波の重ね合わせの詳細——定在波・うなり・分散

重ね合わせの原理から定在波の節と腹の条件式、うなりの周波数 $f_{beat} = |f_1 - f_2|$ を段階的に導き、分散関係がパルスの形を保つ仕組みを学ぶ。

この単元の目標
  • 重ね合わせの原理を用いて、定在波の節・腹の位置条件を自力で導出できる
  • 三角関数の積和公式からうなりの式を導き、fbeat=∣f1−f2∣f_{beat} = |f_1 - f_2| を使った計算ができる
  • 弦の固定端・自由端での反射(位相の変化)と定在波のモードの関係を説明できる
  • 分散関係 ω(k)\omega(k) の形から波束の広がりを予測できる

重ね合わせの原理——足し算が許される世界

波の世界では、複数の波が同時に到達しても互いに影響を受けず、その変位の代数和として現れます。これが重ね合わせの原理です。線形微分方程式に従う限り、解の和もまた解であるという数学的事実がこの物理的直感を支えています。音の響き合いも光の干渉縞も量子力学の確率振幅の干渉も、すべて同じ足し算の帰結です。

🔍 定在波の生成——進行波と逆行波を足す

  1. Step 1: 同じ振動数・振幅で逆向きに走る2つの波
    y1=Asin⁡(kx−ωt),y2=Asin⁡(kx+ωt)y_1 = A \sin(kx - \omega t), \qquad y_2 = A \sin(kx + \omega t)

    固定端での反射がこの状況をつくります(反射波が y2y_2 に相当)。

  2. Step 2: 和をとって積和公式を適用
    y=y1+y2=2Asin⁡(kx)cos⁡(ωt)y = y_1 + y_2 = 2A \sin(kx)\cos(\omega t)

    sin⁡α+sin⁡β=2sin⁡α+β2cos⁡α−β2\sin\alpha + \sin\beta = 2\sin\dfrac{\alpha+\beta}{2}\cos\dfrac{\alpha-\beta}{2} を使いました。空間項 sin⁡(kx)\sin(kx) と時間項 cos⁡(ωt)\cos(\omega t) に分離します。

  3. Step 3: 「場所ごとに決まった大きさで振動する」
    y(x,t)=[2Asin⁡(kx)]⋅cos⁡(ωt)y(x, t) = [2A \sin(kx)] \cdot \cos(\omega t)

    各点は自分の位置だけが決める振幅 ∣2A sin⁡(kx)∣|2A\,\sin(kx)| で単振動します。波形が移動しないので定在波です。

  4. Step 4: 節と腹の位置
    節:sin⁡(kx)=0,腹:∣sin⁡(kx)∣=1\text{節}: \sin(kx) = 0, \quad \text{腹}: |\sin(kx)| = 1

    sin⁡\sin がゼロになる場所では、いつ、どの時刻でも変位が完全に0。これが定在波の最も強い予言です。

弦の固定端では反射のときに位相が π ずれる(固定端反射)ため、入射波と反射波がちょうど打ち消し合う場所に節が生まれます。両端を固定した長さ LL の弦では、両端が必ず節になるように定在波が立ち、波の数(モード)は整数しか許されません。

節:x=mλ2  (m=0,1,2,… ),腹:x=(2m+1)λ4\text{節}: x = \dfrac{m\lambda}{2} \; (m = 0, 1, 2, \dots), \qquad \text{腹}: x = \dfrac{(2m+1)\lambda}{4}
モード波長振動数呼び名
n=1n = 1λ1=2L\lambda_1 = 2Lf1=v2Lf_1 = \dfrac{v}{2L}基本振動(基準モード)
n=2n = 2λ2=L\lambda_2 = Lf2=2f1f_2 = 2f_12倍振動
n=nn = nλn=2Ln\lambda_n = \dfrac{2L}{n}fn=nf1f_n = nf_1第 nn 調和

🔍 うなりの周波数 f_beat = |f₁ − f₂| の導出

  1. Step 1: 振動数の近い2つの波を重ねる
    y=Asin⁡(2πf1t)+Asin⁡(2πf2t)y = A\sin(2\pi f_1 t) + A\sin(2\pi f_2 t)

    同じ場所での時刻変化を考えます(位置依存性は省略)。

  2. Step 2: 積和公式で変形
    y=2Acos⁡(2πf1−f22t)sin⁡(2πf1+f22t)y = 2A\cos\left(2\pi\dfrac{f_1 - f_2}{2}t\right)\sin\left(2\pi\dfrac{f_1 + f_2}{2}t\right)

