熱力学の法則——第0法則から第3法則まで

4つの法則を「温度の定義 → エネルギー保存 → エントロピー増大 → 絶対零度への漸近」という一つの物語として整理し、カルノーサイクルから効率 η = 1 − T_C/T_H を導く。

この単元の目標
  • 熱力学第0〜3法則をそれぞれ一言で述べ、相互の役割分担を説明できる
  • カルノーサイクルの各過程の Q と W を追跡し、効率 η=1−TC/TH\eta = 1 - T_C/T_H を導出できる
  • クラウジウス不等式とエントロピー増大則の関係を説明し、可逆・不可逆を見分けられる
  • ギブズエネルギーとの接続から、化学反応の自発性判定に応用できる
📑 目次
  1. 4つの法則の全体像
  2. 第1法則——エネルギー保存の熱力学版
  3. カルノーサイクルと最大効率
  4. 第2法則とエントロピー増大則
  5. 第3法則——絶対零度は到達できない

4つの法則の全体像

熱力学の法則は、番号の順に発見されたわけではありません。まず「温度とは何か」を第0法則が与え、第1法則がエネルギーの総量を保存で縛り、第2法則がその流れる方向(エントロピー増大)を決め、第3法則が絶対零度という到達できない極限の性質を定めます。エネルギーの「量」と「質」——この2つを同時に扱えるのが熱力学の強みです。

法則主張役割
第0法則熱平衡の推移性温度という状態量の存在根拠
第1法則ΔU=Q−W\Delta U = Q - Wエネルギー保存(量の保存)
第2法則孤立系では ΔS≥0\Delta S \geq 0変化の方向(質の劣化)
第3法則T→0T \rightarrow 0 で S→S \rightarrow 一定絶対零度は有限操作では到達不能

第1法則——エネルギー保存の熱力学版

系に流入した熱 QQ と、系が外界にした仕事 WW の差だけ内部エネルギー UU が増えます。符号規約は「Q は入ってきたら正」「W は系が外にしたら正」です。内部エネルギーは状態量(経路によらない)である一方、Q と W は経路依存。この非対称性が、後のカルノーサイクル解析の鍵になります。

ΔU=Q−W,W=∫Pext dV(体積仕事のみ)\Delta U=Q-W,\qquad W=\int P_{\mathrm{ext}}\,dV\quad\text{(体積仕事のみ)}
閉じた系で体積仕事以外の仕事がなく、系全体の運動・位置エネルギーの変化を無視する場合、定積なら QV=ΔUQ_V=\Delta U。一定外圧 PP のもとで始状態・終状態がその圧力に平衡なら QP=ΔU+PΔV=ΔHQ_P=\Delta U+P\Delta V=\Delta H です。電気仕事や軸仕事があれば、定積・定圧というだけでこれらの等式は使えません。

カルノーサイクルと最大効率

一定温度の2熱源 TH>TC>0T_H>T_C>0 だけと熱交換するサイクル熱機関の効率は η≤1−TC/TH\eta\le1-T_C/T_H。可逆機関が等号を達成します。以下では物質量 nn が一定の理想気体を使い、「等温膨張 A→B、可逆断熱膨張 B→C、等温圧縮 C→D、可逆断熱圧縮 D→A」を追います。CVC_V は一定のモル定積熱容量、γ=CP/CV\gamma=C_P/C_V とします。ゆっくり動くだけでなく摩擦がなく、熱交換の温度差も無限小であることが可逆性の条件です。

