統計的な推測の詳細

二項分布の正規近似、95%信頼区間の導出、仮説検定の考え方。

この単元の目標
  • 二項分布の正規近似が使える条件と標準化の手順を説明できる
  • 母比率の95%信頼区間を導出し、計算できる
  • 仮説検定の流れ(帰無仮説・有意確率・棄却)を説明できる
📑 目次
  1. 二項分布と正規近似
  2. 母比率の95%信頼区間——導出
  3. 仮説検定の考え方
  4. 練習問題

二項分布と正規近似

成功確率 p の試行を n 回行ったときの成功回数 X は二項分布 B(n, p) に従い、平均 np、分散 np(1 − p) です。n が大きくなるとこの分布の形は、平均と分散を揃えた正規分布にどんどん近づきます。これが正規近似で、離散的な二項分布の和(確率の足し算)を、連続的な正規分布の面積計算で置き換えられることを意味します。

X∼B(n,p),E(X)=np,V(X)=np(1−p)→n 大X≈N(np, np(1−p))X \sim B(n, p), \quad E(X) = np, \quad V(X) = np(1-p) \quad \xrightarrow{n \text{ 大}} \quad X \approx N(np,\ np(1-p))
  • 標準化: Z=X−npnp(1−p)Z = \dfrac{X - np}{\sqrt{np(1-p)}} は近似的に標準正規分布 N(0, 1) に従う
  • 標準正規分布では P(Z ≤ 1.96) ≈ 0.975、つまり P(|Z| ≤ 1.96) ≈ 0.95
  • 95% に入る範囲が ±1.96 標準偏差、98% なら ±2.33、99% なら ±2.58

母比率の95%信頼区間——導出

🔍 $p \pm 1.96\sqrt{\dfrac{p(1-p)}{n}}$ の導出

  1. Step 1: 標本比率の分布
    pˉ=Xnは 近似的にN(p, p(1−p)n) に従う\bar{p} = \dfrac{X}{n} \quad \text{は 近似的に} \quad N\left(p,\ \dfrac{p(1-p)}{n}\right) \text{ に従う}

    成功回数 X が B(n, p) に従うので、標本比率 pˉ=X/n\bar{p} = X/n の平均は np/n=pnp/n = p、分散は np(1−p)/n2=p(1−p)/nnp(1-p)/n^2 = p(1-p)/n となります。X を定数倍しただけなので、n が大きければ正規近似から pˉ\bar{p} も正規分布に従います。

  2. Step 2: 標準化して 95% 区間を作る
    P(−1.96≤pˉ−pp(1−p)/n≤1.96)≈0.95P\left( -1.96 \le \dfrac{\bar{p} - p}{\sqrt{p(1-p)/n}} \le 1.96 \right) \approx 0.95

    正規近似と P(|Z| ≤ 1.96) ≈ 0.95 を使いました。「標本比率は約95%の確率で真の p の近く ±1.96SD にある」ことを意味します。

  3. Step 3: 不等式を p について解く
    ∣pˉ−p∣≤1.96p(1−p)n⟺p−1.96p(1−p)n≤pˉ≤p+1.96p(1−p)n|\bar{p} - p| \le 1.96\sqrt{\dfrac{p(1-p)}{n}} \quad \Longleftrightarrow \quad p - 1.96\sqrt{\dfrac{p(1-p)}{n}} \le \bar{p} \le p + 1.96\sqrt{\dfrac{p(1-p)}{n}}

    これは「真の p から見た標本比率の動き方」。しかし現実には標本比率 pˉ\bar{p} は観測できても、知りたい p は不明です。

  4. Step 4: 視点を反転させる
    pˉ−1.96p(1−p)n≲p≲pˉ+1.96p(1−p)n\bar{p} - 1.96\sqrt{\dfrac{p(1-p)}{n}} \lesssim p \lesssim \bar{p} + 1.96\sqrt{\dfrac{p(1-p)}{n}}

    不等式を p の周りに読み替えます。誤差幅の p(1−p) は未知なので、標本比率で置き換える(p(1−p)≈pˉ(1−pˉ)p(1-p) \approx \bar{p}(1-\bar{p})、最大値 1/4 を使う近似も一般的)のが実用上の工夫です。

