小説(物語文)の読み方
人物の心情変化を追いながら物語を読む。
- 人物の言動を前後で比べ、心情の変化ときっかけを説明できる
- 語り手が観察した事実と、語り手の推測を区別できる
- 回想や情景描写の働きを本文の根拠と結び付けて読める
心情の変化を軸に読む
小説では、人物・時・場所・出来事を整理し、言動や描写を根拠に心情の変化を読み取ります。「何がきっかけで、どう変わったか」を追いましょう。語り手は作者と同じとは限らず、語り手の見方に偏りがある場合もあります。
- 地の文: 会話文以外の部分。状況・行動・心理などを語り、心情を直接述べることも、間接的に示すこともある
- 会話文: 人物の発言。強がりや遠慮で本心と異なることもあるため、行動や前後の描写と照らす
- 比喩表現: 心情を間接的に映す。「心が凍る」のような表現の効果を問われる
「人物の心情を答えよ」という設問での答え方の型を述べよ。
解答・解説
**きっかけ・理由+心情**を、設問の条件に合わせて書く。「友人が自分の努力を認めてくれたので、うれしく感じている」のように、本文の根拠と気持ちを結び付ける。四字熟語を使う必要はありません。
描写を根拠にする——自作の短い物語
「発表の順番が近づき、結衣は原稿の角を何度も折った。隣の陸が『昨日の説明、分かりやすかったよ』と小声で言った。結衣は折った角をそっと伸ばし、顔を上げた。名前を呼ばれると、原稿を机に置いて前へ歩いた。」ここでは「不安だ」「安心した」と直接書かず、手の動きや姿勢の変化で気持ちを示しています。
| 本文の描写 | 読み取れること | 判断の根拠 |
|---|---|---|
| 原稿の角を何度も折った | 発表を前に緊張している | 順番が近づく場面で、落ち着かない動作を繰り返している |
| 陸が昨日の説明を褒めた | 変化のきっかけ | 励ましの言葉の後で結衣の動作が変わる |
| 角を伸ばし、顔を上げた | 落ち着きを取り戻し、前向きになる | うつむいて原稿をいじる動作から、前を向く姿勢に変わる |
結衣の気持ちは何をきっかけに、どのように変化したか。
解答・解説
陸に前日の説明を認めてもらったことで、発表への緊張や不安が和らぎ、自分から発表に向かう気持ちになった。「何度も折った」と「顔を上げた」「前へ歩いた」を対比して読む。
上の物語で、陸の言葉が結衣を励ましたと分かる動作を二つ挙げよ。
解答・解説
例:「折った角をそっと伸ばした」「顔を上げた」。発言の後で落ち着きや前向きさを示す動作が描かれている。
「結衣は発表で必ず一位になれると確信した」という読み取りは適切か。理由も答えよ。
解答・解説
適切ではない。発表へ前向きになったことは読めるが、順位や一位への確信を示す記述はない。本文にない事情を付け足さない。
自作例文「『平気だよ』と航は言ったが、差し出した手は震えていた。」から、航の状態を説明せよ。
解答・解説
言葉では平気だと示しているが、手の震えから、実際には緊張や不安を感じていると読める。会話だけでなく動作を根拠にする。
「誰から見た出来事か」で、分かる範囲が変わる
返事が来ないと「怒らせたかな」と思っても、相手は単に忙しいだけかもしれません。物語の人物も、相手の心をいつでも知っているわけではありません。だから、出来事そのものと、それを見た人の受け止め方を分けて読む必要があります。物語を語る存在を「語り手」、誰の知覚や認識に沿って描くかを「視点」と呼びます。語り手が「私」と語る場合でも、その私が作者本人とは限りません。また、「私」が出てこない語りでも、特定の人物が知る範囲だけで描くことがあります。
| 自作例文 | 分けて読みたい内容 | 本文から言える範囲 |
|---|---|---|
| 私は声をかけた。澪は窓を見たままだった。 | 語り手が観察した出来事 | 澪が窓を見ていたこと。声が聞こえたかは不明 |
| 私を避けているのだ、と私は思った。 | 語り手の解釈 | 私は避けられたと受け止めた。澪の本心は未確定 |
| 澪は「雨の音で聞こえなかった」と言った。 | 相手の発言 | 澪が理由を説明した。発言と周囲の描写も照合する |
自作の物語「駅前で私は澪に手を振った。澪は足早に通り過ぎた。昨日の口論をまだ怒っているのだ、と私は思った。翌日、澪は『昨日は弟が熱を出して、迎えを急いでいたの。気づかなくてごめん』と言った。私は握っていた鞄の持ち手を緩めた。」——「澪は怒っていたので私を無視した」と言い切れるか。また、最後の私の動作をどう読めるか。