🔍 カルノー効率 η = 1 − T_C/T_H の導出——4過程を追跡する

  1. Step 1: 等温膨張(高温熱源 T_H に接触)
    QH=W1=nRTHln⁡VBVA>0Q_H = W_1 = nRT_H \ln\dfrac{V_B}{V_A} > 0

    理想気体の内部エネルギーは温度だけで決まるので、等温では ΔU=0\Delta U = 0。入った熱がそのまま仕事になります。

  2. Step 2: 断熱膨張(熱源から切り離す)
    Q=0,W2=−ΔU=nCV(TH−TC)Q = 0, \qquad W_2 = -\Delta U = nC_V(T_H - T_C)

    熱のやりとりなしで膨張し、気体は自身の内部エネルギーを消費して冷えます。

  3. Step 3: 等温圧縮(低温熱源 T_C に接触)
    QC=W3=nRTCln⁡VDVC<0Q_C = W_3 = nRT_C \ln\dfrac{V_D}{V_C} < 0

    外から仕事されて熱 ∣QC∣|Q_C| を低温熱源へ捨てます。

  4. Step 4: 断熱圧縮で元の状態へ
    Q=0,TC→THQ = 0, \qquad T_C \to T_H

    断熱過程で TVγ−1=TV^{\gamma-1} = 一定という関係を使うと、体積比に VBVA=VCVD\dfrac{V_B}{V_A} = \dfrac{V_C}{V_D} が成り立ちます。

  5. Step 5: 効率を計算する
    η=WQH=QH−∣QC∣QH=1−∣QC∣QH\eta = \dfrac{W}{Q_H} = \dfrac{Q_H - |Q_C|}{Q_H} = 1 - \dfrac{|Q_C|}{Q_H}

    サイクル全体では ΔU=0\Delta U = 0 なので、した仕事は W=QH−∣QC∣W = Q_H - |Q_C|(1周期で内部エネルギーは元に戻る)。

  6. Step 6: 対数比を消去する
    ∣QC∣QH=nRTCln⁡(VC/VD)nRTHln⁡(VB/VA)=TCTH\dfrac{|Q_C|}{Q_H} = \dfrac{nRT_C \ln(V_C/V_D)}{nRT_H \ln(V_B/V_A)} = \dfrac{T_C}{T_H}

    Step 4 の体積比の等式により対数が打ち消し合い、温度比だけが残ります。これがカルノーサイクルの奇跡的な簡潔さです。

  7. Step 7: 結論
    ηmax⁡=1−TCTH\eta_{\max} = 1 - \dfrac{T_C}{T_H}

    同じ2熱源間の可逆機関の効率は作業物質によらず同じです。これは理想気体だけの性質ではなく、可逆機関を逆運転すると第2法則により示せるカルノーの定理です。不可逆機関の効率はこれより低くなります。

この導出は熱力学温度目盛りにもつながります。可逆機関では ∣QC∣/QH=TC/TH|Q_C|/Q_H=T_C/T_H なので、熱量の比から温度の比が定まります。カルノーの定理により作業物質に依存しない目盛りです。現在の SI で単位ケルビンを定義するのはボルツマン定数 kBk_B の数値の固定であり、温度比を与える熱力学的関係と単位の定義を区別します。

第2法則とエントロピー増大則

第2法則には2つの言い方があります。クラウジウス表現「低温から高温へ、他に変化を残さず熱を移せない」とケルビン表現「1つの熱源から熱を受けてすべて仕事に変えるサイクル機関はつくれない」です。一見無関係に見えますが、どちらかを仮定すると他方が矛盾なく導け、さらにエントロピー増大則という定量表現にまとめられます。

dS=δQrevT,ΔSisolated≥0dS=\frac{\delta Q_{\mathrm{rev}}}{T},\qquad \Delta S_{\mathrm{isolated}}\ge0

第1式は可逆経路に沿った定義で、δQ\delta Q は微小な熱量です。熱は状態量でないため dQdQ と区別します。実際の不可逆経路で熱量を温度で割ればエントロピー変化になる、という式ではありません。孤立系の自由膨張では実際の Q=0Q=0 でもエントロピーが増加します。同じ始状態・終状態を結ぶ仮想的な可逆経路で計算するのがポイントです。

🔍 カルノーサイクルからクラウジウス不等式へ

  1. Step 1: 可逆カルノーサイクルの熱量比
    QHTH+QCTC=0(QC<0)\dfrac{Q_H}{T_H} + \dfrac{Q_C}{T_C} = 0 \qquad (Q_C < 0)

    η 導出で得た ∣QC∣/QH=TC/TH|Q_C|/Q_H = T_C/T_H を移項したものです。符号を込めて書くと美しくゼロになります。

  2. Step 2: 任意の可逆サイクルへ拡張
    ∮δQrevT=0\oint \frac{\delta Q_{\mathrm{rev}}}{T}=0

    任意のサイクルは無数の細い断熱線と等温線で近似でき、それぞれが微小カルノーサイクルだと考えられるため。

  3. Step 3: エントロピーという状態量の定義
    ΔS=∫ABδQrevT\Delta S=\int_A^B\frac{\delta Q_{\mathrm{rev}}}{T}

    積分が経路によらないこと(閉じたらゼロ)が、S が状態量であることの証明になっています。

  4. Step 4: 不可逆過程では不等号に変わる
    ∮δQTR≤0,ΔS≥∫ABδQTR\oint\frac{\delta Q}{T_R}\le0,\qquad \Delta S\ge\int_A^B\frac{\delta Q}{T_R}