    平均の振動数で振り、差の半分でゆっくり揺れる係数がついた形になります。

  3. Step 3: ゆっくり変わる部分が「うなり」
    envelope amplitude∝∣cos⁡(2πf1−f22t)∣\text{envelope amplitude} \propto \left|\cos\left(2\pi\dfrac{f_1 - f_2}{2}t\right)\right|

    絶対値は周期が半分になるので、音の強弱の繰り返し回数(うなり周波数)は ∣f1−f2∣|f_1 - f_2| です。

  4. Step 4: 強弱が1回起こる条件
    ∣f1−f2∣ Hz=1秒あたりの極大の個数|f_1 - f_2| \text{ Hz} = \text{1秒あたりの極大の個数}

    ピアノ調律師はこのうなりが消えるまで弦を張り直します。2音の周波数が一致すればうなりは消失します。

分散関係——周波数が波長で決まるとき

媒質中の波の角振動数 ω\omega と波数 k=2π/λk = 2\pi/\lambda の関係を分散関係と呼びます。理想弦のように ω=vk\omega = vk と比例する場合を非分散、光が水中で色ごとに曲がり方が違うように比例しない場合を分散があるといいます。

ω(k)=vk(非分散),ω(k)≠vk(分散)\omega(k) = vk \quad \text{(非分散)}, \qquad \omega(k) \neq vk \quad \text{(分散)}

🔍 分散があると波束はなぜ広がるのか——群速度と位相速度

  1. Step 1: 角振動数の異なる2つの波を重ねる
    y=sin⁡(kx−ωt)+sin⁡((k+Δk)x−(ω+Δω)t)y = \sin(kx - \omega t) + \sin((k + \Delta k)x - (\omega + \Delta\omega)t)

    波数と角振動数がわずかに違う2つの波の合成を考えます。これがうなりの波数版です。

  2. Step 2: 積和公式で変形する
    y=2cos⁡(Δk x−Δω t2)sin⁡[(k+Δk2)x−(ω+Δω2)t]y=2\cos\left(\frac{\Delta k\,x-\Delta\omega\,t}{2}\right)\sin\left[\left(k+\frac{\Delta k}{2}\right)x-\left(\omega+\frac{\Delta\omega}{2}\right)t\right]

    積和公式では差の半分が包絡線に、平均の波数・角振動数が細かい振動に現れます。2波の和は周期的なうなりであり、局在した波束を作るには連続的な波数成分を重ねます。

  3. Step 3: 包絡線の移動速度=群速度
    vg=ΔωΔk  →  vg=dωdkv_g = \dfrac{\Delta\omega}{\Delta k} \; \to \; v_g = \dfrac{d\omega}{dk}

    近接した波数成分の包絡線の速さです。狭帯域で吸収が小さい波束なら包絡線の移動を近似的に表しますが、一般に情報の先端速度やエネルギー速度と必ず一致するわけではありません。

  4. Step 4: 個々の山の移動速度=位相速度
    vp=ωkv_p = \dfrac{\omega}{k}

    ω=vk\omega = vk のとき vp=vg=vv_p = v_g = v で包絡線も山も同じ速さ——形が崩れません。

  5. Step 5: 波束の変形を決めるのは群速度の波数依存性
    ω(k0+q)=ω0+vg(k0)q+12ω′′(k0)q2+⋯\omega(k_0+q)=\omega_0+v_g(k_0)q+\frac12\omega^{\prime\prime}(k_0)q^2+\cdots

    1次項だけなら包絡線は一定速度で形を保って移動します。2次以上の項が無視できないと成分間に位相差が蓄積し、波束は変形します。初期に余分な位相変調のないガウス波束は2次分散で広がりますが、位相変調された波束は一時的に圧縮する場合もあります。位相速度と群速度が異なるだけで広がると断定はできません。

概念式ポイント
定在波(節)sin⁡(kx)=0\sin(kx) = 0時刻によらず変位が 0
定在波(腹)∣sin⁡(kx)∣=1|\sin(kx)| = 1振幅が最大の 2A2A
両端固定弦の固有振動fn=n2LTμf_n = \dfrac{n}{2L}\sqrt{\dfrac{T}{\mu}}nn が整数のモードのみ許される
うなりfbeat=∣f1−f2∣f_{beat} = |f_1 - f_2|音の強弱が1秒あたり ∣f1−f2∣|f_1-f_2| 回
群速度vg=dωdkv_g = \dfrac{d\omega}{dk}狭帯域・弱吸収で波束の包絡線の速度
例題——弦の固有振動数とハーモニクス

