漢文読解の実践技法

返り点と再読文字を正しく処理し、構文・書き下し・訳を照合する。

この単元の目標
  • 返り点の読む順序を説明できる
  • 再読文字の二度の読みを区別できる
  • 読み順と現代語訳を照合できる
📑 目次
  1. 返り点は後で戻って読むための指示
  2. 再読文字は同じ字を二度読む
  3. 構造を確かめてから音読する
  4. 訓読の先へ——訳の足しすぎを点検する

返り点は後で戻って読むための指示

原則は上から下へ読みます。返り点が付いた字は、下の指定箇所を読んでから戻って読みます。以下では縦書きの上から下への配列を、便宜上、左から右に表し、返り点を字の直後に添えます。例えば「不レ知」は「不」をいったん保留して「知」を読み、その後「不」に戻る指示です。

返り点読む順序・働き注意
レ点すぐ下の字を先に読み、レ点の付いた上の字に戻るレ点の付いた字から、さらに上の字へ戻る印ではない
一二三点一 → 二 → 三の順に戻って読む離れた字に返るときに使う
上中下点上 → 中 → 下の順に戻って読む一二点で示す返読関係をまたいで返るときに使う
甲乙丙点甲 → 乙 → 丙の順に戻って読むさらに外側の返読関係に使う
「近い印から読む」「すべてのレ点を先に処理する」という単純な操作ではありません。文を上からたどり、各返読区間の内部を読んでから外側へ戻ります。上下点は「下→中→上」ではなく「上→中→下」です。
自作短文:一二点で目的語を先に読む

「読二此書一」の読み順を、漢字の並びで示し、書き下せ。「此」は「この」と読む。

解答・解説

読む順は「此 → 書 → 読」。書き下しは「此の書を読む。」二点のある「読」を保留し、「此」「書」を読んで、一点から二点へ返る。

再読文字は同じ字を二度読む

再読文字は、一度目に「いまだ」「まさに」などと読み、後続部分を読んだ後、同じ字を二度目に「ず」「べし」などと読みます。訓点付きの本文では左右の読み仮名・送り仮名が手がかりになりますが、左下の小さな印だけを定義にはできません。白文には仮名自体がなく、漢字の用法と構文から判断します。

字代表的な読み接続の確認
未いまだ〜ず「ず」は未然形接続:未だ至らず
将・且まさに〜んとす「ん(む)」は未然形接続:将に行かんとす
当・応まさに〜べし「べし」は終止形接続(ラ変型は連体形):当に学ぶべし
猶なほ〜ごとし「ごとし」の前の形を訓点と構文で確認する
自作短文:未然形を確かめる

「未至。」を書き下し、動詞「至る」の活用形を示せ。

解答・解説

「未だ至らず。」=「まだ到着していない。」未を「いまだ」、至を「いたら」、未を「ず」の順に読む。「至ら」はラ行四段動詞「至る」の未然形で、「至れず」ではない。

構造を確かめてから音読する

  1. 主語・述語・目的語を探し、否定・受身・使役・疑問などの構文を確認する。すべての文に共通する句法の固定的な優先順位はない。
  2. 返り点・送り仮名に従い、返読区間と再読文字の読みを確認する。
  3. 書き下し文を作り、助詞や助動詞を含めて意味が合うか照合する。
  4. 正しい訓読と訳を確認して音読する。慣れた短文は白文でも読み、模範の訓読と照合する。
練習問題
  1. 「将伐宋。」を「将に〜んとす」の型で書き下し、訳せよ。

    解答・解説

    「将に宋を伐たんとす。」=「今にも宋を討とうとする。」「将(まさに)→宋(そうを)→伐(うた)→将(んとす)」の順。「伐た」は未然形。

  2. 「当学。」を「当に〜べし」の型で書き下せ。「学」の活用形も答えよ。

    解答・解説

    「当に学ぶべし。」=「当然学ぶべきだ。」「学ぶ」はバ行四段動詞の終止形。「べし」の接続を、「ず」「む」の未然形接続と混同しない。

確認クイズ

問1. 「不レ知」の漢字の読み順はどれか。

問2. 上中下点が付いた字を返読するときの順はどれか。

訓読の先へ——訳の足しすぎを点検する

書き下せたら、誰が何をする文なのかを現代語で言い直します。その際、日本語として必要な助詞を補うことと、本文にない出来事を補うことは違います。次の自作短文では、漢字・書き下し・訳を三列に並べ、意味が対応するかを調べます。

自作の白文書き下し現代語訳
客未至。客未だ至らず。客はまだ到着していない。
客不来。客来たらず。客は来ない。
客已至。客已に至る。客はすでに到着している。
自作短文:未実現と理由を分ける

「客未至。」を読んだ生徒が「客は道に迷って到着できない」と訳した。本文に対応する部分と、追加してしまった部分を説明せよ。

解答・解説

「未だ至らず」は「まだ到着していない」に対応する。「道に迷って」は理由の追加、「到着できない」は不可能の意味の追加で、いずれもこの三字からは決まらない。到着が未実現だということと、来る能力・事情や今後到着するかどうかを分ける。

  1. 述語を見つけ、動作の主体と対象を確認する。省略なら文脈に戻る。
  2. 否定・未実現・完了などが、どの述語にかかるかを示す。
  3. 訳中の理由・感情・時間を、本文のどの語から出したか点検する。
  4. 要旨問題では、各文の事実とそこから筆者が述べる判断を分けてまとめる。
訳の根拠を一語ずつ確認する
  1. 「客未至。」を「客は二度と来ない」と訳せない理由を、「未」の意味から説明せよ。

    解答・解説

    「未」は「まだ〜ない」という、その時点までの未実現を示す。「二度と」は以後も来ないという断定であり、未だけではいえない。

  2. 自作短文「客已至。」において「已」を訳から落とすと、どの情報が弱くなるか。

    解答・解説

    「すでに」という到着が実現していることの明示が失われる。「客は到着する」とだけ訳すと、これからの予定のようにも読める。

  3. 「客未至。」の「客」を目的語、「至」を「客を招く」と解釈してよいか。

    解答・解説

    よくない。この文では「客」が到着する主体で、「至」は到着することを表す。「招く」という別の動作や招く人物を補う根拠はない。

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