    T_R は熱をやり取りする熱源の温度で、複数なら各熱源の寄与を足します。可逆なら等号、系と熱交換の不可逆性によりエントロピー生成があれば厳密な不等号です。系が非平衡なら、系全体に一つの温度を割り当てられるとは限りません。

  5. Step 5: 孤立系でのエントロピー増大則
    ΔSuniverse=ΔSsys+ΔSenv≥0\Delta S_{\text{universe}} = \Delta S_{\text{sys}} + \Delta S_{\text{env}} \geq 0

    系と外界を合わせれば、不可逆過程のぶんだけエントロピーが増えます。これが「時間の矢」の数学的表現です。

過程ΔS_universe例
可逆過程=0= 0摩擦なし・無限小温度差での準静的な等温膨張
熱伝導>0> 0高温体から低温体への熱流
自由膨張>0> 0真空の中への気体の噴出(W = 0, Q = 0 でも増える)
摩擦>0> 0仕事が全て熱に変わる

🔍 補足:定温・定圧でギブズエネルギーが減る理由

  1. 1. 条件を固定する
    G=H−TS,H=U+PV,T,P=constG=H-TS,\qquad H=U+PV,\qquad T,P=\mathrm{const}

    閉じた系が一定温度・一定圧力の外界と接し、体積仕事以外の仕事がないとします。化学反応は系の内部で起きてよいものとします。始状態・終状態を同じ T, P の平衡状態として比較します。

  2. 2. 外界のエントロピー変化
    Qsys=ΔH,ΔSenv=−ΔHTQ_{\mathrm{sys}}=\Delta H,\qquad \Delta S_{\mathrm{env}}=-\frac{\Delta H}{T}

    外界の温度が一定なので、外界が失った熱を T で割ります。

  3. 3. 第2法則に代入
    ΔStotal=ΔS−ΔHT=−ΔGT≥0⇒ΔG≤0\Delta S_{\mathrm{total}}=\Delta S-\frac{\Delta H}{T}=-\frac{\Delta G}{T}\ge0\quad\Rightarrow\quad\Delta G\le0

    この条件下で自発変化は G を減らす方向に進み、安定平衡で G が最小になります。反応速度が大きいという意味ではなく、活性化障壁によって進行が遅い場合もあります。

第3法則——絶対零度は到達できない

第3法則の到達不可能性の表現は「有限の物理的操作で絶対零度へ冷却できない」です。エントロピーについては、一意な基底状態を持つ完全結晶の平衡エントロピーが T→0T\to0 で 0 に近づくという表現があります。縮退や凍結した無秩序による残留エントロピーには注意が必要です。通常の安定な物質では低温で熱容量もゼロに近づきますが、その事実だけで操作回数が無限になるとは証明できません。可逆冷凍機の成績係数 COP=TC/(TH−TC)\mathrm{COP}=T_C/(T_H-T_C) が TC→0T_C\to0 で小さくなることは、低温冷却が難しくなる一つの目安です。

例題——発電所の理論上限効率

原子炉で蒸気を 600 K に加熱し、排熱は 300 K の海水へ捨てている。(1) 理論最大効率を求めよ。(2) 実際の効率が 35 % である理由を2つ挙げよ。

解答・解説

(1) η=1−TC/TH=1−300/600=\eta = 1 - T_C/T_H = 1 - 300/600 = **50%50\%** (2) タービンや軸受の**摩擦**(不可逆過程)、蒸気発生器や凝縮器での**有限温度差での熱伝導**。いずれもエントロピーを余分に生み、可逆カルノー効率から離れる原因になる

