - 1 = 2/3 なので K=23×0.511≈K = \dfrac{2}{3} \times 0.511 \approx **0.34 MeV0.34\ \mathrm{MeV}**

  2. v=0.6cv = 0.6c で飛ぶ宇宙船が、前方向に 0.6c0.6c の速さでミサイルを発射した。地上から見たミサイルの速さを求めよ。

    ヒント

    同じ向きの速度の合成は u+v1+uv/c2\dfrac{u+v}{1 + uv/c^2} を使う。

    解答・解説

    0.6c+0.6c1+0.6×0.6=1.2c1.36≈\dfrac{0.6c + 0.6c}{1 + 0.6 \times 0.6} = \dfrac{1.2c}{1.36} \approx **0.88c0.88c**(単純和の 1.2c にならず、必ず cc 未満に収まる)

  3. 初め静止していた電子・陽電子対が2光子に消滅した。結合エネルギーを無視し、光子の運動量の向きと大きさを保存則から説明せよ。

    ヒント

    初期の全運動量は 0。

    解答・解説

    消滅前の全運動量が 0 なので、2個の光子は**同じ大きさ・逆向き**で飛ぶ。各光子の運動量は p=E/c=mecp = E/c = m_ec

  4. 静止質量 m>0m>0 の粒子を cc まで加速するにはどれだけのエネルギーが必要か述べよ。

    解答・解説

    γ→∞\gamma \to \infty なので K=(γ−1)mc2→∞K = (\gamma - 1)mc^2 \to \infty。**有限のエネルギーでは到達不能**

確認クイズ(相対論的力学)

問1. 相対論における運動量の正しい表式はどれか。

問2. 静止質量をもたない光子のエネルギー E と運動量 p の関係はどれか。

問3. 真空中で静止した電子・陽電子の対が光子1個だけに消滅できない理由はどれか。

問4. v=0.6cv = 0.6c と v=0.6cv = 0.6c を同じ向きに合成した速さはいくらか。

📝 メモこの端末のみに保存
メモ欄はページ読み込み後に使えるようになります。