両端固定で長さ 60 cm、線密度 4.0×10−3 kg/m4.0 \times 10^{-3}\ \mathrm{kg/m} の理想弦を張力 90 N で張った。(1) 波の速さ vv を求めよ。(2) 基本振動数 f1f_1 を求めよ。(3) 長さと線密度を変えずに基本振動数を 440 Hz にする張力を求めよ。弦の伸びや破断は考えない。

解答・解説

(1) v=T/μ=90/(4.0×10−3)=v = \sqrt{T/\mu} = \sqrt{90 / (4.0 \times 10^{-3})} = **150 m/s150\ \mathrm{m/s}** (2) f1=v/2L=150/(2×0.60)=f_1 = v/2L = 150/(2 \times 0.60) = **125 Hz125\ \mathrm{Hz}** (3) vv を上げるには**張力を強く**する。必要な張力は T=μ(2Lf1)2=4.0×10−3×(2×0.6×440)2≈T = \mu(2Lf_1)^2 = 4.0 \times 10^{-3} \times (2 \times 0.6 \times 440)^2 \approx **1.1×103 N1.1 \times 10^3\ \mathrm{N}**

うなりは「振動数の差」で決まり、共鳴は「振動数の一致」で起こります。混同しやすいので、うなりの式 fbeat=∣f1−f2∣f_{beat} = |f_1 - f_2| と固有振動の条件 fn=nf1f_n = nf_1 をセットで覚えると混乱しにくいです。
練習問題
  1. 長さ 1.0 m の弦の基本振動数が 100 Hz のとき、3倍振動の波長と振動数を求めよ。

    ヒント

    λn=2L/n\lambda_n = 2L/n。

    解答・解説

    λ3=2×1.0/3≈\lambda_3 = 2 \times 1.0 / 3 \approx **0.67 m0.67\ \mathrm{m}**、f3=3f1=f_3 = 3f_1 = **300 Hz300\ \mathrm{Hz}**

  2. 音叉 A(440 Hz)と音叉 B を同時に鳴らすと 1 秒間に 4 回のうなりが聞こえた。B の振動数の候補をすべて挙げよ。さらに B に少し粘土を付けると、うなりが遅くなった。B の振動数を特定せよ。

    ヒント

    うなりは差の絶対値。粘土を付けると振動数は下がる。

    解答・解説

    候補は **444 Hz または 436 Hz**。少量の粘土で振動数をわずかに下げると、444 Hz なら 440 Hz に近づいて差が小さくなる。一方 436 Hz ならさらに離れて差が大きくなる。うなりが遅くなったので、元の B は **444 Hz**。

  3. 固定端での反射と自由端での反射の違いを、位相の観点から説明せよ。

    解答・解説

    固定端では**位相が π 反転**して戻るため、定在波の節が固定端にできる。自由端では位相が反転せず、自由端は腹になる

  4. 表面張力と粘性を無視できる微小振幅の深水重力波では ω=gk\omega=\sqrt{gk}(k>0k>0、水深 hh に対し kh≫1kh\gg1)。群速度が位相速度の半分になることを示せ。

    ヒント

    vp=ω/kv_p = \omega/k, vg=dω/dkv_g = d\omega/dk。

    解答・解説

    vp=ω/k=g/kv_p = \omega/k = \sqrt{g/k}、一方 vg=12(gk)−1/2⋅g=12g/k=v_g = \dfrac{1}{2}(gk)^{-1/2} \cdot g = \dfrac{1}{2}\sqrt{g/k} = **vp2\dfrac{v_p}{2}**

  5. 吸収のない媒質のある波数帯域で ω(k)=ak+b\omega(k)=ak+b(a>0a>0, b≠0b\ne0)とする。この帯域内の波束について位相速度、群速度を求め、両者が違うだけで包絡線が広がるか判断せよ。

    解答・解説

    vp=a+b/kv_p=a+b/k、vg=av_g=a で一般に一致しない。しかし ω′′=0\omega^{\prime\prime}=0 で、複素波束は ψ(x,t)=∫A(k)ei[kx−(ak+b)t]dk=e−ibtψ(x−at,0)\psi(x,t)=\int A(k)e^{i[kx-(ak+b)t]}dk=e^{-ibt}\psi(x-at,0)。したがって包絡線の絶対値は形を保って速さ aa で移動する。広がりの判断には vgv_g の波数依存性を見る必要がある。

確認クイズ(波の重ね合わせ)

問1. 両端固定の弦に定在波が立つとき、両端は必ずどうなるか。

問2. 振動数 340 Hz と 344 Hz の音叉を同時に鳴らしたときのうなり回数は(1秒あたり)いくらか。

問3. 吸収・非線形効果を無視し、2次分散が支配的な媒質を初期位相変調のないガウス波束が進む。時間幅はどうなるか。

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