効率の式に入れるのは絶対温度です。また第2法則が禁止するのは「単一熱源から得た熱を全て仕事に変え、それ以外に変化を残さないサイクル」です。理想気体の等温膨張のように系の状態を変える1回の過程では Q=WQ=W が可能です。仕事を全て熱に変える摩擦過程は第2法則に反しません。
練習問題
  1. 高温熱源 800 K、低温熱源 400 K のカルノーサイクルの効率を求めよ。さらに 400 kJ の熱を高温熱源から受け取ったときの最大仕事を求めよ。

    ヒント

    η=1−TC/TH\eta = 1 - T_C/T_H, W=ηQHW = \eta Q_H。

    解答・解説

    η=1−400/800=\eta = 1 - 400/800 = **0.50.5**、Wmax=0.5×400=W_{max} = 0.5 \times 400 = **200200 kJ**

  2. 0 °C の氷が 300 K に保たれた大きな熱浴から 334 J を受け取って融けた。融けた水を温める段階は含めない。融点を 273 K と近似し、氷と熱浴を合わせたエントロピー変化を求めよ。

    解答・解説

    氷側は融点一定で ΔSice=334/273≈1.223 J/K\Delta S_{\mathrm{ice}}=334/273\approx1.223\,\mathrm{J/K}、熱浴は ΔSR=−334/300≈−1.113 J/K\Delta S_R=-334/300\approx-1.113\,\mathrm{J/K}。合計は 334(1/273−1/300)≈0.110 J/K>0334(1/273-1/300)\approx0.110\,\mathrm{J/K}>0。有限温度差の熱伝導なので不可逆である。有限の水槽が冷える場合は水槽側の温度を一定扱いせず積分する必要がある。

  3. 第2法則のクラウジウス表現が成り立たない世界(低温から高温へ熱が自然に移れる世界)で起こることを、冷凍機の観点から説明せよ。

    解答・解説

    外部仕事も他の変化もなしで熱を低温側から高温側へ戻せる。これを通常の熱機関と組み合わせて、その機関の排熱を全て高温側へ戻せば、正味では単一熱源から受けた熱が全て仕事になる第二種永久機関ができる。ただしエネルギーを無から作るのではなく、熱源から取り出した分だけ熱源のエネルギーは減る。

  4. 1 mol の理想気体が 300 K で等温可逆膨張し体積が2倍になった。エントロピー変化を求めよ。R=8.31 J/(mol⋅K)R = 8.31\ \mathrm{J/(mol \cdot K)}。

    ヒント

    ΔS=nRln⁡(V2/V1)\Delta S = nR \ln(V_2/V_1)。

    解答・解説

    ΔS=1×8.31×ln⁡2=8.31×0.693≈\Delta S = 1 \times 8.31 \times \ln 2 = 8.31 \times 0.693 \approx **5.76 J/K5.76\ \mathrm{J/K}**

  5. 一定温度 300 K・一定圧力で体積仕事だけを行う閉じた系の変化について、ΔH=−6.0 kJ\Delta H=-6.0\,\mathrm{kJ}、ΔS=−10 J/K\Delta S=-10\,\mathrm{J/K} であった。ΔG\Delta G と系・外界の合計エントロピー変化を計算し、熱力学的に自発方向か判断せよ。

    ヒント

    kJ と J をそろえ、ΔStotal=−ΔG/T\Delta S_{\mathrm{total}}=-\Delta G/T を使う。

    解答・解説

    ΔG=ΔH−TΔS=−6000−300(−10)=−3000 J\Delta G=\Delta H-T\Delta S=-6000-300(-10)=-3000\,\mathrm J。合計エントロピー変化は −ΔG/T=10 J/K>0-\Delta G/T=10\,\mathrm{J/K}>0 なので、この条件では自発方向である。系自身のエントロピーは減るが、熱を受け取った外界では 6000/300=20 J/K6000/300=20\,\mathrm{J/K} 増える。自発方向という判定だけでは反応速度は決まらない。

確認クイズ(熱力学の法則)

問1. カルノーサイクルの効率 η = 1 − T_C/T_H について正しいのはどれか。

問2. 孤立系で起きる不可逆過程について正しいのはどれか。

問3. 熱力学第3法則が主張することはどれか。

📝 メモこの端末のみに保存
メモ欄はページ読み込み後に使えるようになります。