複素数平面と極形式

複素数を平面の点・ベクトルとして読み、積・商が「絶対値の積・商」と「偏角の和・差」になることを極形式で確認する。

この単元の目標
  • 複素数を複素数平面上の点・ベクトルとして表し、絶対値と偏角を求めることができる
  • 極形式で複素数を表し、積・商・べき乗を図形的に説明できる
  • ド・モアブルの定理を使ってべき乗や n 乗根を計算できる
📑 目次
  1. 複素数を平面に置く
  2. 極形式——大きさと向きで複素数を書く
  3. 積・商は「拡大+回転」
  4. n 乗根——偏角を一周分そろえてから割る

複素数を平面に置く

実部を横軸(実軸)、虚部を縦軸(虚軸)にとり、複素数 z=a+biz = a + bi を点 (a,b)(a,b) に対応させる平面を複素数平面と呼びます。複素数は原点 O からその点へのベクトルとしても読めます。絶対値が「原点からの距離」に、加法が「平行四辺形則」に、掛け算が「拡大と回転」に翻訳され、計算と幾何を結びつけられます。

z=a+bi  ⟺  点 (a, b),∣z∣=a2+b2  (原点からの距離)z = a + bi \iff \text{点 } (a,\, b), \qquad |z| = \sqrt{a^2 + b^2} \; \text{(原点からの距離)}
  • 実軸上の点は実数、虚軸上の点(原点を除く)は純虚数に対応する
  • 共役 zˉ=a−bi\bar{z} = a - bi は実軸についての鏡映(点を上下に反転)
  • 絶対値の性質 ∣z1z2∣=∣z1∣ ∣z2∣|z_1 z_2| = |z_1|\,|z_2|, ∣z1z2∣=∣z1∣∣z2∣\left|\dfrac{z_1}{z_2}\right| = \dfrac{|z_1|}{|z_2|} (z2≠0z_2 \ne 0), ∣zˉ∣=∣z∣|\bar{z}| = |z|
  • 距離は差の絶対値:2点 z1,z2z_1, z_2 の間の距離は ∣z1−z2∣|z_1 - z_2|

極形式——大きさと向きで複素数を書く

ベクトルの向きを表す角、すなわち実軸の正の向きから反時計回りに測った角を zz の偏角といい、記号 arg⁡z\arg z で書きます。極形式は「距離 rr と角 θ\theta」で複素数を書く方法で、同じ複素数でも直交形式 (a+bi)(a + bi) とはまるで違う顔を見せます。原点 z=0z=0 には向きがなく偏角は定義しません。偏角は 2π2\pi の整数倍を足しても同じ向きなので、この教材では −π<θ≤π-\pi < \theta \le \pi の範囲に取ります(これを偏角の主値と呼ぶ流儀もあります)。

z=r(cos⁡θ+isin⁡θ)=reiθ,r=∣z∣,θ=arg⁡z(r>0)z = r(\cos\theta + i\sin\theta) = re^{i\theta}, \qquad r = |z|, \quad \theta = \arg z \quad (r > 0)

🔍 加法定理から積の極形式を導く

  1. 単位円上の複素数を掛ける
    (cos⁡u+isin⁡u)(cos⁡v+isin⁡v)=(cos⁡ucos⁡v−sin⁡usin⁡v)+i(sin⁡ucos⁡v+cos⁡usin⁡v)(\cos u+i\sin u)(\cos v+i\sin v)=(\cos u\cos v-\sin u\sin v)+i(\sin u\cos v+\cos u\sin v)

    i2=−1i^2=-1 を使って実部と虚部をまとめます。

  2. 三角関数の加法定理を使う
    (cos⁡u+isin⁡u)(cos⁡v+isin⁡v)=cos⁡(u+v)+isin⁡(u+v)(\cos u+i\sin u)(\cos v+i\sin v)=\cos(u+v)+i\sin(u+v)

    角度を足す理由は三角関数の加法定理です。

  3. 長さの部分も掛ける
    z1z2=r1r2{cos⁡(u+v)+isin⁡(u+v)}z_1z_2=r_1r_2\{\cos(u+v)+i\sin(u+v)\}

    以下では eiθe^{i\theta} を cos⁡θ+isin⁡θ\cos\theta+i\sin\theta の省略表記としても使います。高校範囲の計算は三角関数の形だけで進められます。

例題1:極形式への変形

1+3 i1 + \sqrt{3}\,i を極形式で表せ。

解答・解説

r=12+(3)2=2r = \sqrt{1^2 + (\sqrt{3})^2} = 2。cos⁡θ=1/2, sin⁡θ=3/2\cos\theta = 1/2,\ \sin\theta = \sqrt{3}/2 はともに正なので θ\theta は第2象限ではなく第1象限の **θ=π/3\theta = \pi/3**。よって 1+3 i=2(cos⁡π3+isin⁡π3)=2eiπ/31 + \sqrt{3}\,i = 2\left(\cos\dfrac{\pi}{3} + i\sin\dfrac{\pi}{3}\right) = 2e^{i\pi/3}。

積・商は「拡大+回転」

極形式にすると掛け算の意味が一目瞭然です。絶対値は掛け合わさり、偏角は足されます。つまり z1z2z_1 z_2 は「z1z_1 を長さ ∣z2∣|z_2| 倍に伸ばして、arg⁡z2\arg z_2 だけ回転させたもの」。商はその逆操作(長さは割る、角度は引く)です。特に虚数単位 ii を掛けることは、長さを変えずに90度回転させる操作そのものです。

z1z2=r1r2ei(θ1+θ2),z1z2=r1r2 ei(θ1−θ2)(z2≠0)z_1 z_2 = r_1 r_2 e^{i(\theta_1 + \theta_2)}, \qquad \frac{z_1}{z_2} = \frac{r_1}{r_2}\, e^{i(\theta_1 - \theta_2)} \quad (z_2 \ne 0)

