小説の精読——心情と表現技法

語り手・視点・描写を区別し、心情の推測を本文の根拠で支える。

この単元の目標
  • 作者と語り手を区別できる
  • 描写を根拠に心情の変化を説明できる
  • 直喩・隠喩・対句を区別できる

誰が語り、誰が見ているか

作者は作品を書いた実在の人、語り手は作品内で物語を伝える存在です。一人称の「私」も、そのまま作者とは限りません。三人称の語りでも、知り得る範囲が一人の人物に限られる場合と、複数の人物の内面が示される場合があります。「三人称=全知の神の視点」と決めず、誰の認識や思考が示されているかを調べます。地の文か会話文かという区分と、視点の区分は別です。

技法自作例見分けと効果
直喩不安が霧のように広がる「ように」などを用いて別のものにたとえ、不安の広がりを具体化する
隠喩胸の中は荒野だったたとえを示す語を使わず、荒野の印象を内面に重ねる
擬人法風が戸をたたく人間の動作を人間以外のものに与える
反復待った。ただ待った同じ語を繰り返し、待つ行為を強調する
対句彼は海を見つめ、私は山を見つめた対応する構文を並べ、共通性や対照を際立たせる

心情は「出来事 → 言動・内面の描写 → 変化」の順に追います。雨がやんだという描写だけから、人物が立ち直ったとは断定できません。情景と心理の関係は前後の言動も根拠に判断します。また会話は細かいやり取りを長く描くこともあり、「会話が多いほど物語時間が速く進む」とは限りません。

自作例文:言葉と行動のずれ

「『別に待っていなかったよ』と美咲は言った。握りしめていた切符を開くと、角が汗で柔らかくなっていた。相手が謝ると、ようやく肩の力が抜けた。」美咲の心情の変化を、二つの描写を根拠に説明せよ。

解答・解説

切符を握りしめていた様子から、相手の到着を緊張して待っていたと考えられる。謝罪を聞いて肩の力が抜けたことから、その緊張がほぐれたと読み取れる。「待っていなかった」という発言だけで無関心と判断しない。

練習問題
  1. 自作例文「私は扉の向こうの兄が何を考えているか分からなかった。」で、兄の考えを断定できるか。理由も述べよ。

    解答・解説

    断定できない。語り手「私」は兄の考えが分からないと述べており、この一文には兄の内面の内容が示されていないから。

  2. 「雨はやんだ。彼女は窓を見ていた。」だけから「彼女は悲しみを完全に克服した」と答える際の問題点は何か。

    解答・解説

    悲しみの存在やその克服を示す言動がなく、雨の変化だけから心情を断定している点。前後の根拠が必要である。

表現と読解の確認

問1. 「不安が霧のように広がる」の中心的な比喩はどれか。

問2. 人物の心情を説明する際に適切なのはどれか。

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