  5. 結論
    p±1.96p(1−p)np \pm 1.96\sqrt{\dfrac{p(1-p)}{n}}

    この区間が真の p を含む確率が約95%。「95%信頼度」の意味は、こうして作った区間を何度も作れば95%の割合で正しい p を含む、という頻度的な解釈です。

信頼度係数 z区間の幅の傾向
90%±1.64狭い——推定は精密だが外れやすい
95%±1.96標準的な妥協点(最もよく使う)
99%±2.58広い——ほぼ確実だが情報はあいまい
例題

無作為抽出した 400 人のうち 224 人が賛成だった。母比率 p の 95% 信頼区間を求めよ。

解答・解説

pˉ=224/400=0.56\bar{p} = 224/400 = 0.56、誤差幅 1.960.56⋅0.44/400=1.96×0.0248≈0.0491.96\sqrt{0.56 \cdot 0.44 / 400} = 1.96 \times 0.0248 \approx 0.049。よって **0.511 ≤ p ≤ 0.609**

仮説検定の考え方

検定は「帰無仮説 H0H_0: 差はない」を一時的に採用し、そのもとで観測データがどれくらい起きにくいかを測る手続きです。起きにくさの指標が有意確率(p 値)で、あらかじめ決めた水準(有意水準、ふつう 5%)より小さければ「こんなデータは偶然では説明しづらい」として H0H_0 を棄却します。棄却された対立仮説(差がある)を採ぶ判断をしますが、これは確率的な推論であり、絶対的な証明ではない点に注意しましょう。

  1. 帰無仮説 H0H_0 と対立仮説 H1H_1 を立てる
  2. 検定統計量を選び(例: z=pˉ−p0p0(1−p0)/nz = \dfrac{\bar{p} - p_0}{\sqrt{p_0(1-p_0)/n}})、H0H_0 のもとでの分布を考える
  3. 有意水準 α の棄却域を決める(両側 5% なら |z| ≥ 1.96)
  4. 実データから z を計算し、棄却域に入れば H0H_0 を棄却、入らなければ「棄却できない」
信頼区間と検定は裏側がつながっています。95%信頼区間に帰無仮説の値 p₀ が入っていれば、両側 5% 検定で H0H_0 は棄却されません。逆に入っていなければ棄却されます。

練習問題

練習問題
  1. サイコロを 600 回投げて 1 の目が出た回数 X は二項分布に従う。E(X) と V(X) を求めよ。

    ヒント

    p = 1/6, n = 600。

    解答・解説

    E(X) = 600 × 1/6 = **100**、V(X) = 600 × 1/6 × 5/6 = **2503≈83.3\dfrac{250}{3} \approx 83.3**

  2. 500 人を調査して 300 人が Yes と答えた。母比率の 95% 信頼区間を求めよ(小数第3位まで)。

    ヒント

    pˉ=0.6\bar{p} = 0.6、誤差幅 1.960.6×0.4/5001.96\sqrt{0.6 \times 0.4 / 500}。

    解答・解説

    誤差幅 ≈ 0.043 より **0.557 ≤ p ≤ 0.643**

  3. 標本数 n を 4 倍にすると、信頼区間の誤差幅は何倍になるか。

    ヒント

    誤差幅は n\sqrt{n} に反比例する。

    解答・解説

    1/4=\sqrt{1/4} = **0.5 倍(半分)**。精度を2倍するには標本を4倍必要とする「平方根の壁」

  4. 「コインは公平」という帰無仮説のもとで、200 回中 120 回表が出た。標準化した統計量 z を求め、両側 5% 検定(|z| ≥ 1.96)で判定せよ。

    ヒント

    p0=0.5p_0 = 0.5, SD =200×0.25/200= \sqrt{200 \times 0.25}/200 に注意(比率の z なら 0.25/200\sqrt{0.25/200})。

    解答・解説

    z=0.60−0.500.25/200=0.100.0354≈z = \dfrac{0.60 - 0.50}{\sqrt{0.25/200}} = \dfrac{0.10}{0.0354} \approx **2.83 > 1.96 で帰無仮説を棄却**——公平でないと判定

確認クイズ

問1. 二項分布 B(n, p) を正規分布で近似するときの平均と分散は?

問2. 95%信頼区間の「95%」の正しい解釈は?

問3. p 値が有意水準 5% より小さかったときの結論は?

📝 メモこの端末のみに保存
メモ欄はページ読み込み後に使えるようになります。