解答・解説
言い切れない。①「足早に通り過ぎた」は観察された行動。②「まだ怒っている」は私の推測。③澪は翌日、急いでいた事情と気づかなかったことを説明している。私が持ち手を緩める動作は、その説明を受けて、避けられたのではないかという緊張が和らいだことを示すと読める。澪の事情と私の受け止めを分け、最後の動作まで根拠をつなぐ。
回想と情景——描く順番や同じ景色にも働きがある
友人からもらった鉛筆も、渡されたときの言葉を思い出すと特別に感じられます。同じ物でも、過去の出来事を知る前後で意味が変わるのです。物語が現在の場面から過去へ戻って描くことを回想といいます。「本文に書かれた順」と「出来事が起こった順」を分けると、今の行動の理由を過去が説明していると分かる場合があります。また、景色や音などを描く情景描写には、場所や季節を示すだけでなく、人物が何に目を向けるかを通じて心情を伝える働きもあります。
自作の物語「私の発表は途中で止まってしまった。帰り道、雨が傘をたたく音ばかりが耳についた。ふと、昨夜の姉の言葉を思い出した。『うまく話せなくても、伝えたかったことは残るよ。』私は鞄から原稿を出し、続きの一文を小さく読んだ。雨はまだ同じ強さだったが、声の間で静かに拍子をとっているように聞こえた。」——姉の言葉はいつの出来事か。最初と最後の雨音の描写は、どんな変化を表しているか。
解答・解説
姉の言葉は発表の前夜の出来事で、帰り道に回想されている。起こった順は「姉の言葉→発表の中断→帰り道での回想→原稿を読む」。最初の雨音は失敗を気にする私にとって耳につくものだったが、最後は声に寄り添う拍子のように感じられている。雨の強さ自体は同じなので、景色の変化ではなく、姉の言葉を思い出してもう一度伝えようとする私の受け止め方の変化を示すと読める。
- 本文を手元で読むつもりで、「昨夜」「帰り道」などの時を示す語を探し、出来事を実際の時間順に並べる。
- 同じ物や動作が繰り返される箇所を囲む。上の例なら、最初と最後の雨音の表し方を並べる。
- 二つの描写の間にあるきっかけを探す。姉の言葉を思い出したことと、原稿を読む行動を結び付ける。
- 「何によって、どう変わったか」を一文にし、本文にない結果を足していないか点検する。上の例から、次の発表の成功までは分からない。
自作例文「蓮は私の絵を黙って見ていた。気に入らなかったのだろう、と私は思った。」について、観察された行動と私の推測をそれぞれ答えよ。
解答・解説
行動は「蓮は私の絵を黙って見ていた」、推測は「気に入らなかったのだろう」。黙っている理由は書かれておらず、感心して見ていた可能性もあるので、蓮の評価はまだ確定できない。
上の雨音の物語で、姉の言葉を発表前の場面として冒頭に置かず、帰り道で思い出す形で示したことには、どんな働きがあるか。
解答・解説
解答例:発表が止まって落ち込んでいる私にとって、姉の言葉が原稿を再び読むきっかけになることが伝わる。回想が現在の行動の直前に置かれ、言葉を思い出すことと気持ちの変化のつながりを読み取りやすくしている。単に「昔を説明するため」だけでなく、今の場面との関係まで答える。
上の雨音の物語について、「雨が弱まり静かになったので、私は元気を取り戻した」という答案を、本文と照合して直せ。
解答・解説
解答例:雨の強さは変わらないが、姉の言葉を思い出して原稿の続きを読み、再び伝えようとする気持ちになった。「雨はまだ同じ強さだった」とあるので、天候が変化の原因だという説明は誤り。原因は回想した言葉、変化は原稿を読む行動と雨音の受け止め方から説明する。
自作例文「転校の日、私は古い教室の鍵を先生に返した。門を出る前に一度だけ振り返り、それから新しい学校の地図を開いた。」から読み取れる心情を、二つの行動を根拠に答えよ。
解答・解説
解答例:教室を去る名残惜しさを感じつつ、新しい学校へ向かおうとしている。「振り返る」は去る場所への思い、「地図を開く」はこれからに向けた行動と読める。ただし、新しい学校に必ず友人ができるという確信までは書かれていない。
問1. 自作例文「嫌われたのだと私は思った」から、確実に言えるのはどれか。
問2. 上の雨音の物語で、出来事が実際に起こった順として正しいものはどれか。
問3. 上の雨音の物語で、最後の雨音の効果の説明として適切なのはどれか。