たとえば (1+i)/(1−i)(1+i)/(1-i) は絶対値が 2/2=1\sqrt{2}/\sqrt{2}=1、偏角が π/4−(−π/4)=π/2\pi/4-(-\pi/4)=\pi/2 なので ii。共役を掛けても (1+i)2/2=i(1+i)^2/2=i と一致します。原点以外の点 aa を中心に角 ϕ\phi 回すときは、いったん aa を引き、w−a=(cos⁡ϕ+isin⁡ϕ)(z−a)w-a=(\cos\phi+i\sin\phi)(z-a) として最後に aa を戻します。

例題2:べき乗の計算

(3+i)6\left(\sqrt{3} + i\right)^6 を求めよ。

解答・解説

3+i=2(cos⁡π6+isin⁡π6)\sqrt{3} + i = 2\left(\cos\dfrac{\pi}{6} + i\sin\dfrac{\pi}{6}\right)。ド・モアブルより 26(cos⁡π+isin⁡π)=64⋅(−1)=2^6\left(\cos\pi + i\sin\pi\right) = 64 \cdot (-1) = **−64-64**。

ド・モアブルの定理:(cos⁡θ+isin⁡θ)n=cos⁡nθ+isin⁡nθ(\cos\theta + i\sin\theta)^n = \cos n\theta + i\sin n\theta(n は整数)。正の n では積の法則を n 回繰り返し、n = 0 では両辺 1、負の n では逆数と商の法則を使えば確かめられます。べき乗・三角関数の倍角公式・n 乗根をまとめて扱える定理です。

n 乗根——偏角を一周分そろえてから割る

nn を正の整数、w=R(cos⁡ϕ+isin⁡ϕ)≠0w=R(\cos\phi+i\sin\phi)\ne0 とします。zn=wz^n=w では絶対値について rn=Rr^n=R、偏角について nθ=ϕ+2kπn\theta=\phi+2k\pi が必要です。したがって次の nn 個がすべての解です。k=nk=n 以降は同じ点を繰り返すので不要です。

zk=R1/n(cos⁡ϕ+2kπn+isin⁡ϕ+2kπn),k=0,1,…,n−1z_k=R^{1/n}\left(\cos\frac{\phi+2k\pi}{n}+i\sin\frac{\phi+2k\pi}{n}\right),\quad k=0,1,\ldots,n-1

解は半径 R1/nR^{1/n} の円周上に等間隔で並び、n≥3n\ge3 なら正 nn 角形の頂点です。w=0w=0 の場合はこの偏角の議論を使わず、解は z=0z=0 だけとします。

偏角の主値を答える問題では、計算で出た角が範囲 −π<θ≤π-\pi < \theta \le \pi を外れたら 2π2\pi の倍数を加減して戻すのを忘れずに。また「偏角 θ\theta と θ+2π\theta + 2\pi は同じ複素数」なので、nn 乗根のように答えが複数個ある場面では、主値だけ書いて締めないようにしましょう。
練習問題
  1. 次の複素数を極形式で表せ。(1) −1+i-1 + i (2) 2i2i (3) −3-3

    ヒント

    絶対値を求めてから、サインとコサインの符号で象限を確定する。

    解答・解説

    (1) r=2r = \sqrt{2}、cos⁡θ=−1/2, sin⁡θ=1/2\cos\theta = -1/\sqrt{2},\ \sin\theta = 1/\sqrt{2} より θ=3π/4\theta = 3\pi/4。2 e3iπ/4\sqrt{2}\,e^{3i\pi/4} (2) r=2r = 2、θ=π/2\theta = \pi/2。2eiπ/22e^{i\pi/2} (3) r=3r = 3、θ=π\theta = \pi。3eiπ3e^{i\pi}

  2. 1+i3−i\dfrac{1 + i}{\sqrt{3} - i} を求めよ。

    ヒント

    分母の極形式は 2e−iπ/62e^{-i\pi/6}。商の法則「絶対値は割る・偏角は引く」を使う。

    解答・解説

    2 eiπ/42e−iπ/6=22 ei(π/4+π/6)=22(cos⁡5π12+isin⁡5π12)=(3−1)+(3+1)i4\dfrac{\sqrt{2}\,e^{i\pi/4}}{2e^{-i\pi/6}} = \dfrac{\sqrt{2}}{2}\,e^{i(\pi/4 + \pi/6)} = \dfrac{\sqrt{2}}{2}\left(\cos\dfrac{5\pi}{12} + i\sin\dfrac{5\pi}{12}\right) = \dfrac{(\sqrt{3}-1) + (\sqrt{3}+1)i}{4}。実部・虚部ともに正で、偏角は 75°75° です。

  3. 方程式 z3=8z^3 = 8 を解け。

    ヒント

    8=23ei⋅08 = 2^3 e^{i \cdot 0} と極形式で書き、偏角側は 0+2kπ0 + 2k\pi (kk は整数) と用意してから 13\frac{1}{3} 倍する。

    解答・解説

    z=2e2kπi/3z = 2e^{2k\pi i/3} (k=0,1,2k = 0, 1, 2)。すなわち **z=2, −1±3 iz = 2,\ -1 \pm \sqrt{3}\,i**。どれも ∣z∣=2|z| = 2 で、偏角は 2π/32\pi/3 ずつ離れた正三角形の頂点をもちます。

確認クイズ(複素数平面と極形式)

問1. 複素数 −1−i-1 - i の偏角(主値 −π<θ≤π-\pi < \theta \le \pi)は?

問2. zz に ii を掛けることは、複素数平面上ではどの操作か。

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